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②-8

ー8


彼女のうごめきは納まり、そのまま停止かはたまた。

『…ここは?』

後者である、命は繋がる訳である。

杉本は彼女を解放し、状況を簡単に説明する。

『私はロシア人の父と日本人の母との間に生まれました。…名前は』

そこで固まるのは前回と同じか、いや続きがありそうだぞ?

『…ステイシア、だったと思います。』

曖昧だが、特に嘘を付いてる風も付く理由も無さそうだ。

まだ、記憶が不確かなのだろう。

『覚えてる最後って何?』

横からレイニーが顔を出す、ステイシアは少し考えてから…

『朝食に昨夜の残り物のシチューを飲んでた事、位かしら?』

ロシア語での会話、他の者には分からない。

『で、何を企んでいるの?』

『何の事かしら?』

ロシア語での会話、内容は…

『私ね、新聞読むの大好きでさ。読んだことあるのよね貴女の記事』

ステイシアは不適に笑い、ゆっくりと立ち上がる。

『人違いよ、きっと』『ふ~ん』

ゆっくりと、場の空気が変わってゆく。

ここに居るのは、その空気に敏感な者達。瞬時に理解する、ロシア語など必要とせずとも。

『別に全部が演技って訳でもないのでしょう?』

レイニーがステイシアの周りをゆっくりと歩む、観察と警戒とを込めて。

『本当に捕まり、本当に操られ、でも最後の記憶と両親だけは嘘。』

レイニーは立ち止まり、手首を回す…一戦交えるのか?

『アメリカ人はね、根本的に嫌いなのよロシアが』

ステイシアの表情も変わってきた、何故?

『そしてその象徴でもあるFSBがね!』

長すぎな人差し指にてズバっと突き刺すレイニー

過去に何があったか不明だが、彼女の憎悪にも似た感情は何だろう?

『ふふふ…』

ステイシアは更にほくそ笑む、腰に手を当てつつ。

『貴女だって嘘つきじゃない?新聞好きは本当だろうけど』

…さて、長らく放置されていた面々、特にこの人がもう限界である。

『あーもう!ロシア語禁止令です!レッド命令の!』

ステイシアに従う意味はないが中々の迫力、従うが易しかな?

『あ~ごめんなさい杉本、ちょっと色々あってさ』

そこには何時もの(正しくは杉本の知る)レイニーの笑顔が。

少し安心の杉本、改めて聞く。

『これはさ、簡単に言ってしまえばペトレンコの元カノだよ、FSBのね』

ふん!っと不満そうなステイシア、これ呼ばわりが許せないご様子。

だが…と杉本は思う。

(売り言葉に買い言葉なら、言ってもおかしくはないのに、言わないんだ…)

元カノ、言ってしまえばレイニーだって同様である。

だがそこは言わない、レイニーのデリケートな部分だと理解しているから?

突如現れたレイニーの旧友に、少しジェラシーを感じている自身が可笑しくて、杉本は笑った。

旧友の二人は、目前で笑っている杉本を見て顔を合わせる。

『で、これは誰なの?』

『これはさ、私の欠け替えの無い親友だよ』

その言葉がまた、嬉しかった。


ステイシア・ゲルツェン(36)

SVR(ロシア対外情報庁)の対外防諜局局員。

(レイニーはFSB(ロシア連邦保安庁)と思っているが、事実は異なる)

FSBアカデミーを経て、SVRへと進むのだが、詳細は不明。

『軍関係とも色々パイプはあってね、そこでペトレンコと』

珍しくよく喋るな、とレイニー。

昔話は嫌いだったハズなのに…。

『どっちが先だったんですか?別れるのと、レイニーを好きになるのと!』

牧野が食いついている。恋話は大好物の様だ。

一回りも違う年下の少女(亜細亜は更に幼く見えるわ)の輝いた目に、ついつい口の滑りは潤滑となる。

『私が振ったのよ、つまんない男でさぁ』

饒舌はいいが、愛する人の株を下げる発言は許せない。

『なんで振ったの?何がつまらなかった??』

杉本まで参戦、ここ社食はランチタイムの女子会・会場となる。

『…ぉぃ、、、』

勇気が必要な時、はじめの一歩が大切である。

その一歩さえ踏み出せれば、後は勢いでなんとかなるもんだ。

岡林も、その一歩を踏んだ。後は息を吸い込み、次の一手に賭ける。

バダーン!

扉の開ける音である。岡林の叫びでは当然無い。

『まったく…呑気にしてるから沸いて出たじゃないか…』

御堂の声は聞かないフリをする女性陣。

『さぁ、行くよベニス!』

リーダー特権発令の、無かった事にする作戦を受け入れた皆は、個別にセットし、ゴーしてゆくのだ。


『アンタは生身なんだし、下がってなよ!』

戦いながら言葉を交わす、それは余裕であり、敵の中にボス的な存在が居ないって事に。

旧友の忠告を聞く気の無いステイシア、ガンガン前に出る。

まぁ、アカデミー時代から男女関係無く鍛えられてきたのだから、スーツ無しでも十分お強い。

『アンタこそ、そんなの着てるわりに大した事無いじゃない!』

口を開けば喧嘩しかしない、過去に何があったんだか。

でもそんな付き合い方があっても良いのだろうは思う。

これはこれで、成立した関係なのだから、と杉本。

最後の兵隊を打ちのめし、静寂を取り戻す社食。

このままティータイムへと移行したい所だが、残念ながら時間の浪費、先を急ぐ面々。

『ここまでで十分よ、これから下に何も無いもの』

いつまで社食に居なきゃ駄目なの?と思いつつ、ステイシアを見る面々。

『で、結局アンタは何故ここに居る訳?』

ステイシアは周囲を見渡した。

ここにいるメンバーに言わない選択と、巻き込む選択とを瞬時に判断、甲乙を付けるのだ。

『…国内の事は国内で処理する、我々の鉄則でしょ?』

日本を発つ時、1つの不確定要素はあった。

敵はロシアか、クラールか、である。

正確にはクラールのバックにロシア政府は存在しているかどうか。

もし関与しているなら、我々イチ・サラリーマンに解決できる問題ではなく、

最悪、第三次世界大戦とかに発展するのでは?との懸念もあったが。

『つまりは処理しに来て、逆に処理されちゃった訳ね…』

そこまで言って、やはりと思う事がある。

確かに心音もあった、色々触らせて貰ったので、これが本人だって解る。

解るからこそ謎がある。

『処理はされてないね、貴女は生きてるもの』

普通ではない、勿論クラール理論を正論とするならば、だが。

『貴女を殺さなかった理由、何かあるんじゃない?』

全身スーツ姿の皆さんに見つめられると、なかなかに恥ずかしい。

だからといって、言える事など何も無いのだが。

『…さぁ?私が聞きたい位よ』

その時、それまで強かった彼女の風が弱まったのを感じた牧野。

何かあるんだろう、言えない何かが。

問い詰めるべきか悩む、だからとりあえず1つ終わらせよう。

『まぁ、私が聞きたいのはこれより上だけの爆破で本当に良いか悪いかだけよ。』

杉本の問いにコクンと頷くステイシア。

まぁ、ロシア政府とSVRに誓って嘘ではないと言うのだから、今は従おう。

『オッケー、では一気に地上まで降りましょう』


1階へ行く道中、レイニーが禁止令を破り、ステイシアに呟きかける。

『…何を隠してるのか知らないけど、私の大切な仲間を傷付けたら…貴女を絶対に許さないからね』

彼女は首を振り、英語で返す。

『私はクラールの仲間ではないわ、勿論貴女達の味方でも無いけどね』


土の上って、何故こんなに安心できるのだろう…

自然との共有をひとつの軸としたる竜泉流の調べ。

牧野は今、厳しかった修行時代にトリップしていた。

(幼少期から高1までの期間)

最後の調べをマスターし、師である父にしょ…

ドカーン!

折角の回想時間を遮る爆発音と硝子の割れる音。

これから私の高校時代の物語へと移行するんじゃないの!?

と不満そうな牧野は置いといて、開始である。

爆発はこれより先の戦いのゴング。

湧き出る怪人と兵隊、次の棟に行くだけでも苦労しそうだ。

杉本は腰に装着してあるガンベルトから一丁取り出し、ステイシアに差し出す。

『ちょっとヤバそうだしさ、何より私より貴女の方が扱いに長けてるでしょ?』

それは信用したとかではない、信用する事にしたから、という意思表示。

結果的に裏切られても、貴女を恨まないからね…そんな空気を漂わせる杉本。

(なるほど、レイニーがハマる訳だ…)

人を信用しない事が大前提の我らの世界において、信用する事が大前提の杉本は異質。

受けとる前に、ステイシアはレイニーを見た。

無表情ではあるが、この行為を煙たがってるとかではない。

(杉本が信用するなら自分も、か。まったく…)

妬かすなよ、とは言わない(言いたくない、とも)

ステイシアは無言で受け取り、すぐ違和感に気付く。

『装填数、8?なんともマニアックな』

予備弾装を渡しつつ、一言。

『怖がりだったからさ、1発でも多く欲しかったんだよ』

ここに、青きベニスは仮復活する。

勿論仮なので衣装チェンジも2丁拳銃でもないが。

『よし、進行の妨げになる者を排除しつつ、B棟に向かうよ!』

そういう所のヒキは皆無、のハズの杉本だが、今回は引き当てる。

18階で、奴は待っている。

飲む意味の無い、ワインを流し込みながら…。

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