②ー25
ー25
物語には始まりがあり、同等に終わりがある。
彼女等がロシアに来て数日、総理大臣専用機で降り立ったあの日から始まり、
今終わる。
それは望んだ結末か、望まざる結末か、答えは各々の中にあり、誰にも強要される事ではない。
ベニス戦隊として、この地に降り立った6名の内5名は、望んでいなかった結末。
6人で終わりを迎えるはずだったのだ、一件落着という高笑いと共に。
だが、これが現実であり覆らない事実であり。
彼はもう、戻らないのだから。
そして彼女も。
愛する人と旅立てたから良い?
残された者は思わなくとも、当人はそれでご満悦かもしれない。
当人が満足ならそれでいい、の言葉で収まる話。
…願わくば彼も、満足の内に旅立っていたらと。
愛する人に抱かれて、安らかに…。
『杉本!一気に行くぞ!』
二人にしか完成版は披露できない、それを同時に放つ。
二重ロックにて、奴を封じ…れる?
中に閉じ込めてもゲートで逃走出来るんじゃないの?
『やってみねば分からぬ!』
あら、行き当たりばったりな初代様だこと。
まぁ、確かにやってみれば分かるんだから、と彼に合わせる7代目。
『封・燐・果・斬!!』
先程、同時に出し合ったのだ、タイミングはピッタリである。
『川端さん!上!』
牧野がとっさに叫んでいた。
技発動の直前に、消えたシューレは川端の頭上へ瞬間移動。
そしてそのままパンチの乱舞を浴びせる。
無言、それが意味するもの。
シューレも生き残る為に戦っているのだ。
相手を葬る以外、自らの生は無し。
だから奇襲をかける、いの一番に倒すべき相手に対して。
パンチの雨を降らしつつ、シューレは思い出していた。
フレダストが染まった日の事を…。
地球にベニスの火が灯る前の話。
遥か宇宙の先にある、フレダスト星。
総人口2億5000万人と少し、大地の半分を水分と森林に覆われた惑星であった。
多少の種族の違いはあれど、フレダスト星人の基準は代わらず、皆皮脂の変化を得意としていた訳で。
そんな彼等は基本的に好戦的な種族ではない。
戦いに特化した能力を保持していようとも、
シューレの様にゲート生成等の特殊能力を所有していようとも、
それを自らの欲の為に使用する者は居なかった。
だから種族間の争いもなく、犯罪等も無く、事故以外で亡くなる者も無く。
永遠に続くとも思われた恒久なる平和。
…それが突然絶滅の危機にさらされるとは、想像も無かった訳で。
【フレダスト最期の15日】、シューレはタイトルを付け、クラールに語り始めたそうだ。
その時の表情が、クラールを走らせた原因の一つ。
地球にも訪れる最期の日を、回避する為もあるが。
それは復讐である。
彼の怒りと無念、そして哀しみ。
全てを含めた感情が、復讐心となってシューレの根本を握り締めて離さない。
それを解放させてやりたいと思ったクラール。
彼と共に歩み、そして今に至り、命を燃やし尽くした。
シューレにとってクラールとは何だったのか。
彼にグラン・ドレスを放ったのだから、仲間では無かったのか?
いや、仲間だからこそ彼の変化に耐えられなかったのか。
答えなんて、きっと意味無い。
シューレの中にしかなく、それは語られる事が無いのだから。
晴天の空を埋め尽くした【奴等】の宇宙船。
その要望は単純にして明確。
【この星を去るか、滅びよ】
到底、了承出来る話ではなくて。
好戦的であろうがなかろうが、戦いを選ぶ。
そして、次々と消されてゆく。
皮膚の硬化をモノともしない奴等の攻撃と、
一切の情状酌量の余地無し作戦にて、消え去ってゆく。
シューレの眼前から。
彼のゲートが、今と同等位にチカラがあれば、もう少し結末は違ったかもしれない。
が、復讐心を糧に生きる前のシューレには、
種族を救う事は叶わず。
昨日まで共に歩んだ仲間さえ、救えず。
自分の身を守るので精一杯であった。
救えなかった仲間の中に、彼の愛した女性が居たのだが、
それはクラールも知らない。
語る予定も無い、彼の胸の奥に眠り、生き続ける。
シューレ最期の時まで共に。
『奴等の宇宙船だ、乗り込むぞ!』
シューレと行動を共にしたる数十名のフレダスト星人、共闘し奴等の宇宙船奪取に成功する。
もはや広大な森林も焼け落ち、美しかった湖も汚された。
もうこの星は死んだ、そう思わざる得ない状況。
彼等はこの星からの離別を選択し、それを達成させたのだ。
残念ながら説明書の類いなど無い。
テキトーにボタンを押し、嘆願し、浮上。
『これ、何処に行くんだ!?』
『そんなのこれに聞いてよ!』
フレダスト星人の男女比率は5対5。
それすなわち造られ管理されているからである。
総人口も減らば増え、減らねば増えぬ。
全ては地下100mにあるフレダスト星人生成管理炉にて調整が成されているのだ。
シューレが嘆願し叶わなかった生成管理炉の再現。
もっとも、体験見学会で一通り見ただけの知識では、再現なんて夢物語だったのだが。
フレダスト星脱出御一行様の中に、この生成管理炉勤務の【トペスル・フレダスト・コンペン】が居た。
シューレは彼が居てくれるなら、フレダスト星の再現は可能だと目論んでいた訳で。
同時に愛すべき女性【プンティ・フレダスト・ババス】と共に行けるのだから、
何も不安等ないのだ、と。
機体がフワリと空に浮かび、一気に高速運転を開始してゆく。
『…自動運転? …宇宙に出るんじゃないの??』
フレダスト星内を移動する機体、その目的地は奴等の作戦本部か?
『…このまま、もし本部に乗り込めば、大元を?』
確かに殺れるかもしれない、奴等には味方と思われているハズだから。
『ほぼ全員が、特殊能力保持者なんだ…絶対殺れる!』
今となっては味方の誰が発言したかまでは覚えていないが、
とりあえずシューレではない。
彼は最後まで、逃走を推していたのだから。
結論として、彼等は敗北し、残されたのは半分以外(11名)であり、
そして目的地は本部ですら無かった。
(敵主力部隊の駐屯地と思われる)
シューレはその時、愛する女性プンティを失ったのだ。
悲しみとか辛さとか、押し寄せる何かに勝てず、彼は大粒の涙を流した。
シューレ最後にして最大の大泣きとなる。
そこに悲しみの感情は薄いのだが、生成管理炉勤務のトペスルも、この時命を落としている。
やはり行くべきでは無かったんだ…
後悔とは、常に終わってから訪れる為、本当に無意味な思考と時間になるのです。
傷付いた宇宙船と11人のフレダスト星人が地球に流れ着いたのが、約80年前の事。
シューレの120年の苦悩と80年の孤独。
簡単に受け入れる事など、出来る訳もなく。
『ぬりゃりゃりゃ~!』
全て見えてるの?
ばりにパンチを刀で弾いていく川端。
そして反撃も加えつつ、追い返すのだ。
…我れらの男性陣も、あれ位に逞しければ…とか、思ってみたり杉本。
『…私はね、反対したんですよ、貴方の怪人化に』
昔から、反対した事が悪い方向に進む傾向にあるシューレ。
今回もか…とヤレヤレである。
『洗脳をもっと強くする事すら、彼は却下しました』
それに従ったのが、一番の謎だけど。
『…まぁ、自らの血肉を与えたある意味息子のような貴方と対峙するのは、気が引けます』
その点に関して、川端には何もない。
親とも同族とも、当然思わない訳で。
一応の感謝はあるけど、生きることを継続させて貰えた分だけの。
(睡眠と味覚を奪われた分があるので、トントンだ!by川端)
『お主は、独りなんだな、ずっと…』
シューレ、顔から笑みが消える。
『条件として、常に我等の監視下にある事と、新たなる実験の無期限凍結、そんな所か』
なんだその台詞は?
寂しいんだろう、仲間になってやるよとでも言いたいのか?
『川端さん、そんな申し出…』
ここまで来て停戦なんてない、それは初代が一番分かってるハズなのに?
そうか、時には口撃も必要ってやつか。
精神を揺さぶり、平静を無くさせる。
『まぁ、お主がそんな申し出に応じる訳もないな、無用なことを申したな』
川端は頭をペコリと下げた。
張りつめていた何かがスッと収まり、シューレの表情を和らげる。
それはやはり生き物として常にある、生きたいと願う心、本質。
生きれる可能性が安全に高くあるなら、そちらを掴もうとする弱さ、本質。
シューレの頭の片隅にも無かった所が拓かれ、それを考え始める。
(凍結は必ず解かれる、それは過去の歴史と、これからが証明してくれる)
何より、川端である。
精神も正義へと保たれたまま、生き生きと躍動しているのだから。
(川端を造る…、奴等が来る事が明確になり始めれば必ず解かれる)
『…ふっ、悪くない話ですがね』
のるかそるかは、難しい選択ではない。
選びし逆は、結末が不明なのだから。
選択した未来との比べが出来ない以上、
結局は選んだ側のみを見るしかない。
『まさか、ノル気か?』
『悪くないと言ったまでですが?』
『そうか…』
どちらが切り出すでもなく、殺意を向けたまま円運動の2人。
互いに利がある、そうなれば結び付くのだが。
残念ながら、決定的な部分が欠落している。
それを川端は知っている。
『もしそうなるなら、貴方が間に?』
暫しの間の後、シューレから寄る。
それを受ける側の表情が困惑している。
『…はて、なんの間に?』
『悪くない話の、ですよ』
言ってることを理解する気の無い川端は残月を振りつつ答えてあげる。
『ワシに何を期待しとるか知らんが…』
刀を突き立てる、それは揺るがない。
『ワシは無職無所属の怪人化人間、何のチカラも権限も、無いのだぞ?』
川端は突き立てた刀を下ろしつつ、口元を緩める。
『まぁ、貴様の弱い部分も見ときたかったからな、無事見れて何より』
少し理解に苦しむ。これが川端式の何かなのだろうが、
凡人には?の世界なのか。
『貴様の事、隅から隅まで記憶しておいてやるからな、安心して逝け』
その台詞で、少し理解出来た気になる、7代目杉本であった。