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②ー17

-17


クラールは18階という数字が好きなのだろうか。

ここはミサイル発射の為の制御ルームがあり、彼の現在地であり。

『ようこそ、この施設のコアに…』

制御ルームがあるからだけでは無さそうだが。

左手を失ったままのクラールの背中から聞こえる声に、3人は耳をたてる。

『この建物の地下に、貯蔵庫がある。そこが君らのお目当ての1つだよ』

怪人化エキスの貯蔵庫…なら精製はどこで??

『ミサイル発射台の地下に貯蔵庫?ずいぶんと危険なことをするのね』

レイニーが閃きのまま、言葉を発してゆく。

それは正論であるが、だから良いのだの顔で返されると、反論は無い。

『他に何か聞きたいことはないか?』

今は気分が良いから答えてやろう、と。

なぜそんなにもハイなのだろう?

先程の館内放送からまだ、10分程しか経ってないのに。

そもそも、隠れるでもなく堂々と現れているのが違和感。

また例の負けない理由がなんたら?

でも、その要となりそうな左手はもう無いじゃない?とか思う杉本。

更に言うなら要の施設を捨てて何処に行くというのか。

『…エキス、どうやって作ってるの?』

聞いてみた、何でもって言うから甘えてみたのに。

『そこは企業秘密だ』

大人って…。


お話は終わりだとばかりに、壁に立て掛けてあった朧を抜刀してゆくクラール。

相変わらずの輝きとその存在感。

人間国宝【暁 五郎】最高傑作の呼び名は伊達じゃない、か。

『抜け杉本、先程の続きだ』

今度は時間制限無しだ、と言われましても。

心がクリアになってないのだ、集中出来る訳もない。

『…なぜ、時間無制限になったのよ?』

これには答える義務があると、詰め寄る杉本。

クラールはそれを特に意に介する事もなく、その理由を語る。

『EUが認めたからだ』

EU…ヨーロッパ?

ロシアに次いでヨーロッパ全土もテーブルに着くというの?

イエスしか許されない、交渉ではなく脅迫のテーブルに。

『認めなければ、発射するとかだった?』

クラールのニヤケ顔が、それを否定しない。

『予定時間の10秒前に電話が鳴ってな…留守電とか圏外だったらどうするつもりだったんだろうな』

私は打ったけどな、と顔が語っている。

やはり、止めねばならぬ存在であり、違う未知を与えるべきであり。

例えそれが死という世界だとしても、誰からもクレームの類いは提出されないだろう。

感謝状なら、届きもするが。

杉本は前へと一歩、それを制するのは2人のベニス。

『残念ながら、それは無いわ』

レイニー…その顔に浮かぶは不安要素。

レッドの力を過小評価している訳ではない。

単純に感じるのだ、常人ならざる腐が。

勝てる勝てない以前に、何やら包み込まれる感覚。

一人では危険だ。

それは牧野も同様の感覚であり、川端とは違う威圧感に、姿勢が少し丸くなる。

『わかるよ、わかるけど』

杉本は肩にかかった黒髪を後頭部に纏め、一般的に言われるポニーテール状態となる。

『ここは、いかなきゃ。結果はどうあれ』

ホワイトハウスばりに強固だったバリケードは、彼女の目力によって決壊。

その目をするのなら、止める訳にはいかない。

『…わかった、骨はひろってやるからな』

縁起でもない!と思いつつも笑顔で返す。

結果は大事だが、どんな結果になろうとも受け入れる準備は終わっている。

結果論なんて、無用の世界に我々は生きているのだ。

歯を食いしばって、熱き血を垂れ流して。

『片手だからこその戦い方があります。それを忘れないで下さい』

師範代に言われりゃそれが正論。

手を軽く挙げて、それを了承しつつ前進。

そして終着点に立つ。

『楽しい時間とは、早く過ぎ去る…誰が言ったか』

刀を振りつつ話すクラール。

『先程もな、早く過ぎ去ったわ』

型はない、だが型の様に体を納める。

戦いの前の、ちょっとした時間。

棒立ちはカッコ悪いってだけの理由?

一方の杉本、不満そうに首を傾げる。

『私は別に楽しくもなんとも無かったから、普通に過ぎ去ったけど?』

ベニスソードを構える。

終極と名付けられた両刃の剣、極限状態を終わらせる為に作られたレッドの愛用品(6代目からの)

『だからこれからも、何を楽しむ事もなく、何も感じること無く貴方を止めるだけよ』

ベニスレッド、開始のゴングを待たず開戦。


戦いの始まりは簡単であり、特に見所もなく過ぎ去る。

だがそれも必要な儀式のようなもの。

いきなりのクライマックス、あろうハズがない(たぶん)

『フフ、楽しいだろうレッド?』

返事する気のない杉本は、この無駄ながら必要な始まりの儀式中に考える。

いや、思い出すが近いか。

今は亡き、未来を誓った相手の事を。

今、目の前に居る男が行動を始めなければ、私は今ここに居なくて。

もしかしたら主婦として、毎日楽しいんだかグウたらなんだかの暮らしを?

そう思うと、感情は難しく交差してゆく。

確かにその未来は望んだ。だが、そうなっていたら後ろの2人+αとは出会えず、

でも仲間を失うという絶望感を味わう事もなく。

やはり私たちに結果論は不要品。

一分一秒、精一杯生きるのだ。

手足と思考が働く限り。

この命が続く限り。

そう思うと、この時間が惜しい。

さっさと終わらして、日本に…

『クラール…』

その時の杉本の表情は、クラールの心を揺さぶった。

タイプとか、そんな単純な理由ではなくて。

心が、震えていた。無くしたハズの人の心が。

『さようなら』

川端より引き継いだ奥義を、披露する時は来た。

曇りのないその瞳に宿る悲しみを、拾いし人の心を持つ怪人に、炸裂させるのみ。

『封・燐・果・斬…』

いきなりのクライマックスが訪れる。


大気を操り、対象物を縛ってゆく。

その全てを知ったる対象物、それを受け入れる。

『素晴らしき牢獄…』

余裕は何の為に?

やはり先程からずっと、止めて欲しがってるのね?

いいよ、叶えてあげます。

ゆっくりと、休めばいい…

着火、焔がクラールを包み込む。

その焔にて、はっきりとは見えない表情。

だがうっすらと笑みを溢している様子?

杉本は構える、そして彼の願いを受け入れるのだ。

瞬時に放たれる108の突き、そしてそれを無抵抗に受け入れるクラール。

開けられたる108の穴、飛び散ると同時に焔にて蒸発する血しぶき。

杉本は最後の振りかぶりを、それは介錯の儀。

『そう…これが欠点』

聞こえたのではない、脳の中に響いた感覚。

と、同時に痛みだす腹部、流れ落ちる正義の紅き血。

『108の突きを受けて反撃する者は居ない、そういう想定で作られた技』

更に朧を腹部へとネジ込むクラール、杉本の背中より朧の剣先がチラリ。

『杉本!』

駆け寄る2人よりも速く、更に押し込まれてゆく朧。

そしてその剣先の飛び出し速度と比例して、ゆっくりと脱獄を成功させていくクラール。

『楽しい時間とは、本当に短い…』

一気に引き抜かれる朧、杉本の腹部より飛び出す大量の鮮血。

崩れ落ちる紅き正義の使者、それに駆け寄る仲間。

『杉本!さん!』

重なった二つの言葉が、杉本の耳に届く。

いや、聞こえてるのか本当に?

体がそれに反応することがない、何やら他人事の様でもある。

…口の中で鉄を舐めてる様な味がする。

それが血だと気付ける程の思考はない。

『牧野!止血を』

『やってます!』

完全に戦うことを辞めた3人の背後にはクラール。

朧に付着した正義の血を、美味しそうに舐めつつニヤリ。

『いいのか背を向けて?』

ゆっくりと振りかぶり、ゆっくりと前進。

『ほら、早く気付かないと剣先が届いてしまうぞ?』

杉本の治療で必死な2人には聞こえない声量わざと

だがこれは2人が悪いのだ。

戦いの最中に、戦いより優先するモノ等はない。

全ては戦いの終結時に決するのだ。

過程など、関係ない。

戦いより優先した、2人の敗北なのだ。

『そうか、本当に残念だ…』

竜泉の調べとやらも見たかったが、それは仕方のない事。

ゆっくりと進んで来ていたクラール、次は正反対の一気で降り下ろす。

…ガキーンと鳴るようなナマクラではない。

それが2本ともなれば、尚更である。

キュイーンという音に近い、甲高い音色が室内に響いていた。

『…そうか、解かれたかステイシア』

残月にて攻撃を受け止めるステイシア。

その眼差しは一点を見つめる。

『どうだ杉本は?!』

見つめる先に横たわる者の名を、ここで何回呼ぶのだろう?

でもそれで最後にならなくて済むなら、何度だって言うし叫ぶ。

だが返事は貰えそうにない、代わりにレイニーの表情が物語る。

危険である、と。

ならばと前を見るステイシア。

2人居てそれなら、私が居ても一緒。

ならば排除しよう。

起きて来た者が、悔しがる様に…

『さぁ、とことんまでやり合いましょうか?』

朧を弾きつつ、その決意を瞳に込めるステイシア。

それを受けるは全身小さな穴だらけのクラール。

まぁ、血の流出も止まり、支障はないようだが?

『…そうか、やはりお前とはこうなるのか』

『そうだね、決まってたんだ、きっと』

そこには懐かしさや悲しみとは違う風が流れていた。

竜泉流師範の牧野なら気付けた変化も、今は不可能。

(最大限で治療中)

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