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②ー27

ー27


前後よりの合計217回の突き、その全てを受ける最期のフレダスト星人。

瞬きの間に始まり、幾重もの効果音を掻き鳴らしつつ、過ぎ去る時間。

全てを弾いたか、受け流したか。

はたまた硬化虚しく突き立てられたのか。

2重の炎による目眩ましにて、確認不能である。

まぁ、当人達は分かっているのだが。(特に受ける側)

もし片面だけなら、そうはならなかっただろう。

2人は先程と同様に、合わせ鏡方式にて奥義を放っている。

つまり、同じ箇所を前後から挟まれ押されているのだ。

1方向だけなら受け流せたかもな突きも、2方向から同時にサンドされた力は倍加され、

突き立てられてゆく、幾重にも。

口から流れ出る青き鮮血と、各所に広がる痛みという感覚。

…だからといって消えない、この心に根付く憎悪は。

奴等に鉄槌を与えるまで、終われない。

終わる訳にはいかない。

シューレの掌に今も残る最愛の人の温もりと、瞳に残るその最期。

力が欲しい…この者達に打ち勝つチカラ…

シューレの中に芽生えていたモノが、あの日の仲間にあるのなら。

少なからず15日間で終わる戦争では無かっただろう。

この身体の一分にさえ残されていたなら、前だけを見、敵を葬る為に最大限を尽くす。

断固たる決意、それが今、シューレに宿る。

地球暮らしの恩恵か、クラールに感化された何かか。

答など、不要。

全身を穴だらけにされたシューレ、自由の利かぬ右足を極限まで軟化させる。

それにより揺らぐ身体、ぶれる標的。

完全なるモノが有り得ないように、2本のベニス刀が寸分違わぬポイントには来ないハズ。

それを待ち、それに合わせて身体を捻る。

そしてそのまま回転、右足を捻りまたも貯める。

狙うは現在のレッド。

貯めたパワーを解放させ、その遠心力にて軟化させた腕を伸ばすのだ。

ゲートを使いつつ。

タイミングは分かっている、最後の斬撃、その振りかぶり。

そこに合わせる、極限まで硬化させた手刀にて、心臓を貫く。

それで終わる、一つの物語が。

『斬!!』

爆発の時、シューレは何も考えていなかった。

毎日、頭の中を巡っていた過去と現在と未来の図式、今全てを忘れ没頭出来る悦び。

それは感謝、フレダスト星最期の日より無くしていた感情。

それを甦らせてくれた事に対し、謝礼をしなければならない。

それが奪うこと、人としての未来を。

理不尽?いや戦いに生きる者同士として、それは最大の謝礼。

シューレ渾身の一撃、ゲートを潜り杉本へと届けるのだ。

感謝の言葉を手刀に託して。


人間とは、成長する生き物である。

身体の成長だけではなく、人としての成熟、そしてレベルアップ。

一般的なのは、努力の先にある成長と、失敗から学ぶ場合と。

だからあの失敗がなければ、想像も無かっただろう。

ここで反撃されるって事に。

でもクラール様々で想定内となった訳である。

高い授業料、理想の学び場。

思えば突けたハズだ、同じ人間、身体の構造を知り尽くしたアカデミー教官、

一撃で杉本の命を奪えたはずだ。

彼はそれをしなかった、生死は本人の運命に委ねるとばかりに。

仲間が居なければゼロだった生への可能性、だが仲間はそこに居て、薄かった生の確率を引き当て、彼女は生き残る。

それは運命、死ぬべきではないという強い意思。

杉本はジャンプし、天へと舞い上がる。

同時にその足下を通過してゆく感謝の手刀。

貴方から感謝される覚えも無い、ので頂戴する言われもない。

だがその存在の全てを賭けたる攻撃が、看破されたとかでもないのに、

呆気なく回避されてしまう時、否応なしに感じる。

生死の分岐点を。

杉本には未来を、そしてシューレには安らかなる終末を。

それを示した分岐点、些細な違いで折れ曲がってゆく。

この流れを止める事はもはや、叶えられぬ。

杉本はジャンプしつつ終極の刃を下へと。

ジャンプする事により生まれた時間、有意義に使いましょう。

『ベニス…』

川端が居るから規則通り…そんな意味ではないのだが。

杉本はフルコーラスにて、その技を、その想いを、彼へと届けるのだ。

『…スプラッシュ!』

天より舞い降りしモノは神でも悪魔でもない。

舞い降りしは紅のレッド、長き旅を終わらせる案内人。

終わらせる、は違うかもしれない。

救い主、救世主、シューレにとって重荷を降ろせる待ちわびた時間。

まぁ、私が救世主なんて、片腹痛いけど(by杉本)

前後から介錯の刃に挟まれしシューレ、

身体の奥に隠れし水晶まで届く剣劇にて、

野望潰える。

それは2人が意図して狙ったとかではない。

むしろ意図せず外していたハズなのに、シューレの攻撃による体勢変化により、命中する。

運命と言うのみで、片付けれる話でもないのだが、

そういう類いの話となる。

パックリと裂かれた胸と背中より、吹き出る青き鮮血。

そのしぶきに押されるように、シューレは地面へと倒れこんでゆく。

何時しか解かれた結晶の呪縛と相まって、それは達成されてゆく。

…不思議と笑みが溢れる。

止めて欲しかったのは、クラールではなく自身であった事に、気付いてしまったから、か。

もし、ここに居る者たちが、彼の内側を気にしなくて、

純粋なる悪であるとの認識があれば。

ここは歓声なり歓喜なり、起こる場面。

だが、皆は気付いてしまっている、

悪には悪なりの事情、彼には彼なりの正義があったことを。

だから見守るのみ、その者の最期を。

杉本は血だらけ(青色だらけ)となったシューレの横に立つ。

そんな姿で笑顔でいれる、…そういや私もそんなだっけ?

杉本の中に、芽生える感覚。

それをそのまま、実行してゆく。

『グラ~ス』

お呼びである、その理由も分かる。

グラストゥーはゆっくりと頭を掻きながら、愛というカテゴリに治まる相手を凝視する。

『本当の本気ってなら、考えなくもないけど、どの位?』

杉本は凝視を全力で迎えつつ、返す。

『100%のマジよ』

違う未知を与えるというのか、それが甘い考えとかの議論は要らない。

全てを救いたい、それだけの事だ。

『…無駄ですよ、申し出は有り難いのですが』

不要ではなくて、無駄と?

『この水晶がコアです。ここが傷付くと、何をしても治りません』

そんなの、やってみなくちゃ分からない。

杉本は目で合図する、やってよ、と。

不満そうなグラストゥー、何やら閃く。

『見返りは?』

こんな口約束意味を成さん!っと即答。

『グラスの言うこと何でも聞くわ…1個だけ』

あれ?ニヤケ仮面また付けたの?なグラストゥーの顔。

そしてそのまま指を回す。

温かなるモノに包まれ、なんとも懐かしき感覚。

奪うばかりで助け合うこと無かったかな最近は…。

切断された箇所が元に戻るなんてないが、胸の傷は塞がり、見た目は治った様子だが。

『私がゲートを開けるように、居たのですヒーリングの能力保持者が』

その者の名はプンティ、シューレが愛した唯一の女性。

『彼女は何度もトライしました、仲間の水晶を治すべく』

そして最期は自分自身の水晶を治すべく、何度も温かく包み込んで…

『彼女、美しかったです。全身綺麗で、まるで生きているかのようで…』

その数秒後に塵となり、この世から消え去ったのだが。

『そんな訳で無駄です、この水晶は治せません』

見た目が普通だから簡単には信じられない。

だがそれは、一回は一回だからと離れていくグラストゥーが肯定する。

治せる代物ではない、と。

壊れたままである、と。

『…贅沢を言うなら、フレダストの地で果てたかった。』

それは贅沢だ、て突っ込みたいが我慢するグラス。

本当に、にんげんっぽくなったものだ、と自画自賛。

『それは叶えてやれぬが、せめて9人の仲間の元に』

川端は知っていた、埋葬されたる場所を。

まぁ、遺留品を集め埋めた場所を、だが。

『…貴方を延命させたのは、悪い事では無かったのですかね』

こんな事の為に大好きな睡眠と食事を奪われたとか、そりゃあんまりだ。

『…お願いします、川端さん』

全ての憑き物が取れた表情、本来の平和的なフレダスト星人の、その姿。

『…奴等は必ず訪れます、どうか私の、私達の…』

川端は目で合図する、7代目なんか言えと。

杉本はポニーテールとなっていた髪をほどき、最近少し伸びていたなと感じつつ、空気にさらす。

そして気持ちを込めて、言葉を繋ぐ。

『我々は、人類の為に戦うだけ。申し訳ないけどフレダスト星の復讐の為には戦えない』

杉本はシューレの横に方膝にて腰を下ろす。

シューレも彼女の言葉の続きを静かに待つ。

『だから、余分に1発殴る位しか出来ないけど、それでもいい?』

シューレは笑った、今日イチの最高の笑顔で。

『えぇ、それで十分です』

時は来た、満ちたとも言える。

シューレの身体は小さな音を立て、消滅してゆく。

そこに言葉は要らない、十分に語り合った。

これ以上は無い、これ以上は要らない。

シューレは笑顔のまま、生涯を終えてゆく。

皆の願い、終焉の時は笑顔で果てたい。

それを体現したる最期のフレダスト星人。

杉本は立ち上がり、その場を離れてゆく。

全ては終わった、後は残された者が繋いでゆくのみ。

『さぁ、統括様に連絡ね』

杉本は自身がなぜ泣いているのかを知らない。

別に、知りたいとも思わない。

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