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②-10

ー10


戦いが開始され、まだ数分しか経っていない。

その間に交わされた攻防の数々、それが竜泉の奥義であることは、傍観者達に理解出来る訳ではない。

だがその気迫と言うか迫力と言うか、伝わるモノで勝手に認識したフリになっている。

そしてもう一つ理解する事がある。押されているのは牧野だと言う事を。

『参ノ段の先、そろそろ見たくなってきたんじゃない?』

小休止は有り難いもの、牧野は気の入りを少し抑え、会話へとシフトする。

『参の次は四、パンチでも来るのかしら?』

怪人化して良かった事を述べるならば、それは疲れを知らない身体。

正確には疲れているのだが、それに気付かない設定となっている。

逆に牧野の息は少々荒く、スタミナの底が見え隠れしているのだ。

『パンチかどうかは言えないが、参の次だけは教えてやる』

『…だから四ノ段でしょ?』

チッチッチと使い古された人差し指否定を行うルダ。

『四ではない、死ノ段だ。私がそれを披露した時、お前の命は消える』

精神を揺さぶりに来たのか、はたまた本当に死を呼ぶ攻撃なのか。

どちらにせよ、どうせ出すんでしょ?である。

『申し訳ないけど、竜泉の技に即死を引き起こす技は…』

言いかけて止めた。そうよね、発展したんだもんね分家。

『あの世で8年前の自らに詫びよ…』

強制的に開始される奥義、牧野の知らない4つ目が来る。…死を呼ぶと言われる4つ目が。

『一つだけいい?』

体力回復の時間稼ぎではないし、恐怖からの脱却でもない。

言わなければならない事があるのだ。

『私はね、竜泉流の師範ではないのよ』

奥義への初動中に、一端停止。

『貴方の姿が変わったように、今の私はベニスなの』

今にも跳びかかる予定だった杉本以下の傍観者達、一端停止。

『ベニス戦隊東京支部所属、ベニスピンク牧野』

牧野も初動を開始する、それは竜泉の極儀、師範しか知らぬ極めの儀。

『人類に害を成すであろう怪人を排除する…それが今の私』

停止していたルダがゆっくり動き始める。

『私はクラール第8師団長ルダ…クラール様に刃向うものを排除する使命』

互いの意思は伝わった。残すは単純、背比べ。

『互いに倒すべき敵だというだけ、竜泉は関係なかった』

牧野の動きが停止、だが極義を止めた訳ではない。完了しただけの事。

『今、解放してあげるからね、ラピス…』

その呟きを聞き取る事なく、ルダは動く。

『宗家奥義、死泉陣!』

牧野との距離を一気に詰める跳躍と、先程とは違う速度の回転蹴り。

大前提、4つを出すと決めた時の動きは3割増しのご様子。

…牧野は瞳を閉じていた。正確には90%瞼を閉じていたのだ。

視界をあえて搾り、五感のバランスを崩す。

崩した分(今回は90%)を他の四感へと振り分け、身体能力を変化させる。

今回、振り分けた先は嗅覚50%、聴覚20%、触覚20%。

『壱ノ段!』

彼女から感じるモノは、違和感ではない。

決勝戦の時から変わらない物があった。

牧野は最小限の摺り足で、空中回転蹴りを回避する。

『弐ノ段、改!』

人には体臭がある。不快を与えるモノ、安らぎを与えるモノ、様々であるが。

跳躍により前進の速度が増した分、より鋭角に振り下ろされる踵。

(貴女の香り、変わらないよ。とっても心地好い…)

視覚をゼロに近付けようとも、臭いにて解るその身体の位置。

牧野は最小の動きにて、これをかわす。

『参ノ段!』

彼女には癖があった。攻撃の前に力を込めるのだろう、微かに聞き取れる息を吸い込む音。

ここまでの流れを分かってるのも重なり、前蹴りは牧野の身体まで届かない。

『死ノ段!!』

予想はあった、四つ目の型に。参を受け体勢が固まった所に繰り出す即死技であると。

首か頭部を刈り取る技であると。

ルダは手刀をクロスさせ、牧野の首と胴を切り離しにかかる。

耳で攻撃のタイミングを測り、臭いでその攻撃の動きを察知し、最後に触覚にて空気の流れを感知。

(頬に大気の変化が…)

牧野はくぐる、その死の手刀を、そして変わり果てた彼女の腹部に宗家の大いなる一撃を。

『good-bye、牧野…』

手刀のクロスが4つ目で、それで終わり。

それはあくまでも牧野側の推測であり予想。

クロスは死地へと誘う案内人、道に迷いし者を誘い込み、蹴り上げるのだ。

潜り込んだ牧野の身体が、ルダの前蹴りにて上空に舞い上がる。

(手応えあり…終わりだ!)

手刀を返し、閉じたクロスを開けばジ・エンド、死ノ段、死の十字架完遂である。

蹴り上げられ無防備に宙を舞う相手の身体を切断する事は容易で、

ルダはそれを迷いなく実行してゆく。

ステイシアの感覚は、それに追い付かず(いや銃を構えていたところで撃てる間などないが)

傍観者が助けにはいる時間もなく(いや声をあげる間すらなく)

十字架は完成してゆく。

『我々の存在意義を知っているな』

決勝前夜、今は亡き父に呼ばれ部屋を訪ねるなり第一声。

『承知しています、宗家を超え、我々が新たなる盟主となるべ…』

『ラピス!』

父の一喝は、何時も彼女の心を締め付ける。

自らの非を、強制的に認めさせられる瞬間。

それは恐怖の時間、自らが消え去る恐怖の。

『宗家を立てずに我ら分家の繁栄はない、理解しているな?』

していない、そんな戯れ言。

『明日、勝ってはならぬ。…負けねばお前は破門だ。』

それは親子の縁を切ると言うこと?

『話は以上だ、今夜はゆっくり休みなさい』

…休まる訳がない。

『私、優勝に興味ないの。…ラピスが望むなら、私負けよっか?』

5才も年下に気を使われたこと、左右の言ってる事が正反対であること。

何より自分が弱者であること、全て許せなかった。

『貴女の全力を見せて欲しい、私がお使いすべし宗家であると理解出来るように』

ルダなりに精一杯強がった。認めたく無い所を認め(た、フリして)

声に出すのも苦しい台詞を吐き出したのは、

左右どちらの願いを聞き入れるか、まだ決めかねているから…。

『分かりました、宗家の名に恥じぬ舞いを披露致しますので』

その真面目さが、更にラピスの心を裂いた訳で。


瞬きの間に広げられる死の十字架、肉を裂き骨を砕き、命を終わらせる。

竜泉の歴史がひとつ、終了するのだ。

その大役を果たせるのが誇りかなんてのは愚問。

ただ、気に入らないから暴れるのだ。

その先の考え等、体内のどこにもありゃしない。

(空気が軽い…手に感触がない?)

空を舞う木の葉を切断するのは容易ではない。

どんな達人でも、どんな名刀でも。

クロスの開きは虚しく、木の葉を舞わして終点へと流されるのみ。

『でた、空の舞…』

傍観者から観客となっていた杉本、唸る。

やはり弟子入りだ、本気で習おう竜泉流古武術を!

ひとしきり空を舞った牧野、そのままクルリと身体を捻らせしなりを作り力を溜める。

そして一気に吐き出す、ルダの盛り上がった肩付近へと踵を落としてゆくのだ。

道中にあった人としては不要の角を破壊しつつ。

鈍い音と共に膝をつくルダ、おそらくは鎖骨が原型を失ったのだろう…。

『これでもう、戦えないよね?』

それは牧野の願いそのもの。これ以上は辛い。

旧友とも同胞とも呼べる存在と、死だコロスだの展開になるのは。

『ククク、その甘さ変わらないな』

行動不能にされた左肩を押さえつつ、ルダは立ち上がる。

『あの日もそうだ、お前のその甘さゆえに私は…』

牧野はこっそり装着していたシールド(強襲モード)を外し収納する。

これがなければ、私もどこかのパーツを行動不能にされてたな…いや死んでた?とか思いつつ。

『あの日も?』

あの日とは何時なのだろう?

牧野の記憶には残っていないあの日。

でも何となく理解する、あの日とは決勝の日だろう、それ以外無い。

『宗家の名に恥じぬ戦い、披露できなかったから?』

決勝の勝者は牧野ではない、優勝はルダ。

本人の望まぬ結果であった。

『最後の最後、お前は手を抜いた。』

正確には打てなかったのだ、本気の一撃を。

『…ラピスの思い、知ってたから』

打倒宗家、ラピスの幼少よりの口癖である。(竜泉グループ内では有名)

『私が優勝するよりも、貴女こそ相応しいって思ってさ…』

『それが結果として、私から奪ったのよ!』

竜泉の名も、希望も未来も?

それがそこまでの事になる?

それが私の罪となる?

牧野には考える時間は与えられない。

『父がこの世を去るまでの期間、私には戻るべき居場所も、戦える場所さえも…』

『ねぇ』

ステイシアが割って入る、ベニフナンブのセーフティロックは解除のままで。

『そうゆうの、逆恨みって言うの、知ってる?』

ルダは高笑いし、2倍の口を更に広げる。

『逆恨みでもしなけりゃ、やってられないわ!』

ネジ曲がると、簡単には戻らない。

こじれると、修復までに多くの時間が費やされる。

一通り、笑い終わったルダ、少し表情を和らげさせる。

『でも今日で、スッキリしたわ。竜泉としては完敗よ』

ゆっくりと、しかしハッキリと、牧野を見つめるルダ。

『貴女の本気の一撃、効いたわ』

戦いが終わった時、友情が芽生える…これはそんなよく有る話では無さそうだ。

ルダの身体が小刻みに揺れ始める、気のせいか空気も変わってきた感じ?

『さぁ、ここからは…本当に関係なくなる…』

それが辛い、そこまでは言いたくないルダ。

勝手に想像しとけ、レベル。

ルダの身体の各所が腫れ上がり、巨大化していく。

『やめてラピス!』

届かない声はもう慣れっこ、そんなの嫌だ。

声は常に届いて欲しい、そしてそれが伝わってくれるのが一番であり、そうでなければ悲しみしか残らないのに。

『ウガアァァー!』

人ではない叫び共に、完全に人で無くなった容姿。

中身も全部、もはやラピスのモノでは無いの?

『ベニスセット!』

それは戦いの始動を告げる合図。

『さぁ、こっからはベニス戦隊の時間だよ!皆行ける?』

必要以上に明るく振る舞いのには訳がある。

皆理解するから、問わないし乗っかる。

『当たり前だ!こっちは暴れたくてウズウズしてたんだ!』

『一気に決めるよ!まだ先は長いんだ!』

牧野だって理解している、だから乗る。

『護りは私に任せて!』

チームとして完成の時にあり。

『よし、行くよ!』

ゴーの合唱は、今までの中で一番の響きだったとか。

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