②ー24
ー24
凄まじい轟音が、川端の耳にも届いていく。
…ベニスの技に、あそこまでの爆発音は無かったはず。
川端の足は自然と早く、呼吸は荒く。
そして躍り出る身体、皆のいるフロアへと。
『…なんじゃ?』
シューレと一騎討ち中なのか、杉本と対峙しておる様子。
ん?
記憶にない服の者が倒れておるが…?
『…何をしたの?何故グラスが爆発を…?』
杉本には理解できない。
だって本人の合図で爆発した結晶にて、本人が爆発するだなんて…
『やはり、奥の手は残しておかないと、です』
シューレの空間を裂く技、大前提として左手が無いと発生させられないとかはない。
(クラールとは違う)
そしてもう一つ、空間を避ける場所は自らを中心とした半径1m内なら自在。
自らの体内にだって、ゲートを開けれるのだ。
『爆発の直前に、彼の背後に、です』
予備動作も無しに?
それつまり、別の可能性が?
『えぇ、こういうことも出来ます』
シューレは振りかぶりエアパンチ。
それは伸びきる前に拳部分消滅、そして突如杉本の顔前に登場。
多分そうだろうと思っていた杉本、ギリギリにて回避。
『…なるほど、それはやっかいな』
ふふふと笑うシューレ、更にと追加する。
左手の先を丸めて硬化、長短の二刀流的である。
『飛ばせばリーチは関係ないですよ』
知ってますわ~と杉本、まぁ軽いノリで返してる場合ではないが。
恐らく、次は死角から飛んでくる、それをどう回避するというのだ?
近づくことも出来ないだろう。
…なにそれ、一方的じゃん。
あの何発もうらら~っとパンチを繰り出す技を全方向から打たれたら、
成す術もなく瞬殺?
いや、そうではない可能性がある。
ゲート開港最大数3個、それを多く魅せる為に多くを語らず、分かるだろ?に終始する、か。
考えてみれば、それを出し惜しみする理由がない。
何十発だか何百発のパンチにて即終戦。
左手切られてから慌てて解禁?
…リスクがあるのだろう、あのゲート解放には。
そうであって欲しい、、そうでなければ余興が過ぎる。
代償が、大きすぎるだろう?
(手術すればあっさり復活とか、あるなら無駄なる思考)
その時、杉本の視界に収まる人影が。
『川端さん?』
また怖い顔してるのかな?とか思いつつ、
一応普通の顔みたいだけど。
『…杉本、世の全てにはガス欠が存在する』
いつかは燃え尽きる、とも。
『無限など、有りはしないのだ。お主も良く分かっておろう』
それは分かるけど、ゲート解放に燃料切れがあるの?
必ずあるから…って事だろうけど。
川端は歩を進め、杉本の側へと。
そして次なる助言を出してゆくのだ。
『…ノーモーションで突然飛んでくる訳ではない、所詮はテレフォンパンチだ』
ベニス戦隊の戦隊員育成プログラムに、ボクシングの講義及び実技はある。
杉本もそれを受けさせられた訳で。
杉本は構えにじり寄る。
そう、どこから来るかは不明だが、何時来るかのタイミングは分かるのだ。
わざわざ、教えてくれるのだから。
シューレの攻撃力、それは腕力によるモノではない。
皮膚の硬質化の反対、皮膚の弾力化である。
だから彼は常にテイクバックを必要するのだ。
反動でパンチを強化させるために。
テイクバックから突き出した時、パンチは来る、空間を越えて。
だからその時に避ければいいのだ、身体ごと。
とにかくやりますか!
っと走り出す杉本、迎え撃つシューレは両腕をテイクバック。
そしてラッシュ、笑顔でラッシュ。
あー、となる杉本。
(そっか、例え最大数3つでもラッシュした内のどれを飛ばすかは自由。あんだけ出したらどれを避ければ良いのやら~だね)
とにかく身体ごと移動、だがゲートにより現れた拳は無し?
止まぬパンチの嵐は続き、杉本は更なる移動を強いられる訳で。
パンチを打ち続ける者と、身体全体の移動を強いられる者と。
はて、どちらが先にバテますやら。
結末の予想が出来る女杉本、一気に終極の射程距離へと。
結末の予想が出来る怪人シューレ、当然の距離取り。
…10分ほど繰り返し、肩で息をしつつ、
貴重な時間と体力を浪費した事を確認。
『…何しとるんだ、お主は?』
見た目は年下の大先輩からの御声を、既聞スルーの杉本。
まぁでも実際、スルーしている場合ではないが…。
『だって…』
小学生の様に口を尖らせる姿、嫌いではない…
川端は咳払いを一つ入れ、自身と状況のリセットをば。
だからといって、レッドの称号まではリセットしない。
7代目は杉本であり、彼女が引退するまでは、紅きスーツを着るべきは彼女のみ。
それを誰より川端が決めている。
杉本しか適任はいない、と。
…と期待しているからこそ、当たりは強めとなる。
『その辺で許してあげて下さい』
散々なる小言を頂戴してからの助け船。
でも正面ではなくて、地面から?
とっくに回復していたグラストゥー、寝転びながら発言となる。
『なんじゃお主は?』
川端の眼力は選別する、人類にとっての損得を。
…有害である、それも特大サイズの。
『うむ、杉本は引き続き奴を、ワシはこの者に用事だ』
言い放ち、グラス目指して歩を始める川端。
お茶でも飲んでゆっくりしよう、は絶対無い。
表情とか以前に残月を抜刀しながら近付いてるんだ、誰にでも分かる!
グラスはゆっくりと立ち上がり、埃を払う。
随分と埃っぽい部屋だ。
まぁ、散々戦ってるんだから、仕方ないけど。
『別に戦ってもいいけど、順番が違うのでは??』
まず倒すべきは今回の大元、それを済ませてからの派生、か。
『なるほど、理はお主にあり、だ』
歩みを止めたる川端、ゆっくりとシューレを見る。
こやつとの接点は薄い、だが普通ではないと思っていた。
…薄~くだけど。
『主君を立てるのが配下の勤め、お主は何をしておるのだ?』
薄ら笑いが返事というのか、気に入らんな。
『恋仲の二人を共に旅立たせる事が、配下の勤めだと言うのか?』
3色のベニススーツ内にある、3つの心臓が、ドクンと大きく震える。
血も止まっていた、そんな結末になってるハズは無い…
休んでいただけだ、この戦いが終われば全員で居酒屋に…
またなの?また私の前から…
心は収まり所を見失い、空を彷徨う。
それは着地する予定のない旅路、終了予定の無い旅路。
『彼女は知り過ぎています、仕方のないこと…』
突如、旅路は終えられる。
そうだ、死ぬはずじゃ無かったんだ、何者かの手が加えられない限り…。
川端が皆を代弁して問う。
答えは簡単、こそっと手を飛ばし傷口を軽く握っただけだ。
それで傷は開き、血は流れ、命は…
『無抵抗な者を、命を、摘んだって?』
自身の事は置いといて、気に入らない。
そう、なぜにこんなに腹が立つ。
根本に、杉本を悲しませたな?がある
事は分かっているのだが。
グラスは再び結晶刀を生み出す。今度は2刀、彼は戦うつもりだ。
杉本も譲る気はない、現実は後で受け入れる。
とにかく今は、前を向く。
棘だろうがなんだろうが、前にしか道は生まれないのだから。
川端は優先討伐対象者を改めて見る。
なるほど、確かに順番はこちらだ。
地球に害を成す度合いという意味で。
『各々に都合があってな、3対1だ、悪く思うな悪党』
川端の記憶にある3という数字、懐かしくもあり切なくもあり。
まぁ、でも悪くない感覚。
『天でも地でも神でもない、貴様を葬るはベニス』
…記憶を掘り起こしすぎたのか、何やら始まる。
『ベニスレッド、見参!』
決められた構えを身体が覚えておったわ!っとご満悦。
さて杉本、少し考えたのち、足す。
『全ての生命を救うこと、それが私の使命…』
それっぽく舞い、決めポーズ。
『7代目ベニスレッド、推参!』
周囲の目が彼に集約される。
そうか、そういう流れが…勿論、嫌いではない。
グラストゥー、舞う。
『このチカラ、使い果たすは人の為、人類の栄治繁栄にこの身を捧ぐ…』
空に舞い、そして一気に降りてポーズ。
『ベニスブラック、降臨!』
言ったもん勝ち?
いや、グラストゥーからすればそういう流れね?の見解。
回りからすればブラックを名のるか?だが。
当人はご満悦の様子。
まぁ、当人が満足ならそれでいい、かな。
『貴様の野望、我等3人のベニスが許すまじ…いざ成敗!』
なるほど、当時はこうやって戦いが始まったのだな、と納得。
『ゆくぞ!』
川端を先頭に、新星?ベニス戦隊出撃である。