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②ー16


ー16


人知れず戦う男がいる。

身体の震えは武者震いの類いではない。

単純に寒いのだ。

もはや限界が近い。張りたくったガムテープの効果も薄く、やはりエンジンONからの暖房以外打つ手はない。

右手が伸びる、そこにあるのはエンジンスタートボタン。

捻りも暗証番号も要らない、ただ押すだけ。

それでこの地獄より解放されるのだ彼は!

…だが彼は押さない、何度と無く伸びた腕を畳み耐える。

皆頑張っているのだ命を賭けて。

私がそれを放棄して、奴等の安泰があろうハズがない!

『…!』

聞こえたか、見えたか。

小杉はひとつの悟りに至る。

(これ、今呼ばれても動けないのでは俺?)

その時の小杉の突きの速さはレッドクラス。

動き出す時間と、流れ始める暖風。

(取り敢えず、身体を温めるだけだ取り敢えず!)

エンジンが切られる事は、もはや無かったそうで…。


16階よりダイブし、蝙蝠の羽にて一気にオペ棟入口へと向かう3人。

地上には大量の怪人がまだ、蠢いている。

クラールを倒したとしても、彼?等は残る。

いや、残って貰わないと少し困る。

川端が、生き続ける為には。

その為ならクラール撃破後のクタクタさんだろうと、頑張りますとも。

さて、折角上空からショートカットしているのだ、このまま上階フロアへと進入したい。

『うん、入口になりそうなの1階にしか無いじゃん』

幾つかあるハメ殺しの窓の強度が普通なら良いが、防弾仕様とかなら撃墜されるオチ。

3人は最低限の案パイを切るべく、1階玄関へと着地してゆく。

そこに待つのは数十人の怪人たち。

それをかき分けて侵入するのみである。

『レイニー!』

相変わらず説明がない。まぁ、分かるけどさ。

上空寄り急降下にて炸裂させるベニスイエローのヒールアタック。

その衝撃にて周囲の怪人モロとも砕いていくのだ。

『一応ね、そこまで良い気分では無いのよ』

は、レイニーの後日談。

『道は出来た、突っ込むよ!』

巧みにエアを噴射させたる2羽のコウモリは、一気に入口より侵入、それに続く3羽目のレイニー。

が、3羽目は緊急停止。

前の二人が止まっているのだ。

立ち塞がる怪人が?

…ではなさそうだ。

立ち塞がるのは壁、玄関のエントランス的なものが、ここには存在しない。

右に見れる非常口は、恐らく階段。

正面に見えるのは、ずっと上の階まで繋がっているエレベーター。

進む道は、その2択。

正直、また階段?はある。でもエレベーターに乗ってしまうと回避不能な攻撃にサラされる訳で。

つまりは実質の1択。3人は小さな溜め息を吐きつつ、その段差地獄へと挑んでゆくのだ。


普通、非常階段は縦へと伸びる。

短くギザギザに繰り返された階段が、縦へズドンと伸びる。

だが、ここは違う。建物の壁沿いに端から端まで階段が1本に伸びているのだ。

だから、踊り場までの距離は長く、長き階段を延々と登り続けなければならない。

それが疲れの蓄積が色濃い3人の顔色を、更に酷いものへと変えてゆく。

途中の非常口にさしたる成果が無いのも合わさって、3人の足、止まる。

『はい、5分休憩~』

絞り出した杉本の声に、2人は従う(喜んで)

ヘルメットを外し、楽な姿勢を取る面々。

まぁ、既にヘルメットを無くしている杉本には、関係ない作業だが。

しかし…と階段の先を見る杉本。

この先の事が見えてこない展開、小窓から入る灯りと、無機質に光を放つ非常灯。

壁は白く、それに合わせて心も白くなっていくイメージ。

病んでくる展開である。

そんな中、レイニーは呟く。

『いったいこの真ん中に、何があるって言うのよ…』

杉本も感じていた、その疑問を。

明らかに中に何かがある。それを囲うように階段や小スペースが並べられているのだ

『どっかから、中に入れるはず、よ』

歯切れが悪いのは考えながら話しているのもある。

だが一番は、中の物に覚えがあるから。

正しくは思い出したから。

それを、ここにいるメンバーは理解している。

このメンバーなら、分かる。

『…さぁ、行こうかね?』

4分程で告げられた言葉に拒絶反応することなく立ち上がる2人。

再び、階段地獄へと…。


非常口の数から想定されるのは、ここが15階であるという事。

扉を開けてすぐに分かる、中の物が何かという事。

『…やっぱりね、これだよね』

一部のガラス張りから見える数十発の立ち昇る鉄の塊。

今回の弾頭が何かまでは分からないが、全長は7メートル程だろう、短距離であって欲しいが形状から想定されるのは長距離巡航型、か。

大陸間弾道でないのが救いなのかな?

まぁ、持ち運ばれたら同じことだが…。

『弾頭、核ってことはないわ、たぶん』

その代わり、最悪なものが積んである可能性。

『空気感染が可能な怪人化エキス、なんてね?』

陽気な司会者が激しいアクションの末、正解!っと叫ぶ姿を想像したくない。

だが、おそらく、それは、当たりだ…

【当たりだ、景品は何がいい?】

またお決まりの館内放送。出てくればいいのに…。

貴方の命よ!っとか、叫ぼうかな?だったが、迷っている内に続きが。

【全人類怪人化、そんなんでどうだ?】

いらん!

それは流石に即答である。

だが、それなのね。

それが狙いで、時間は何かのタイムリミットがあるのだろう。

何か?なんだろう…

【ロシアはすでに、テーブルに立つことを決めたよ】

この垂れ流される放送、時間稼ぎじゃないの?

と思いつつも、そこは礼儀とお約束。

大人しく応じるベニス戦隊。

【後はアメリカ、そして日本か…】

今なら口が軽そうだ、聞いてみよう。

『打たない見返りは?貴方の事だからお金なんて言わないよね?』

先程、戦った間柄。少し距離は縮まったかな?

【お金は大事だよ、だがそれ以上に大事な物は…】

愛だ!っとか言ってくれないかしら?

【…死体だ】

少しでも楽しく対応していこうとか考えていた自分を恥じる。

奴は敵なのだ、辻本を奪い去った悪魔の輩。

憎悪とか恨みとかをブツけるだけの存在。

【流石に我々もな、死体は作り出せぬ】

聞きたくもない話が始まった。

【だから亡くなった者を3時間以内に冷凍保存し、我らに差し出せよ、と】

使い道?はハッキリしている。

それを許せる訳もない。…だが。

【人としての生命を全うさせてやろうと言うのだ。いきなり怪人化されるより、良かろう?】

その通りである、決して肯定すべき内容ではないが。

『死者を弔うことも、大事な儀式…』

牧野が小さく震えながら声を絞り出していく。

『大切な人を失って間無しに、凍らせて出荷しろ?…なんて酷な…』

失ったから解る、その時を体験したからその後の行為が不可能であると。

『日本代表として、言わせて貰うわ』

ゆっくりと伸びる人差し指、行き着く先は目に見えぬ悪魔の根源。

『そんなテーブルに着く用意も意味もないわ、悪には屈さない!』

はて、レッドとして前へ出るタイミングのハズが、すっかりピンクに持ってかれた様で。

『アメリカも、テロリストの要求は一切受けないの、断然拒否よ』

私の意見がアメリカ代表よ、の言葉を添えて…。

レイニーにも持っていかれた杉本、一応私もおりますよと発言する。

『そういう事なので、貴方の野望は摘ませて貰うわ、クラール』

最後を旦那様に変えようか一瞬の悩んだが、ヤメ。

【フッ、ならば止めてみせよレッド…】

プツンっという音がしたので、これで彼からの発信は終わりなのだろう。

杉本は側に居る2人の頼もしき仲間に目を配り、その意思を告げる。

『いきましょう、最後の仕事を終わらせて、日本に帰ろ』

頷く2人と共に走り出す。

目的地まで、一気に…休むこと無く。


『目、覚めたか?』

岡林は状況を理解するのにかなりの時間を有する事を瞬時に察知した。

隣の緑色は理解したのか、そのスーツを脱ぎ去り何やら瞑想中である。

『主らはな、まず精神から鍛えねばならぬ』

うん、そうだとは思うけど、今ここで始めること?

だが容赦無しのようだ、従わねば何をされるか分かったもんじゃない。

『主らにはまだその着衣は10年早い、脱げぃ!』

マジですか…?の口答えをしようものなら根性注入の平手打ちが必ずくる。

岡林は学生時代バリの声量にて了承、精神精進の儀を行ってゆく。

(おい御堂、今なのか?これは今やるべき事なのか??)

最大限の静音も、聞き逃す訳のない川端に、根性注入の平手打ちを頂戴する岡林。

それを横目にバカだなぁ…と考えつつも態度に示さない御堂に、共同責任と平手打ちを放つ川端。

謝罪は後でゆっくり…と思っている岡林に、コンマ何秒の殺意を贈りつつ儀に戻る御堂。

その一部始終をぼんやり眺めるステイシア。

ここだけ、時間は停止しているかの如く過ぎ去る。

だがそれをヨシと一番思っていない者により、動き出す時間。

『さぁ十分休めたし、私は行くわ』

理由がある、行かねばならない訳がある。

それを感じたか、はたまた知っていたかの川端、納刀したる残月をスッと差し出す。

『お主なら、使いこなせるだろう。そして存分に振るったなら、杉本へと』

ベニスナンブの残弾数からしてありがたい申し出。

残月を両手で大事に受け取るステイシア。

『はい、託されました』の言葉と共に。

『ここは女性陣に任せて、アンタ達はしっかり鍛えて貰いなさい!』

颯爽と駆け去るステイシアを見送る事しか出来ない二人。

生身なのに?

戦隊でもないのに?

自身への怒りと共に立ち昇る蒸気、それは闘志を示したる熱量であり、精神力の掲揚。

『うむ、それだ。その感覚を忘れるな!』

残月を持ってないのだ、今なら出し抜けるか?

とか考えつつ2人は探し始める。

川端を出し抜けるタイミングを。

まぁ、そんなもの、無いのだけど…。

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