②-5
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生きる意味を問う時、必ず表れる生涯の伴侶。
勿論、命の灯火が自然と消えるまで、ずっと傍に居れたらいい。
だが、そうではないケースもある。運命と感じた人と早々に別れなければならない状況、
それを回避できない人も居る。
そんな時、失った側はどうするのだろう。
運命だとは感じないけど…と妥協するのか、はたまた心に運命の人の面影を留めて生きてゆくのか。
答えをだすのは本人のみで、皆違う答えを見つけるのだろう。
ベニス・イエロー、レイニーの出した答えがなんなのか、今は聞く時ではない。
それを理解したる同種の存在である杉本は、口を真一文字に引き締め前方を凝視する。
(私は、どんな回答を出すのだろう…)
と感じながらも、今は凝視する。
諸悪の根源を。
『さて、問題だレッド。』
飛びかかろうかとする3人を制止するクラールの言葉にて、全員停止。
聞きたくもないが、聞いておかなければならない話かもしれないのだ。
クラールは腕組みを解き、何やらポーズを取り始める。
それがなんとも鼻に着き、やはりさっさと殴りかかろうか…。
『なぜ、私がいきなり出てきたと思う?』
間、そして考える。殴りかかれば良かったな、と。
だが人としての礼儀がある、答えましょうレッド。
『確実に、倒せる自負があるから?』
我ながら浅はかとは思う。だがこの問いに正解しなかったからと言って死んじゃう訳じゃ無さそうだし、
これ間違えたら次はないぞ!っとかでもなさそうだし。
杉本はあまり考えずに答えた、まぁ特にそれが良くも悪くもないのだが、(今回は)
パチパチとリズム悪く拍手されても嬉しくはない、クラールのそれは祝福ではない。
『半分正解、か。まぁ、言い方を変えたら正解か』
クルリとターンし、少し3人との距離を取るクラール、…何か企んでいる?
『確実に負けない理由がある、が正しい』
こちらに向き直しながらの一言、確かに言ってる意味は同じと言えば同じ。
でも正直だから?である。
何だろうこの時間は…と牧野が思い始めるよりも先に、世界は変貌していく。
カタカタと動き始めるガラスの円柱。そう、中の人?が小刻みに震えているのだ、クラールの合図に同調して。
『私は彼らを動かしに来ただけだよ、ベニスの諸君』
そう言いつつゲートを開放し消えてゆくクラール。まったく、無駄な話ほど無駄になるものはない、か。
『杉本さん、あれ!』
部屋の一番奥の円柱がゆっくりと崩れ落ちる。そして中の人(ロシア人風容姿)がヌルりと床に溢れ落ちる。
『…気を付けろ、動くぞ!』
レイニーの声に反応するかの如く、各所で一斉に落ち始める中の人達。
その数13体、嫌な数字だ(レイニーの個人的見解)
言葉として理解出来ない奇声を発する13人? …胸に見た覚えの有る水晶付の。
『残念ながら人ではなさそうね』
冷ややかに響くレッドの声に頷く面々、よく言えて死人、もはや戻ることなど無いのだ…彼の様に。
奇声の合唱が止むと同時に、こちらに顔を向ける13死人。
そしてその容姿からは考えられないダッシュ力にて、一気に襲いかかってくる。
『結構早いよ!』
レッドの言う結構はそれなりに危ない状況だという事実を、2人は知っている。
『よし、これで18階も無人になったはずだ』
2人に研究員追い出し指令が言い渡されたのだが、最上階の近況が全く気に成らない訳はなくて。
だがメット間通信にてキツく言われている、こちらに構うことなく追い出しヨロ~と。
だから前に進むのみ、アイツ等が戦い終えた後に『え~、まだ追い出せてないの?嘘でしょ?』
的に言われない為にも…。
二人は早々にポイントを定め、TFTをセットしてゆく。
時折、上階から激しい衝突音が響くのだが、二人は信じて自らの責務を完遂させてゆくのみ。
『さぁ、次の階だ…』
声に元気の無い岡林の腰をパーンと張る御堂。
『アイツ等が簡単にやられるタマかよ!』
置いてくぞ!とばかりにダッシュを開始するグリーン。
パープルも今出来る最大限を…と足を早めてゆく。
まぁ本来なら早々に合流し、5人で最上階を制圧すべきだったのだが…
全ては結果だけが真実となる。
『ふぅ…、まぁ予想はしてたけどね』
何度も壁に叩きつけ、拳に嫌な感覚が残る位に殴っても、彼等はムクリと立ち上がり、何事も無かったかのように猛ダッシュ。
それの繰り返しである。
やはり胸の水晶内の青い液体を空にするしかないようである。
が、やはり人の感覚と感情はコントロール仕切れないものだ。
(青い液体…辻本…)
彼が無くして果てた、その記憶がクローズアップされる状況、壊さなきゃ…でも壊せない。
こちらもそれの、繰り返しである。
恐らくクラールも、これを見込んでの事だろう。どっかでまた傍観者になっている?
それはそれで煮えくり返るのだが、現状はそれに浸かってしまっている訳で。
『レイニー、やるしかないよね?』
このままでは体力は尽きる、ゴールを前に使い果たす。
杉本はレイニーの後押しを欲していた。まだ弱き赤色、誰かの助けを必要とするのだ。
レイニーは何も声に出さず、一人で前に出る。
そして躊躇することなく胸の水晶に手刀を捻り込んでゆくのだ。
飛び散る青き液体と、先程とは違う奇声。
そして崩れ落ちるロシア風死人。
…目に見えない範囲で、レイニーは震えていた。
辻本の事、何より怪人化実験初の成功例となった運命の人の事、心が震える。
だが、それを見せては成らない。
後ろに居る2人の為に、道を示さなければならない。
一呼吸置き、レイニーは振り返る。
『さぁ、休ませてあげよう』
殺すのではない、救うのだ。それこそがベニスの本質である。
2人は返事こそしなかったが、次々と胸の水晶を破壊してゆく。
レイニーも、それに続き終わらせてゆく。
命である、大も小も高額も半額もない。
そこにあるのは命、かけがえの無い未来。
だからといってこの行為が、それに反する訳ではない。
終わらせる事で繋がるのだ未来が。
このままでは、何も産み出せないロボットだが、命の巡り合わせの時、再び未来が始まるのだ。
だから今は、眠りなさい。苦しみを忘れなさい。そして希望を抱き、来世でまた…。
最後の1体を倒した時、ヘルメット内で隠されていた3人の涙の川は止まっていた。
そして各々吐き出し、すっと背筋を伸ばす。
『男性陣、追うよ』
頷く黄色と桃色と、駆け出す赤色と。
3人の心を満たすのはクラール・ハウゼン。
奴の命のみ…。