②ー31
ー31
『さぁ、今夜は呑もう』
葬儀を済ませてから、もあったが。
単純に日が合わなかった二人、今夜が日本帰国後の初飲み会である。
『杉本の奢りだから、約束したでしょ?』
とりあえず頷くも、特に覚えはないぞ?
まぁレイニーの一方的な約束なので、知らずも当然なのだが。
『じゃーまぁ、いつもの所に』
2人はタクシーにて居酒屋へと。
そこは2人が初めて呑んだ居酒屋であり、だからこんな告白をするには相応しい場所であり。
レイニーは少しだけ緊張感に包まれつつ、
なんと切り出せばいいのかを、思い悩む。
『グラスを諦めさせるのが、今日の難題だったのよね~』
2人が呑みに行くと知るや自分も参加させろと駄々っ子となったグラス。
まったく、困った同居人だわ。
ロシアでのホテルから始まり、東京での暮らしと。
2人は同居人として共に過ごしている。
対面的には怪人を監視下に置いていますとなり、
内面的には、…なんだろう?
人間と怪人の新たなる展開を探求中、とかになるのか?
『グラス、日本に帰ってから変化無いの?』
お楽しみは帰国してから…含みがあったから、少し不安だったのに。
『陽気そのものよ、出ていく気配すら無いわ』
迷惑そうではない、ならばこの話はここで。
今回の言うべき話題、早く済ませたいけどまだ勇気もない。
もう少し、お酒進んでからにしよう…
レイニーは、酒に頼ると言う大人の一番ダメな部分にすがる。
思ったほど、酔えない。
顔は紅くなれど、心のどこかは完全に素で、
その事ばかりを考えている。
切り出そう、そうしなければこのまま時間を浪費させるだけだ。
『レイニーなら、直ぐに見つかるよ、新しいペトレンコ~』
有りがたい、杉本からのスルーパス。
この機に便乗し、吐き出してゆく。
『…そのペトレンコの事なんだけどね』
私が、何かをした訳ではない。
だから筋違いである、しかし言わなければ成らない気がする。
『怪人化して死んだ日と場所、ほぼ同じなのよ』
誰と?
酔っぱらい途中の杉本には入ってこない。
『佐々岡 哲夫…』
聞き覚えの…どころか毎日忘れたことはない名前。(たぶん)
『そこで、その名前か…』
頭の回転の早さなら隊で2位であろう杉本(1位は当然の私 byレイニー)
恐らく、感付いただろう。
『…裏取りも?』
その目に潜むものが何かまでは読み取れない。
だが今であると、レイニーは頭を下げた。
『ごめんなさい、私の彼が、貴女達の未来を、奪ってしまった…』
なぜ貴女が謝るの?
と思いつつもそれを示す行動に出れない。
杉本は一筋だけ涙を流した。
そしてその行為で呪縛が解けたかのように、言葉を。
『貴女から謝罪を貰っても、何も感じない』
そらそうかもしれないけど…。
杉本は笑う、頬に涙の線を残したままに。
『でも、お陰でね、次に進める気がするの
』
始まりがあれば、今日が終わり。
今夜からは、夢を見ることも妄想することも、少しづつ減るかもしれないな。
『ありがとうレイニー、やっぱ貴女は…』
言いかけて止めた、ちょっと恥ずかしい。
『何?大切な親友だってなら、歓迎するわよ?』
日本人とは根本が違うみたいだ。
恥らいって言葉、日本でしか使わないのかしら?
『まぁ、呑みましょう』
答えをはぐらかすのは日本人ならではだな…と思いつつ、レイニーはジョッキを空にしてゆく。
ようやく酔えそうだ、自己満かもしれないけど、ようやく謝れた。
『てか貴女もそろそろ、脱ペトレンコよ』
そこは大きなお世話だよ、と思いつつ…グビリ。
『で、ブルーの選抜、やるんか?』
小杉が普通の姿に戻れる時、それは開発室室長である倉橋の前だけ。
だが、そんな相手にも答えられないことはある。
秘密とかではなくて。
『いや、まだ上が判断してなくてさ』
何と何を迷っているのだろうか。
まぁ、想像はつく。
川端は本当か嘘か、そんな所だろう。
それを知ったる倉橋、繋ぐ。
『カウントしなければいいんだ、期待しすぎると痛い目にあう』
ごもっとも、である。
やはり普通に選抜を行うに限る。
それで組織は納得する、近道は無いのだ地道に行こう、っと皆が足並みを揃えてくれる。
(杉本も年齢があったから、納得された風潮あり)
『そもそも、青色に治まるガラでもない』
更なるごもっとも。
ロシアで言ってたんだ、今の赤は杉本が引退するまで杉本のものだ、とか。
『だから別の舞台を用意すればいいんだよ、ベニスゴールドとかさ』
倉橋くん、それイケるよ…と思いつつ焼酎グビリ。
『一旦ね、アメリカに帰ろうと思うの』
親友からの突然の告白、でも一旦だよね?
『イエローを、やめる?』
牧野が恐る恐る聞く。
その返答を、この幽玄の間に滞在するメンバーは耳を大にして、聞き入る。
『言い出しっぺだしさ、進めたいの全人類ベニス化』
誰かの遺志に…とかはない、ただ自分の信じた道を進みたいだけだ。
『だからまずはアメリカで、ベニスの事を正しく伝えたい』
そんなの、何時戻れるか分からないじゃん…。
『アメリカで、ベニスを始めるって事?』
レイニーは首を振った、それは横に、つまりは否定。
『貴女たちが望もうが望むまいが、私は東京支部所属のベニスイエローよ』
すぐに戻るから、ちゃんと空けといてよ黄色の椅子。
そういう事らしい。
ならば笑顔で送り出そう。
無用な後ろ髪を引かれずに済むように。
『帰って来てもいいけど、送りには行かないよ』
自称ベニスブラック、貴方に来て欲しくはそもそも無いです。
『私が代表として送りに行くから、後の皆は出撃待機ね』
前言撤回するブラックを黙らせて、この朝礼は終了となる。
3日後、彼女はアメリカへと帰郷する。
その寂しさったら、ホント…。
人間と怪人、何が違い何が同じなのだろう。
『グラスってさ、人を食べた事ないの?』
今、食卓を囲む二人。
食べているのは杉本の手料理、彼は美味しい×2とバクバク食べてくれる訳で。
だから食べなくてよいとかも無さそうだし、
舌も同じなので同居人として最適なのは事実なんだけど。
やはり、ふと不安になる時がある。
彼の目的が何かあるのでは?と。
そのひとつが、食べられちゃうって不安。
グラスは箸を休め、杉本を見る。
『食べたこと無いよ、食べられるだろうけど』
世界は弱肉強食、強者が弱者を捕食するのは当然の流れ。
まぁでも前半は聞けて良かった、後半は聞かなきゃ良かった。
『こんな美味しいもの、作ってくれるのに、食べるワケない』
顔に出てたかな?
不安になったのが。
グラスは何より…と言葉を足してゆく。
『私は杉本と、一秒でも長く一緒に居たいんだ、食べるワケない』
真面目な視線、嘘でないと簡単に分かる。
まったく、光栄ですよ。
人間だったら、尚良かったけどさ~。
『そう、ならいいの』
私もです…は言わない。
まだ自身の感覚が、理解出来かねるから。
怪人と一緒に居たいなんて、親泣くわ。
最近、毎晩、二人は抱き合って眠る。
それ以上の何もないのだが、すっかりそれが恒例となり、それを止める気配は互いに無し。
恐らく、その先は体の形状等もあり、叶わぬのだろう。
杉本はそう理解し、今夜も彼の温もりと共に、眠りにつくのだ…。
『貴女が教えてあげれば良いじゃない、人間式を、手取り足取りさ』
空港へ向かうタクシー、後部座席の2人は会話する。
『流石にそれは…抵抗が…』
ふーと溜め息のレイニー、そんな事言ってたら何時までも平行線だ!
『彼に色々として貰いたくないの?』
何を真っ昼間から…そして何を赤くなるのだ私は…いい歳してからに。
『…せ、せめてキス位は…とか?』
同居生活も約1ヶ月、情だか愛だか不明ながら、やはりかなり寄ってる。
何してんの?の言葉が虚しく空を舞う。
『私は、進めばいいと思うよ、ダメなら止める…それだけよ?』
簡単に言うなよ…とか思いつつ、悩むだけ無駄なんだなと。
『自分に素直に、それが美しく生きる秘訣~』
あら、自らは美しいと自画自賛ですか。
まー間違いじゃないけどさ!
『はい、到着です~』
少し軽めのドライバーの鼻から抜ける声にて知る、羽田空港着を。
『さ、荷物半分持つよ』
レイニーは去ってゆく。
再会というエキスが無ければ、辛いだけの時間。
また直ぐに会えるんだから!っと、心に刻み続けなければ成らない。
じゃないと、泣いちゃうから…
『搭乗まで、後1時間位か』
二人は席を探し、そこに腰を下ろす。
大きな窓にて滑走路が良く見える。
なかなかに、絶景。その筋の人なら尚更。
『これで最期とか、許さないよ?』
戦う事、それは止めれない。
だから杉本には、命のピンチが必ず訪れるだろう。
『まぁ、許して欲しくってもね、死んじゃってますよん』
レイニーも本当は行きたくない。
彼女の側に居たい。
だが、進む事を選んだ。もっと先の未来まで、一緒に過ごせるように。
笑顔で溢れるように。
二人はゆっくりと同時に外を見る。
そして同時に手を絡ませて天へと伸ばし結ぶ。
『またね、レイニー』
『あぁ、またな杉も…』
爆音、それによる体の硬化。
そして眼前に広がる炎と残骸。
飛び立ったばかりの旅客機は炎上分裂し落下、周囲の悲鳴と共鳴。
理解出来ない環境の変化、だが見えた。
いや、目に入らざるを得ない。
『見ろ杉本!』
結んだままの両腕を大空へと突き出す。
その先にある…地球上には存在しない…円形の浮遊物の…大群。
その浮遊物が、何やら光る閃光を放ち、周囲が炎に染まっていくではないか。
『レイニー!』
『あぁ!先ずは一般人の避難だ!』
天より舞い降りる物全てが、神様の仕業なんて事はない。
これは、どちらかと言えば悪魔の仕業。
人類の根幹を揺るがす程の所業。
去るか、滅びるか、はたまた…
~ 第二部 完 ~