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②-6

-6


5人の力が集約された時、ベニスの戦闘力は最大に至る。

つまり、今は最大最強ではない。

そしてそのマイナス面は3人側よりも2人側に如実に表れる訳で。

だから今、早急に合流する必要がある。

続けざまに男性陣を失わない為に、これ以上女性陣が悲しまずに済む為に。

『よし、14階確保』

もう、この頃になるとある程度の浸透がなされてて、研究員の大半は既に退去していた。

それは反対に迎撃体制が整いつつある現状を示していた。

そして待ち伏せる、命を狩るが為に。

『…ま、こーなるわな』

2人に覚悟と言う言葉は当然あった。

それは死の覚悟ではない、死線をくぐる死闘を行う覚悟だ。

13階は研究員の食事スペース(日本で言う社員食堂)、部屋数は少ないが食事スペースを広くとってある。

そこに、ランチ中?な怪人とそれを囲む同じ服を着た者達。

『遅かったわね、coffee2杯も飲んじゃったわよ』

一部流暢ながら日本語である。そして顔も日本人風である。

何より、女性である。

最上階とここと、男女が違えばもっとスムーズに事は運んだはずだ。

クラールの掌で踊らされているだけの存在では、最後の所で踏み潰されるのみだが…。

黒色の全身タイツ姿と顔のペイント。

日本の子供達が大好きな方の戦隊ものに出てくる理想の兵隊達。

その内、掛け声とか言うのかな?と内心ドキドキの御堂。

『さぁお前達、やっておしまい!』

パッと見い20代後半の女性怪人(見た目普通なので予測)が号令をかける。

『いやはや、なんとも古風な』

ヘルメット内苦笑いの岡林、応戦体勢をとる。

ここでテレビドラマなら、リズムカルな音楽と共に我々がクローズアップされるのに…

昔夢見たヒーロー戦隊ものを思い出しつつ、御堂も構えてゆく。

甘く見積もってもバラバラな兵隊達の動きがまたテレビドラマ風で、更に武器も持たぬ素手で殴ってくるもんだから、

2人も抜刀せず拳で語り合う。

…やはり、体温が感じられない。人の温度を作り出す要因の血液が存在しないからだろうか。

拳に乗っかるその冷ややかさが、彼らの記憶を嫌でも起こす。

だが、彼等は手を抜かない。むしろ敵討ちとばかりに拳と蹴りを叩き込むのだ。

そこんとこが、女性陣とは違う訳で。

まぁ、ダメージを受けてる風でないのは、同じだが。

『御堂…』

前回の戦いを経て、2人の意識はより近付いたと分かる。

名前を言うだけで、次の行動が理解できるのだから。

岡林はジャベリンを取り出し、そのまま突き立ててゆく。

怪人と化した者の命を刈り取る作業。

リズムカルな音楽は突如停止し、次々と水晶を破壊され行動不能となる兵隊達。

御堂もそれに習い、ベニスグラスにて殺戮を始めてゆく。

御堂の心底に有るのは怪人への復習、躊躇と言う言葉など皆無であるが為、はかどる作業。

ここに辻本が居たなら、怪人との共存共栄とか戦う意味は?とか悩むのだろうが、

今の2人にその感覚はない。

いや、辻本の命が消える前ならあったのかもしれない(特に岡林には)

だが今は、皆無。悪いのは辻本奪ったお前らだ!とばかりに、命を終わらせてゆく。

『皆…下がれ』

この時始めて実感する、彼女が怪人である、と。

彼女の背後から滲み出る、禍々しい負のオーラ。

威圧的で、好戦的で、何より妖艶で…。

『よくも可愛い部下を…私が相手だ、容赦しないよ』

どこまでも古風だなぁ…と思いつつ、ようく観察。

やはり体からは何を主として戦う怪人なのかは伝わらない。

手にしたる王笏をブンブン振り回すのかな?位の想像である。

ゆっくりと歩み出る女性、摺り足で歌舞伎役者の様である。

『あんた名前は?』

掌を広げ、相手へと突き出し問う岡林。

時間稼ぎの意味合いはあるが、名前くらいは聞いとこう、と。

少しの間、されど緊迫したときは長き間。

『名前など、ありはせぬ…』

与えられてない、という事らしい。

『それは、クラールから?』

彼女は首を激しく横に降る、そして否定した理由を語る。

『この世に生を受けてから今日まで、名前など…』

2人は、めくってはならないカードを表にした事理解する。

そして女性(と分類される存在)を泣かせてしまうことは、男の最大の罪であると実感。

ん?周りの兵隊も泣いている?

何なんだこれは…?

質問しただけだぞ?悪口言った訳でもないのに!

『ヨ、ヨクモ…泣かセタ…な』

あー喋れるんだと感心してる間もなく、襲い掛かってくる兵隊達。

その表情は赤く染まり、目の周りも赤く染まり。

親愛なる上司を泣かせた事に怒り心頭、か。

まるで人間、弱く強い支えの有る、人間。

(怪人…奴等は怪人なんだ!)

岡林の心は揺れるも、眼前に迫る者は敵。応戦しなければならない、生きるために。

明らかに動きの鈍った岡林の代わりにナタを降る御堂。

彼には怪人に対する同情とかは存在しない。むしろ好み、そして高揚してゆく精神。

その点で、彼は悪のベニスであった。それでも良いとトップが了承したのだから、ベニス公認の、である。

血相を変えた兵隊が散って逝く。それを傍観する2人が目を合わす、合わなければ良かったのだが。

『うわあぁぁぁー!』日本人で無かったら、もう少し意図は伝わなかったのに。

彼女は心を傷め、そしてこちらへと突撃してくる、仇打ちのために。

怪人の間にある元人間としての部分、恐らくクラールは残したのだ、普通よりも色濃く、我々にあてがう為に。

王笏での第1激を難なくかわす岡林。動きは鈍く、とても強化された怪人とは思えず。

普通の女性が長い棒を振り回しているだけ、鍛え上げられたベニスパープルに当たる訳もなく。

だが虚しく空を切るだけ、それが悲壮感的な演出となり、よくある時代劇の一幕のようで、岡林の心を揺さぶるのだ。

(正義って、なんだ!)

その押し問答に陥るのは簡単であり、岡林の人格上、簡単に抜け出せない訳であり。

十分な殺戮を楽しんだグリーン御堂、足らぬとばかりに王笏を振るう女性に目をやる。

(ククカク…まだ居た獲物…)

少々《タガ》が外れかけの御堂、一気に迫る。そして渾身の必殺技を躊躇なく披露するのみ。

『クロス・ザンダー!!』

手応えはない、あんな素人動きの怪人に回避出来る訳ないのに…?

『待て御堂、待つんだ』

なるほど…と納得の御堂。手応えが無いハズだ、邪魔をした奴が居たのだから。

『アレは怪人ではない、見ろ!』指先の終点に興味はない、だが一応先輩を立てる流儀も捨てられぬ。

御堂は従い、そして確認する、岡林の言いたいことを。

女性には胸がある。だから怪人化したら胸が3つになるハズ。

『なるほど、悲しい位の微乳ですね』

そう、彼女は微乳。ならば浮かび上がるはずだ真ん中に、第3の微乳がクッキリと。

『少しの膨らみのない、存在しないのだ水晶は…。』

この時の御堂の率直な感想は、だからどうした?である。

彼女だか怪人だか日本人だか関係は無い。このグラスを突き立てるのみなのだから。

話は分かった…とばかりに前へ出る御堂、殺意を込めたグラスが光る。

岡林はそれを察知し、彼の前へ立つ。

『操られているだけの人間、だとしても手をかけるのか?!』

これはレイニーの望んだ治せる怪人化ではないのか?

我々の理想と理念は、このレベルの話だというのか…?

メット内の御堂の口がニヤリと吊り上る。

そうだ、その程度だ。所詮は駆除する事が最優先なのだ、と語る瞳。

もはや、今の彼に本来の趣旨は伝わらず(そもそも伝わってないのだが)

『それは地球に害をなす害虫だ、駆除しないで何とする?』

一旦捕獲して、そして…的な説明の意味は無い。

それは伝わってくるグリーンより。彼は命を狩りたがっているのだ、片っ端から。

この世から怪人が消えてなくなるその日までずっと。

『天よ地よ、生きとし全ての精霊よ…』

聞く耳持たぬ男は詠唱を始める。そしてその行為が脅しでないと分かるように殺意を込める。

『3秒後、いくぞ…3』

いきなりカウントダウン?それは何ともせっかちだろ?とは思いつつ、ドースル。

『…2』

あれは何かを完遂するまで止まらいない決意に溢れたオーラだ。

『…1』

ならばとるべき手段は多くは無い。見捨てるか、はたまた…。

『…ゼロ、ザンダー!』

間髪入れず飛びかかるグリーン、その前方の味方ごと…まではいかないが、

女怪人(と、御堂は断定)目がけ振り下ろされるザンダー。

『…来い!』

微かに聞こえたその言葉、そして再び訪れる手応えの無さ。

右…居ない、左…ここにも居ない。御堂は自らが起こした砂煙の治まりを待ちつつ考える。

(女で失敗するのは自分だけで十分なのに…)

岡林の姿はここにはもうない。操られ女性(と、岡林は断定)と共に、何処かへと…。

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