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②ー14

ー14


『安心しなさい、私の合図無くして発動はせんよ彼は…律儀な男だからな』

下の者ならいつでも殺せる、か。

まったくナメられたモノだ、我等ベニスの底力とかクソ力とかを知らんな?

…とか本当は言いたい。

でもあの技はダメだ、簡単に命を刈り取るだろう、根こそぎ。

『合図?良いわねテレパシーとか便利で』

『ふっ、そんなモノまだ実用化されとらんよ』

『え?そうなの?せっかく愛する貴方との会話、何時でも出来るって楽しみにしてたのに…』

クラールのニヤケ顔が気持ち悪くて、やはり無理だと理解できる訳で(小杉統括以上に)

でも今、理解したかったのはそこではない。

(それはそれで重要だが)

合図を伝達するには最低限の行程が必要であるという事。

頭で念じれば終わり、ではない。

ならばやれるべき事がある、想像できる合図を送る手段、それを除外することが。

杉本はベニスソードを鞘に納めた。

パチーンと音色が響き、時間の流れを鈍化させてゆく。

『うむ、利口なる行為であ…』

納刀状態のまま、突きの姿勢を取りテイクバックしていく杉本。

クラールの言葉を止める光景。

『…全てを知らされている訳ではないのね?』

この構えにピンと来ていないクラールを見、確信する。

川端の、初代レッドの本質の部分を。

『ベニス・ブレッド』

突き出される納刀状態のベニスソード。

そして弾き出される鞘、弾丸だか砲弾だかと化され、クラールの元へ。

ベニスレッド実施要領書にあった、一通り使えるようになれよ技の、ひとつである。

ここで知らない事がクラールに完全なる後手を選ばせる。

胸目掛けて瞬時に接近する鞘、朧にて防ぐ他の選択余地無しである。

鞘を弾くために振り上げられた朧、そしてその空いた懐に飛び込んでいく7代目レッド。

一瞬の判断が生死を別つ、ヒリつく時間。

それが欲しくて、ここに居る訳ではない。

だが抑えられない、心の高揚を。

人間として、戦闘を職に選んだ者として。

杉本は朧から一番遠い側へと体ごとスライドさせてゆく。

振り下ろされるであろう朧からの回避と、その先にある目標物奪取の為に。

その先にある物、それは左手。

抜刀されたるベニスソードを手首と肘の中間にあてがい、その距離を広げる。

青き液体の流出と、聞いた事のないダミ声。

また身体に青い液体を浴びてしまった事を後悔しつつも、目標達成である。

(左手でワープ、合図はそれを使うのでしょう?)

杉本はサイドキックにて、本体と切り離された左手の距離を更に広げる。

少々残酷で、楽しい行為ではないが、直ぐにくっ付けて再生では、嫌な思いをした意味がないから。

『むぐぐ、流石だぞレッド…』

痛そうである、怪人なのに?

青き液体も、止めどなく流れている。

(すぐに生えるか、取り敢えず血は止まるか、無いのかしら?)

予想に反して苦しそうである、未来の旦那様は。

…動きはない、ただ現状をもがき苦しんでいるクラール。

もしかして当たり?

左手が合図のキーであり、しかも直ぐには再製できない?

ここは、山場なのかもしれない。

必殺技を披露する、その時なのかもしれない。

杉本は無言で逆手持ちとなる。

その意味を告げる必要も、もはや皆無。

『ほう、決める気か。それもよかろう…』

狂信したる者は、自力でブレーキを踏む事が不可能となっている。

だから、常に誰かに止めて貰いたいと願う。

クラールも同様、自身のブレーキとなる存在を探してさ迷い、そして巡り会う。

『貴方は下の者は人質と言った。でも実際は違う、追い詰められたのは貴方』

そこにあるワザとそうしたな言葉。

ならば望みを叶えよう、嫁に迎えるとまで言ってくれた想いに応えて。

『ベニス・スプラッシュ…』

7代目レッドの現時点最大にして必殺技と呼ぶに相応しい技にて、終わらせる全てを。


『私なら、左手を蹴る前に右手を刈り取ったがな』

間合い調節の1歩目と同時に開かれる唇。

『お前の剣が届くのと、私が掌を突き出すのと、どちらが早いかな?』

テイクバックもなく突き出される掌。

そして放たれる禍々しい臭気。

グラン・ドレス、そう呼ぶらしい。

杉本の身体がスッポリと収まる程の巨大な臭気の筒は、技を発動中の杉本に直撃し、

そのまま後方へと吹き飛ばしてゆく。

そして悪趣味な油絵を破壊しつつ着地、まぁ勿論脚ででは無く、身体ごとでだが。

(何よ!止めて欲しかったんじゃないの?!)

思わぬ抵抗に、身体の痛みよりもアイタタな展開。

ゆっくりと立ち上がる杉本、臭気といっても風に近いグラン・ドレス。

ダメージは残るが、戦闘力の低下を示唆する程のモノは無さそうである。

クラールは傷付いた左腕に止血を施し、こちらもゆっくりと立ち上がる。

『ねぇ、怪人なんでしょ?』

質問の規模は大きいが、汲み取れるでしょ?の杉本。

『怪人にだって、出来る出来ないはあるさ』

そう言いつつ、再びベニス刀・朧を手にする。

まだ戦えるのは杉本だけではない、か。

そしてグラン・ドレスは出さない、か。

何故?やはりその身体では無理がある?

ならばやはり、ここは山場。決めるべき時間。

『時間です、何時まで遊んでるのですか?』

気付かなかった、いえ気付いていた?

違和感無く表れたその姿に、見覚えはない。

『シューレか、もうそんな時間なのか?』

顔を縦に振るシューレ、そして耳打ちを…。

それに納得したのか、朧の納刀を指示する。

7代目のとは違う音色にて鞘に収まる名刀。

やはりこう言った所は日本刀に分があるのかな?

いや、そんな事よりも…

『すまんなレッド、続きは後でな』

何を仰る旦那様、逃がす訳もなく。

『貴女、こんな所に居て良いのですか?』

シューレ、と呼ばれた男が呟く。

何処に行けと?私の居場所はここにしかない。

『合図、彼に届けるのはクラールじゃないですよ?』

身体の線がピーンと伸びる。

そして感じる、その瞳の奥の冷徹さを。

『ま、どの道時間ですがね、合図無くても…』

その先は聞きたくない。

『彼は使用しますよ、いやしましたよ、かな?』

目の前の敵か、後方の味方か。

そんなもの選択の余地はない。

杉本は捨て台詞もなく来た道を全力疾走。

いざ仲間の元へ…。

『別れの挨拶もなく、行ってしまわれましたね』

クラール、不満顔にて応じる。

『そんな事よりも、大事な作業ですよ?』

計画がある、その通りに進めるべきなのは理解しているのだが。

『…行きますよ?』

その場の空気が変わる感覚がある。

その意味は色々あるのだろう。

無言で杉本とは反対の方向へと歩き始めるクラール。

その先にある彼専用EVまでの道程を、2人無言のままで。


林の時、ずっと頭で連呼していたよ…目の前の光景を受け入れる力をって。

何故今、小杉の言葉が過るのだ。

そんな覚悟は要らない、そんな光景になってるハズがない!

階段を数段飛ばしで下るレッド。

もう間もなく17階である、仲間の待つ17階。

階段の上部より下部階層が見え始め、杉本は視野を最大限にして、人影を探す。

…無い、人がいない?

そんなハズはないと飛び降りるも、そこは無人。

幾つもの破壊痕が見てとれる。戦いはあったのだここで。

だが残されているのは…

『杉本…!』

いた、ステイシアだ、ベニスブルー(仮)の。

駆け寄る杉本、そして確認するその傷を。

(決して浅くはないが…止血さえすれば…)

手慣れた技を披露する杉本、まずは目の前の仲間をレスキューしてゆく。

『なんなんだあれは、尋常じゃない…』

聞きたいのはそれではない、貴女以外のスーツ組の行方だ。

ステイシアは指し示す。その先に見える大きな穴、破壊されて出来た下フロアへと直結する穴。

『杉本…牧野を、牧野を…』

想像はつく、あの川端の攻撃を防ぐのはピンクのシールドと、彼女の防御センス以外にない。

『分かってる、ここで待ってて!』

杉本は大きく開かれた穴へとダイブしてゆく。

(この先の光景を受け入れる力を…)

考えずにはいられなかった。

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