②ー23
ー23
『まったく、情けない…!』
一通り痛め付けた(いや、正確には稽古を付けたのだけど)川端は、
ふーっと深めの溜め息と共に、そこでノビる2人に目をやる。
素質もあるし、気持ちも持っている。
後は経験と鍛練、これからも稽古を付けてやらねば!と誓うのだ。
…さて、と川端はある方向を見つめた。
そしてその先に消えた後継者を想う。
『まだ終わらぬか、何をしておるのだ?』
どちらの結果にしても、もう終わっていも不思議ではないのに。
川端は足早にその方向へと進んでいった。
その女性が抱えし衣服には覚えがある。
そうか、ようやく休めたかクラール殿…
川端がクラールを主としたのには幾つかの理由がある。
怪人化によるもの、それが最大ではあるが。
病気と戦う、その共通点と人類が抱える永遠のテーマ。
そこに共感と感嘆は存在した。
後数ヵ月で死を迎えるこの身が、後世のために何かを残せるというと言うのか?
『残せる、それは私が証明しているのだから』
川端は怪人となるべくシューレの血肉を受け入れた。
『私をホンの少しだけ慕うように手を加えますが…、それ以外は自由に』
若さと終わらない命、消え行く直前だった、ゴール直前だったのに振り出しに戻して貰える感じ。
いじられなくても慕った人柄も相まって、
川端はクラールの下に治まる事は誓うのだった。
『残月、杉本へと託したのか?』
語りかけながら、川端は女性を観察していた。
左足の染まり方が酷い、止血されてない所を見ると後から傷でも開いた、か。
『そうだな、終わりがあるから輝ける』
両の掌を合わせ一礼し、川端は先へと進む。
その去り際、川端はそこに佇む残留思念に触れた。
2人の笑顔が重なり、恋人とも夫婦とも言える関係の中、形の無い未来を歩んでゆく。
自身にも訪れるだろうか、この大いなる完結が。
フレダスト星人との融合を果たした最後の人となった自身が。
考えるだけ意味の無い事を巡らせつつ、川端はゆく。
『なるほど、いい技だが…』
108の突きで相手を制せない時、最後の介錯は意味を成さない。
両手をXにクロスさせガード、やはり致命傷にならぬ攻撃。
『技が悪いのではない、相手の回復力と防御力に対して相性が悪いんだ』
して欲しかったのは解説じゃなくてフォロー、少々不満ながら的を獲ているので反論無しです。
『じゃ、どーするのさ』
戦隊のリーダーとしてあるまじき丸投げ。
だが、本当に浮かばないのだから仕方がない。
…返事はない、既聞スルー?
まったく、すっなり人間に染まっちゃってから…。
勿論、スルーではない。
グラストゥーも浮かばないのだから、シューレを終わらせるプランが。
『さぁ、次は私の順番ですよ?』
言いつつ右手をゆっくりと引き下げる。
あれだ、掌から弾き出される負の臭気。
名前までは、覚えてないけど…。
2人は左右に散り、その臭気を回避。
『では、貴方から…』
シューレは残された左手にて空間を裂く。
すかさず飛び込む先は、グラストゥーの、背後。
まぁ、実際に飛び込んだのは左足のみ、渾身の前蹴りを届けるのだ。
上空へと舞い上がるグラストゥーの見た目幼き身体。
後は空をさ迷う物体を、この右手にて打ち落とすのみ…だが、
させて貰えない様子。
シューレの左側面へ回り込んだ杉本、移動中に溜めたパワーを解放させてゆく。
『…プラッシュ!』
全てを発していると間に合わないという戦隊としてあるまじき行為。
まぁ、だからといって減給になるとか、無いけど。(初回なので厳重注意処分)
瞬時に硬化させガード、だが溜めれた力の大きさに耐えきれずメリ込む終極。
再びの青き鮮血、だがこれも直ぐに回復?
ならばとばかり取り出すはベニスナンブ。
8発全てを射出させるのだ、硬化の薄そうな所を狙いつつ。
それすなわち、目や口、顔面である。
善も悪も、良心も何もかも、やはり無関係なのかもしれない。
相手を葬る為か、はたまた自身を正当化する為のか。
…まぁ、今回に限り杉本には良心があった。
空いた右手にて防御される、いやさせる事が大前提なのだから。
シューレは予定通り右手を使用した、ならば出番である。
空で遊ぶことが大好きな怪人よ。
グラストゥーは結晶刀を変形させ、結晶フォーク?を作成。
上空よりシューレへと突き立ててゆく。
三ツ又に別れたフォークの先は、5センチ程刺さり停止。
そしてそのままペキリと結晶を折る。
『はい、これでもう治せない』
ウフフ笑いは今は止めて、とか思いつつ。
杉本は、メリ込んだままの終極に、再び貯力してゆくのだ。
『ベニシュッ…!』
戦闘員とはいえ会社員である。
就業規則にちゃんと書いてあるのだ、必殺技の名前は大きな声で滑舌よく!…と。
始末書である、勝手なる短縮行為は始末書からの減給3ヶ月。
まぁ、上層部なチクる人種は、ここには不在である為、それは成されないのだが。
杉本は終極を振り切った、いや振り切れたが正解か。
誰かと同様に切り離されてゆく左手。
別に杉本の趣味ではないのだと、彼女に代わり弁明。
今日イチで流れ出る青き鮮血、苦しむシューレ。
さて、彼はフレダスト星人、切れたパーツはどうなるのだろう?
生えるのか、はたまた簡単に繋がるのか?
…どうやら答えは3番の様である。
それもそのはず、簡単に生やせるなら硬化させて守らないし、
そんな事が出来るなら、それはほぼ不死身の体となるゆえ、
例の【奴等】とやらに滅ぼされる事はなかっだろう。
シューレは傷口を硬化させて止血、とりあえず痛みに耐えるのみである。
名残惜しそうに地表に足を下ろしたグラストゥー、苦しむフレダスト星人を観察。
…流石にそうなってしまえば、自慢の回復力も意味を成さぬ、か。
それは同時に自らにも当てはまり、そしてもうひとつ。
今、目の前に居るのは最後のフレダスト星人。
我々が滅ぼすというのか、最後の一人を。
だが、共存の道は恐らくはない。
どちらかのみが、未来を得れるのだ、短い長いの話はあれど。
『シューレ…だったな』
結晶フォークを元の刀に戻しつつ発言。
『似た立場の者として、少々痛むが…』
似た、とは何処の事を意味するのだろう。
最後の一人?
身体の特徴?
はたまた人類に対する気持ち?
まぁ、グラストゥーの使う言葉に、意味なんて無いのかも、だが。
『奴等はいつ頃に?』
聞いておかなければならない、その為の準備を始めるために。
『…それが分かれば、苦労などしない』
そうか…と開けた左手の平を差し出すグラストゥー。
そしてゆっくりと閉じてゆく。
同時に苦しみだすシューレ、体に埋まった3つの塊が、何やら共鳴している?
『この掌を閉じきれば、それは爆発する』
最後通告、だからといって止める予定など無いが。
『何か残す言葉はあるか?』
既聞スルー中に思い付いたのか、空中に飛ばされたとき閃いたのか。
何にせよ、これで終わり。
颯爽と天より舞い降りし怪人により、終わる。
シューレの野望の灯と共に。
『…ふっ、命乞いでもさせるつもりですか?』
したところで、この掌は閉じるけど。
『残すものはありません。自分で伝えてゆくので』
そうか…とグラストゥーは杉本を見た。
それは合図、やりますよ?と。
頭に巡るモノが何かを、理解する余裕も時間もない。
終わった後、一杯残るかもしれないが…
今はこれが最良、人類にとっても、我々にとっても。
杉本はコクンと頭を動かした。
縦に1回、了承の意。
『さよなら、最後のフレダスト』
一気に閉じる掌と、同時に爆発してゆく結晶。
シューレ最期の時…