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②ー19

ー19


悲鳴であり、嘆きであり。

伝わり方は受け取った側により解釈されて、先へと続く。

だから発信者の意図とは異なった解釈が、後世へと伝わっていく事もある。

クラールの発した擬音は、苦しみや痛みを表したのでは断じてない。

喜びでしかない、解放される事への…。

堕ちた右腕と、左肩から胸付近まで切り裂かれた身体と。

こってりと殺られてしまったモノだ、もはや何も無い…表も裏も何も。

クラールは後退りし、その行為にて刺さったままの残月を抜いていく。

同時に、落とされた右腕と共にあった朧との距離を開けてしまう結果に。

まぁ、もう握ることもないのだが。

『3対1が許されるのは、1が悪だからだ。悪には情けがないからな』

見るからに立っているのがやっとなクラールなのだが、

それでは怪人としての伸びしろがないではないか。

そんなもんじゃ無いはずだ、怪人とやらは。

少しも気を抜かない面々に溜め息を送りつつ…

『腕が生える事も傷が突然治る事も、ましてや変身する事もない』

治せるなら、とっくにやってるの言葉付き。

100%の信用なんて出来ない、だが先程までの負のオーラは無い。

まぁ、厳格に言えば少し前から無かったのだが。

『まぁ、貴方を信じるかどうかなんて問題ではないわ…最大限に注意しつつ実行するだけだがら』

レイニーとステイシア、集中力最大のままクラールの前へ、そして

振り上げていく。

先程みたいにお腹にズン!が無いとも言えず、キョロキョロしつつビクビクしつつの介錯の時である。

『最後の言葉位は聞いておきましょうか?』

かつての教え子兼恋人よりの進言、ありがたい。

『ふっ、では今言えるこ…』

クラールには分かった、背後の出来事が。

当然、見えた訳ではない。

空気の流れや気配…とかでもない。

分かるべくして分かる、その理由は簡単。

ベニススーツの同期設定みたいなモノだ。

相手の状態が分かると言うあれだ。

奴が何をしようとしているかが、伝達されてくる。

その行為に対する私の答えはひとつ、だがこの身体に対処法等皆無…

クラールは足に力を瞬時に溜めジャンプ。

それは有らぬ方向、逃走にでも使うかの如く、真横へと飛ぶ。

ステイシアの右前方へと浮いているクラールの肉体。

ステイシアはその行為を自然と眼で追い、そして視野に入れる。

クラールの背後にいる存在を。

と同時にクラールの背後の色が変色…したかと思う間も無く身体に衝撃。

何年ぶりかの愛すべき人とのハグ?だったが、浸れる状態でもなく後方へと飛ばされていく。

『何をしているのです?』

ゆっくりと前進する男、知るのは杉本のみか?

『折角、貴方の心を揺さぶる女の存在を消して差し上げようと…』

彼はシューレ、表向きはクラールの執事。

ハァーっと溜め息をつくシューレ。

『まさか庇うとはね、貴方もうダメだ』

クラールと同様の右腕より放たれるグラン・ドレス。

今度の標的はクラール、ダメと判断したる男を排除にかかる。

先程の1発目にてもはや動けぬクラール、その臭気を受け入れるのみ。

『クラール!』

状況はまったく分からない、だが愛した人のピンチであるとハッキリ分かる。

さっきはトドメを指そうとしてたのに、今は助けようとしている?

事の矛盾に気付きつつも、身体は自然と反応するのだ。

ステイシアは先程のお返しとばかりに横からクラールにダイブし、臭気のエリア外へと押しやる。

だが簡単な作業ではない、彼女の左足は激しい痛みと共に流血。

拷問等に対しての訓練が無駄だったの?的に苦しむステイシア。

『まったく…ほんと人間て偽善な』

その表情を拝見した者の次なる感情は怒り。

あまりにも、人を小馬鹿にした表情なのである。

『何よ人間人間って、貴方だって元は人間でしょ!』

レイニーは特にその表情が嫌いらしく、即噛みつく訳で。

『?…私は元も何も、ずっと怪人ですが?』

レイニー、怒りを忘れキョトンとなる。

何を初対面で当然でしょ?知らないんですか?的になってるのだ。

知る訳もなく以前に、名前すら私は知らない!

『生まれもっての怪人…そう、貴方は地球外から?』

ようやく話の分かりそうな奴が出てきたとご満悦のシューレ。

牧野目掛けて、言葉を飛ばす。

『そうです、色々あり流れ着きました…』

シューレの正式名はシューガ・フレダスト・ブレンテレ。

フレダスト星人に分類される。

今より120年程前、フレダスト星は謎の侵略者の攻撃にさらされて壊滅、生き残った者も極僅か、つまりは滅ぼされたのだ。

その強大な侵略者達によって。

『残った数名と、この星に。まぁ他のメンバーは直ぐに死にましたがね。私以外は全部』

理由は不明、食が合わないのか空気が合わないのか。

まぁ、シューレだけが特別だっただけかも。

『色々探しました。仲間が戻る方法を』

ゆっくりと壇上の中央へと歩みでるシューレ。

もう、裏方に徹する必要はない、とばかり。

『でもね、戻すなんて無理なんです、新しく造る以外に方法なんて』

そんな時、クラールと出会う。

クラールは与える、地球外生命体が研究出来る施設と実験材料を。

勿論無償ではない、見返りは永遠の命。

『そう、つまり怪人化計画ではなくて、フレダスト星人化計画だったのね?』

聡明な考えと容姿、永遠の命を与える次なる相手が見つかったと、不適に笑うシューレ。

『もっとも、似た存在なだけで別物ですがね…』

一瞬だけ、見えた哀愁の表情。

まぁ、本当に一瞬なので、見たものは居ないのだが。

『永遠の命…というより正確には老いない肉体、ですね』

そう、永遠なんて作り出せるなら、フレダスト星は滅亡していないのだから。

『まったく、ヘドが出る話をベラベラと…』

怒れる巨人、柄を握る手に力が籠る。

『同情する面はあれど、貴方のやってる事はその侵略者達と同じじゃない』

シューレの笑い声が、室内にこだまする。

『当たり前の事、強者が弱者をどうしょうと許されますから』

経験者は語る、だ。

手に負えない…。

『だったら、私達が貴方をどうしょうと、それは仕方の無いことね?』

永遠の命を与えると決めた存在からの台詞。

まぁ、否定するところにない。

『強者がそちら側なら、です』

話は決まった、敵は定まった。

『クラール…』

だが順番が違う様である、こちらはもう待ったなしだ。

『…まったく、人間なんて偽善者の集まりだな、私を含めてな…』

怪人としての過ごした数年と、人として過ごした日々を想い比べる。

優越は付け難い、なんて言ったら目の前の女性は怒るだろうな。

くっと抱き寄せられたこの状況で、そんな発言は不要品。

今、彼女に伝えるべき言葉は、恐らくひとつ。

『お前と過ごしていた日々、なんでこんなに思い出すのだろうな』

涙が女の頬を伝う。

同じ感覚にあったから、同じ事を伝えたかったから。

『貴方が去った日からずっと、私は…』

聞きたかったのだ、なぜ消えたのかを。

置き手紙も無く、さよならの言葉もなく。

『ありがとう、ステイシア』

それじゃない、ずっと聞きたかったけど、それじゃないのに…。

クラールの体が小さなシューっという音と共に蒸発してゆく。

ステイシアの感じる彼の重みが次第にうすれる、それはサヨナラの意味。

時間が止まることはない。

望む望まぬ多々あれど、刻み続けるのだ、生き続ける限りは。

『ステイシア…』

男は手を差し出し、返杯を望んだ。

もはや見えぬ、愛すべき人の顔さえも。

微かな温もりと、掌を加圧する微力。

『さらばだ…』

『待ってクラール、ま…!』

微かだった全ては消失し、彼愛用のイタリア産の香水の残り香だけが、ステイシアを包み込む。

『まだ聞けてないのに…クラール!』

もう一つ、言えてない。

あいしてる、と。

『彼から聞いたこと、聞きたいですか?』

本来は聞きたくもない声だが、今はそれが欲しい。

『末期がん、それだけで分かるそうですね、人間なら』

人として果てる道と、人で無くしてでも生き続ける道と。

どちらが正しいかなんて、きっと誰にも…。

『貴女の哀しむ顔が見たくなかった、とか言ってましたかね確か』

もういい、これ以上は聞くに耐える。

『結局は、見ちゃいましたがね』

もう黙れと言っている!

立ち上がろうと力を込める…も反応しない自らの身体。

ステイシアは左足の痛みを思い出し観察。

血は止まってる風だが先程から通算して流し過ぎた様だ。

『いいから、休んどきなさい』

残された2人、同様の疲労はありながらも前へ。

それが使命であるからとかではなく、敵討ちとかでもなく。

彼女等が望む行程と結末を現実のものとする為に、前へ。

『こっからはベニスの担当よ』

あんなに幼く見えた牧野が、たくましく映る。

この二人ならきっと、私のこの心を救ってくれる。

『頼んだよ、ベニス戦隊』

無言で了承した2人、いざ最終決戦へと。

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