②ー21
ー21
諸説はあるも、一応そうらしい事を自覚させる展開。
皆がリタイアした中で表れる局面。
ラスボスと主人公、最後の一騎討ちである。
まぁ、戦隊ものの赤色と言えばその立場、
今まで不安視してたのが無用であるかの如く。
しかし、だからといって勝たせて貰えるのだろうか。
現にさっき負けて死にかけてるし。
いや、さっきがあれだから二度はないだろから今回は…
杉本の脳内が無駄な言葉の数々で埋め尽くされているのには、やはり理由がある。
今と同等かそれ以上の状態だった2人が、2人がかりで戦って負けたのだ。
実力の強弱がない3人なのだから、単純計算で結果は…。
不安、その言葉に尽きる。
いつもは自信なり確信なりを少しでも上げつつ、行動に出るのだが。
今回はない、信じれるモノがない。
腹部の痛みに襲われる度、絶望感が彼女を荒々しく包む。
突き立てる現実、曲がらない未来。
じゃあ、なぜ戦おうとしているのだろうか。
まぁ、それについての答えは簡単である。
2人もいるのだ、眼と手の届く範囲に。
護らない訳がない、例え自らを灰にさせたとしても。
今なら、あの日の先代の気持ち分かる。
相打ちででもいいから、奴を仕留める。
杉本の心に定まった未来図。
それに従い、彼女は戦うのだ。
シューレが謎の言語と共に、身体の色を変色させてゆく。
何ヵ所かある急所の皮を硬化させ護る。
そして攻撃用に両拳から肘にかけても硬化させて、準備完了である。
これこそがフレダスト星人の得意とする皮脂変化術である。
固くも柔らかくも、特殊な見た目にも出来る。
変装とか簡単に出来て、というよりも毎日違う顔に出来たりする訳で。
なかなかに、羨ましい話だ。
まぁ、その分他人を見た目で信用できなくなるだろうけど。
昨日と今日で、違う容姿なんだから。
『ハァンヌ!』
変な台詞と共に戦闘準備も完了の様子。
『さぁ、杉本さん。人類の未来を決めましょう』
重たい話である、この結末で何十億の人々の未来が?
考えまいとしても胸は圧迫され、朧を持つ腕が振動する。
第三次世界大戦とかの話の比じゃないな、と。
『…なぜ笑っているのです?』
無意識である、追い詰められると口角が上がるのは昔からの癖。
『貴女も戦闘民族なのですね、分かります』
理解して頂かなくて結構です!とは言えず。
杉本は更に口角を上げてゆくのだ。
(凄い威圧感…表情や態度とは正反対の…)
もし万全の体調であったなら、もう少し見えたかもしれない道が。
暗闇だ、何も見えない。
杉本は振り返り、友と呼べる2人を見た。
2人共、辛うじて意識を保っている。
それは正確には保たなければならない理由があるから。
2人にも分かっているのだ、杉本一人で敵う相手ではない、と。
だから失えない意識、ギリギリまで蓄えて、そして最期を共に戦うのだ。
私には出来すぎた仲間、何がなんでも護りたい。
杉本はみぞおちの奥に力を集約させてゆく。
そしてギリギリまで溜め込んで、一気に解放。
恐怖も不安も、全て方々に拡散させ、精神を研ぎ澄ませるのだ。
『…良い眼をしますね、素敵ですよ』
耳に入らぬ戯れ事に、わざわざ応じる必要もない。
朧を両手に持ち、いざ前進する人類の砦となりし紅き人間。
そう人間なのだ、怪人を越える事など夢物語の…。
現体力では、初代より引き継ぎし奥義は使えない。
まぁ、確実に敵を葬る確証も、もはやないが。
(鋼鉄の体を貫けず反撃、もある)
ならばと一刀一刀に今の全てを込めるのみ。
杉本の無数の斬撃がシューレへと向かう。
それを鋼鉄の両手でいなしてゆくシューレ。
『そんなものですか?貴女の思いは』
特に危機感を煽らない攻撃に、シューレはため息混じりに答える。
そして斬撃の合間に攻撃を返して、杉本を後方へと追いやるのだ。
それは当たる事はなかったのだが、杉本の動きを止めるに十分な一撃。
実力差を知らしめる一撃となる。
ここで、あるならギアを一つ上げつつ攻勢に…なのだが、既にレッドゾーンなレッドに、その選択はない。
再び、同様の斬撃を行う以外の選択肢は無い今は。
『…そうですか、やはり人間なんて』
クラールが常々言っていた人の可能性、そんなものやはり存在しないのだ。
それを目の前の人類代表が証明しているではないか。
人間の限界値を。
次は2撃にて追い返す。一応ガードしてる様だが、まだまだこちらのギアは上がる。
当てに行く一撃にて、この流れは変わるだろう。
懲りもせず向かってくる弱者に、強者として答えよう。
戦いの残酷さと、誠実さを。
強き者にのみ、未来は与えられるのだ。
シューレはフレダストの故郷を思い出していた。
緑豊かな広大なる土地と、淀みのない空気。
そこにいるだけで、全てを許してしまえた。
高ぶった感情も、深き悲しみも全部。
私に出来ることは、祖国と同様の土地と空気を持ったこの星を、奴等から護ること。
それはシューレにとっての正義、護るという意味合いでベニスと同等のもの。
目指す先は同じとも言える両者が協力することはない。
どちらかのみが残り、各々の正義を完遂するのみ…。
バキィ…!
乾いた音が静かな室内に響く。
めり込んだ右の拳にも、その音の意味は伝達されている。
地面に叩きつけられ横腹をおさえる杉本、折れたか砕けたかのあばら骨。
だが心までは砕かれぬ!とばかりに反撃…
当たるわけもないそれはいなされ、更なる一撃を。
とっさにガードした右拳に激しい痛みが襲う。
もう、朧を握ることすら許されないのか?
『脆いな、人間の身体は…』
それでも立ち上がり、こちらを睨む杉本に一言。
そう脆いのは身体、あの眼に宿る闘志だか決意だか。
伝わってくる、その本質とその魂。
叶わぬと知っているのに、何を目指すのだ?
恐らくその精神があれば、フレダストは亡国せずに済んだだろう。
それを思うと、だからのその融合なのだ。
人類とフレダスト星人との。
奴等を許してはならないのだ。
だが杉本は、朧を逆手持つ。
今出せる最大限の技にて、全ての人類の為に…。
『…スプラッシュ…』
左手、疲労、傷付いた身体、それでもこのスプラッシュは過去最高の技となり、シューレへと届いていく。
『…見事な技でした、本当ですお世辞ではない』
胸に突き立てられた朧は、シューレの体液を放出させる事なく停止。
鋼鉄の一部を削ったに止まる。
『勝負にもし、は無いですが…』
万全の時に戦ってみたかったな、と思う。
もう、そんな日は訪れないだろうけど。
『カルセルトグル…』
秒間に何百ものパンチを両拳から繰り出すシューレ最大の直接攻撃。
スプラッシュで力を放出したての杉本に回避できる代物ではなく。
(そうでなくても回避は簡単ではないが)
杉本は交通事故にあったかの如く弾き飛ばされてゆく。
身体の至るところから骨の砕かれる音は響き、その激痛にて気を失いそうになるのを、耐える。
…耐えたところで、意味など無いのかな?だが。
『そんな状態でも、そんな眼をしますか貴女は…』
認めなければならない、その強靭な意思を。
クラールの言ってた意味、なんとなくだが分かる。
それはそこで必死に参戦しようと目論む2人にも当てはまり、シューレの考えを固めて行く。
『貴女方3人と一緒なら、奴等とだって戦えるでしょう』
それは宣告、3人を怪人とし、新ベニス戦隊を結成する的な。
『共に戦いましょう、奴等を許してはならない』
それは今のこの戦いの終演の合図、もはやこれ以上は無意味…いや不可能か。
衰えぬ闘志の杉本ではあるが、身体がピクリとしか反応してくれない。
まぁ、全身の骨が砕かれているのだ、動ける訳もなく。
『さぁ、まずは貴女からだ』
ゆっくりと杉本に接近するシューレ。
もはや反撃などないのだから、と硬化を解きつつ、例の物を取り出す。
『これは師団長クラスにしか行わぬ怪人化です、…私の肉体の一部を授けます』
例の物=シューレの肉、それを体内に宿らせることで怪人化する。
まぁ、人とフレダスト星人との融合、とも言えるが。
『…怪人化したって、貴方を狙うヒットマンが誕生するだけよ…?』
全身をピクピク震わしながらの強がりに、
今度はシューレの口角が上がる。
『それはそれで楽しい毎日…もっとも奴等が来れば、共闘せざる得ないですがね?』
もう、受け入れる時のようだ。
その言い方だと、精神までコントロールする訳では無さそうだし。
『では、いきますよ?』
新生ベニスレッド、誕生の時。