②ー30
ー30
小雨、何も今日降らなくてもいいじゃん、と思う。
普段は真っ赤、今日は真っ黒な衣装に身を包んだ杉本は、
天からの飛来物を今日は呪いつつ、会場へと向かう。
途中、レイニーと合流。
相変わらず何を着させても良く似合う。
まぁ、誉め言葉は不要なので、本人に伝える事はないのだが。
そしてそのままの流れで牧野と合流。
彼女だけは2度目のこの日、仲間の家族と会う日。
本当に、こんな日が来るならもっと早くに初めましてを終わらせとけば良かったのだ。
今更だけど。
男性陣はお手伝いとかもあり、先行しているハズなので、
3人での会場入りとなる。
ベニス戦隊の殉職者はの葬儀は、基本的に実家で行われる。
(実家不可理由ある場合は、提携している葬儀屋にて)
辻本の実家は千葉の市川市、浦安の近くの住宅街に存在している。
両親と妹、ありふれた4人家族であった。
『…結構な距離、通ってたんだな』
何だかんだて、約1時間半。
首都圏ならそんなもんだ、ってのは通ってる者の台詞。
近場に住む彼女等に、その感覚はない訳で。
『…あそこね、どうやら』
葬儀中の家は見つけるが安し。
最後の別れが確実に出来るよう、見つけやすくしてあるのだろうか。
確かに3人は、(この街も)初めてなのに迷うこと無く到着する事ができた。
白と黒の幕に被われた実家、遠くからも分かるように案内看板があり、
地図無くとも辿り着ける葬儀会場。
でも、辿り着きたくない人はどうすればいいのか。
辿り着いてしまえば、現実を突き付けられてしまうというのに。
…受け入れろと言う事か、現実は残酷なのだと。
『…来たか、早かったな』
受付に立つ小杉統括、会社代表としてその場に。
『えぇ、迷わせてもくれなかったので』
そうか…と聞き流し、記帳を促す小杉。
(興味ないから流した、とかではなくて)
ん?と杉本は気付く、知った名前に。
『出羽竜之介?…って、あの?』
そうあのだ、と指し示す小杉。
一度会っただけだか、マスコミ関係の情報提供にて、容姿は理解している。
確かにあの、だ。
なぜここに?の疑問はある。
派遣させた責任者だから、があったとしても。
わざわざ本人が出向くのか?
公務ではなくて、私用として。
(SPらしき人物1名あれど、特に厳重な警備等なし)
情報が漏洩してたなら、命を狙われたりするかも、なのに。
(どんな大人物にも不平不満を抱くものは居る)
『なぜ居るんだコイツ…って顔、好きじゃないぞ?』
そんな顔してたかしら?
と思いつつも、まさかの超能力者?!とかも考える。
だって、この人が号令を出さなければ、彼は…
でも出さなければ全人類がフレダスト人化したかもしれない。
何事にも犠牲はツキモノ、か。
そんな言葉で纏めたくはないけれど。
『私にも、義務がある。送り出した者として』
遺族にも、私の命令で彼は…的に話してるのだろう。
上に立つべき、人間か。
非を受け入れた上で、その謝罪も補償も全て含めて最大限の対応を行う。
簡単に、出来るもんじゃない。
特に昇り詰めた者には、その感覚すら消え失せるだろう。
それを残したる主導者、か。
杉本は大好きな空想モードに突入しかけたが、ヤメ。
今日ではないだろ、と。
女子3名は順にペコリと頭を下げて、出羽の前から立ち去ってゆく。
話すことはあるけど、順番で言うなら最後。
先約があるから、そこへ向かうのだ。
『皆さんが、ベニス隊の?』
辻本の母、名前は知らない。
必要不要ではなく、そんな話すらした事がない。
『貴女かな、牧野さんて』
辻本は母には何でも話すタイプだったのだろう。
マザコンとかの類いではなくて。
『目元がね、あの子のタイプよね』
牧野は下を向いた。
彼の気持ちに応えていた訳でもないのに、どんな顔をすればいいのだろう。
『ありがとう、あの子の心を満たす存在でいてくれて…』
林を失った時とは違う感情が込み上げる。
もしかしたら、母となったかもしれぬ人の温かみが、身に染みてゆく。
『さ、会ってあげて…』
牧野の肩を導き、奥へと。
皆もそれに続く。
棺に収まった辻本、滅多に見せなかった笑顔同様に、相変わらずの無表情である。
…当たり前だが。
その棺の側に2人の姿も。
ベニス戦隊、最後の集結である。
5人とも、涙はなかった。
散々泣いたし、それなりに時間も経過した。
哀しみは越え、今は虚しさに浸る時間。
何故、死ななければならなかったのか、自問する時間。
『みんな…』
杉本が合図する、リーダーとして、現場での責任者として。
部下を母の前へと集める。
『レッドをやらせて頂いている杉本です』
深く頭を下げる、それに合わせて4人も。
『今回は、我々の力不足で、大切なご子息を、この様な事に…』
再び、頭を下げる。
今度は上げれない、そのまま言葉を繋ぐ。
『申し訳ございません』
謝罪、それが今回の最優先。
彼にも生きれる可能性はあったはずだ。
それを奪ったのも、頼ってしまったのも、見捨てたのも我々。
今出来るのは、謝罪のみ。
『頭を、揚げて下さい』
気のせいか声が震えている?
杉本はゆっくりと顔を揚げた。
そこに間髪いれず飛び込む平手打ち。
憎しみやら哀しみの混在した、キツい一発。
『私は貴方を許せません』
クルリと振り替える母。
その背中に、語るべき本質がある。
『これで最後にするんですよ、殉職だなんて言う馬鹿な言葉を使うの』
杉本は歯を食い縛る、そうでなくては泣けてくる。
人間として上位にある女性からの言葉、
その中に詰め込まれし想いの深さ。
息子を失った哀しみより、これからのベニス戦隊の為に演じる姿。
私はやらなければ成らない、この想いに応える為に。
『はい、キモに免じて…』
もう一度、頭を下げた。
見ているいないは、関係ない。
『…最期、あの子立派だった?』
頭の上からの言葉、それをその状態のまま返す。
『はい、我々は彼に救われました』
『…好きな人と大切な仲間を護って…』
去ってゆく母の最後の言葉は、『自慢の息子です』。
その自慢を、語るだけの存在にしてしまった。
その罪を、償う。
それは戦い続けること、そして全てにおいて勝利し続けること。
それが償い、辻本家に対する最大の。
杉本は頭をゆっくりと揚げる。
それに合わせて、後ろのメンバーも揚げてゆく。
『会社に戻りましょう』
葬儀は途中かもしれない。
だが、我々に必要なのは送り出すことではないのだ。
この1分で命が変わるかもしれない。
だから戻る、1分を争える立場でいれる様に。
5人は、会場内に響くすすり泣きの合唱に誓うのだ。
こんな未来を、2度と…。