②ー11
ー11
(ラピス…もうその中に貴女はいないのね…ラピス…)
(お前を武で護る事は出来ない、だから心を護る。この残されたベニスナンブの遺志のままに…)
(祖国アメリカの師範でも捕まるのか…生身の人では怪人には歯が立たぬ、か…)
(第8師団長って事は、まだ最低でも7人…こんな思いを後7回も?)
(人で無くなった者を解放するのが我々だ。妹の敵討ちと同等の使命…)
(レッドとして、皆を護りたいだけなのに…ラピス・ルダ、許して…)
6人の力を結集されたる時が、最高の力を発揮出来る時。
それは床に横たわり、砂と化していく第8師団長が証明してくれる。
『さぁ、行きましょう。』
もう必要以上の元気は要らない。
哀しみを抱き昇華させつつ、6人は進む。
『御移動されることを進言致します』
クラールの前に膝を突き刀を床に差し出したる男は第1師団長、川端尚樹。
『侍の遺伝子を持つお前が居るのだ、何も恐れてはおらんよ』
それは有難いお言葉なれど…川端はもう一歩出る。
『私もそう思います。しかし相手は6名、戦力を分散させぬとは言い切れません』
クラールは立ち上がり、川端の刀を掴む。
鞘より抜かれたる名刀【残月】、戦国魂の結晶。
『いいな…私はやはり日本刀が一番好きだよ』
鞘に納め、川端へと返納するクラール。
『私もな川端、疼きと渇きを満たしたい時があるのだよ』
クラールは歩む、そして壁に掛けられた刀を手に取る。
それは川端より頂戴し名刀【朧】、鞘より抜き輝きに酔う。
『どうやら出過ぎた申し出だったご様子』
パチーンと甲高い音と共に納められる朧。
『相対したい者の名は?』
『レッドをここに…』
了承した川端、深々と頭を下げ退室してゆく。
(私には過ぎた部下だ…)
クラールは静かに待つ、杉本と向き合えるその時を。
朧が杉本の紅き血に染まる時を、想像しつつ。
師団長の数は最大数8、それは次に戦った第6師団長が話してくれた。
(決して話さした訳ではない、勝手に喋ったのだ)
『元アナウンサー、そんなのまで入れてどうする気なのかしらね?』
クラールの気紛れが起こした事なのか、はたまた独特の意図が?
まぁ、気紛れなのだろう。特に危なげなく砂と化したのだから。
『はい、次ね』
次第にやっつけ仕事観が漂ってくる。元アナの前が料理人(イタリア料理)
その前が元弁護士。
はて、ルダは何だったの?
『さぁ、次の来たね』
5人目、それが階段の踊り場にて待っている。
黒人…男性…大男…手には棍棒?
『バロン・ベンドルガナ…なぜここに?』
発言主はレイニー、どうやら来たようだ。ベニスの身内シリーズが。
『いえ、直接の接点はないの。見たことあるだけで…』
アメリカンフットボールのQBとして、全米を渦に巻いた過去があるそうだ。
…3年前、麻薬のやり過ぎでこの世を去ったはずだが…。
『死者を蘇らせる?そんな馬鹿な!』
まぁ、人を殺して怪人にしてるのだ。それ自体が有り得ない事。
『死者を蘇らせることを納得しろと?』
岡林のそれを聞いて、動かなくなったのが約3名。
【答えを聞きたいかね…?】
館内放送から垂れ流される諸悪なる音、虫唾が走る。
『答えがあるなら教えなさいよ!』
レッドの何に拘るのか、クラールにも解っていないのかもしれない。
彼女に人を引き付ける何かがある、そんな単純な事ではなくて。
【納得する必要はない、そもそも死んでは無かったのだよバロンは】
麻薬中毒で再起不能、今のその姿を良しとしない者たちによって隔離。
そして死んだことにした、と。
【だから私が買ったのだよ、良い物件だからな】
人をマンションか土地の様に形容するクラール。
それを聞いて違和感なく聞き入れられる自分たちも、少しおかしい。(クラールの影響だ!)
【だからすまんな、お前の大切の人を起こすことは出来ぬ…】
そこに達は付くし、何よりなぜ謝られなければならないのだ。
『いいの、終わった事だから。終わりなくして今は無いもの…』
何を真面目に返しているのだ杉本!…っと思いながらも、声にはしない岡林。
ちょとこれは、簡単な事ではないからな。
【以上だ、私は18階でお前を待っているからな】
返事する間もなく、通信終了。
『首を洗って待っときなさい!』
どうせ聞いてるんだろ?と一応返す。
『アメフトって事は、力強い?突進系?』
気持ちを切り替えるために、自ら発言する牧野。
彼女には返してもらいたい人が2人もいる。一番期待やらをしたのだろうけど。
ステイシアの返答に、やはりか~っと目を細める牧野(極儀中ではない)
『私パ-ス、怪力系苦手なのよ~』
同時に杉本も手を挙げる。
『力で来られるとさ、一気に疲れちゃうのよね~』
どうやら今回はこういう流れらしい。
『拳銃1丁じゃね、止めらんないよね』
早く言わなければならない、言ったもん勝ちだ!
『モ…』
『俺のグラスじゃ、ちょっと厳しいかな?』
被された!そしてそれを知りつつ押し切りやがった!
残るは2人、男と女。
魅せる時が来たと理解する、今行くしかない。夢の国際交流だ!
『オ…』
『私が行くわ、同じ祖国を持つ者として、私が行かなければ…』
被された上に立候補、まだ辞退宣言ならスムーズな流れで魅せれたのに。
一歩前へ出るレイニー、呼吸を整えつつ相手を見る。
確か2mを超すQBとして、一世を風靡したはず。
どーみても2m以上はあるではないか。
横幅も普通の人ではないと分かるし…。
2歩目を出すか、正直迷う。
やっぱ皆でわ~っと行こう!っと宣言しようかしら?
そんなレイニーの前へと体を被せる紫のベニス。
『ここは俺だ、俺の出番だよレイニー』
男前の顔を見せているのだが、ヘルメット被ってるので分かる訳もなく。
『そうね、私じゃ役不足ね』
いえ、私の方が役不足ですよ…とは言い出せず、そのまま親指を立てる岡林。
さぁ、魅せる時だ。男の存在意義を魅せる時だ。
『グガラグゴォォー!』
ちょっと早くも嫌になってきた、岡林隆一(29)
猪突猛進って言葉はこういう時に使うんだと実感。
速度にして30km程の突進を華麗にかわす岡林。
これ位では、どうとしたことは無いが…。
『フンフン!ギャガガー!』
あ、力を貯めているね、つまりは先程よりも速く来るのね彼は。
岡林はジャベリンを装着する。出来るなら正面突きにて終わらせたいが、果たして?
『レディ…セット!』
突然の流暢、そしてベニスと被る。そして想像する本気の一撃かな、と。
『ハット!…ハットⅡ!』
アメフトの試合は観た事がある、よくあるあれだ。…タイミングが取り辛いな。
瞬間、あの巨体が巨大化し、突如岡林の眼前に現れた感覚。
ゴーの声もなく、瞬間移動する巨体。岡林はとっさにジャベリンをあてがい防御姿勢となる。
身体ごとの回避は不可能、それが岡林の判断であり、正しい判断。
だが、正確には正しく無い。その質量を抑え込む力など、岡林にはないのだから。
後方へ飛ぶことは当然実施、だが相手の速度の前では、そんなモノ無意味。
一瞬で後方へと飛ばされ壁に激突。
モノの見事に室内のレイアウトだかデザインだかを変更させてゆく岡林。
5人は、その飛ばされた方向に視線を集めていた。
『う~ん、これは6人で戦うパターンだったかしら?』
『の様ね、一人であれはキツイわ』
『しょうがない、今から5人で頑張ろう』
別に、岡林が嫌われ者という展開では無い。
信用しているのだ。岡林を…では無くて、ベニス・スーツの開発担当者を。
『痛いけどね、ものスゴーく。でも大丈夫』
その声のまま、姿を表すベニスパープル。
『ちょっとは心配するとかしないの?』
返事がないところを見ると、本当は嫌われてるのか?と酷く不安になる…。
『ホラ岡林、早く来なさい!』
更に怒られた…岡林は魅せる事なく出番を終える。
こんなハズでは無かったのだが、まぁレイニーのお叱りが、嬉しくもあった訳であり…。
『あの突進は防げません、タイミングで交わすしかないです』
牧野が言うんだ、間違いないのだろう。
『では男性陣囮宜しく』
言うなり飛び散る女性陣。
日本は多数決の国、これは仕方ない事と受け入れるしかないのだ。
『じゃ~少しはカッコいいトコ、見せてやろうぜ!』
御堂にも下に見られ始めた事を再認識する岡林、そんな役回りさ…。
『フンフン!ギャガガー!』
あれが来る、回避できるのか本当に?
『あ、俺のグラスじゃ盾にならないので…』
少しづつ、御堂が離れてゆく。
『おい、まさか…』
ハットⅢ辺りで一気に飛び去る御堂。
『えぇ、また喰らってください。その後無防備ですからヤツ』
交渉の余地なく巨大化していくバロン。
またもや岡林、成す術なく弾き飛ばされるのみ。
『岡林の死は無駄にしないよ!』
『弔い合戦だ!』
『よくも!岡林さんを!』
壁に埋まりつつ思います、本当に頼もしい仲間だな、と…。
今回は衝撃が強すぎたのか、そのまま落ちる岡林であった。
気付くとそこには砂の山。
あぁ終わったんだな、と認識する岡林。
『いつまで寝てる岡林、もう行くよ』
レイニーの当たりがキツイ訳ではなく、そういう関係に落ち着いたのだろう。
喜ばしいやら、何やら…。
岡林は身体中に付いたホコリやらを払い落とし、ゆっくり歩き出す。
(身体に痛みが残ってない、流石だなベニススーツは…)
戦える武器も防具も揃っている。
残すは敵、倒すべき存在。
『後何人だ?さっさと終わらせちまおう!』
肩をクルクル回しながら、走り始める岡林。
それに続き皆走り出す。
現時点12階、残すは後…。