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②-3

-3


上空から眺める雪原を楽しみにしていたのだが、本日は見事なる吹雪。

この日を選んだのだぞ?!っと鼻息の荒い統括をシカトしつつ窓に目を落す杉本。

(終わらせられるのだろうか、本当に今日で…?)

不安のない戦いは、きっと訪れない。

吹雪の日を選び、それに紛れ潜入しようとも、何時かのタイミングでは看破され、

そして囲まれ最後は果てる。

それが運命だとしたら、受け入れなければならない。

どんな状況であろうとも、どんな想いが交差していようとも。

どんなに、生への執着が強かろうとも、だ。

『少し揺れるぞ!掴まれよ~』

鉄の塊に揺られながら、自らの運命を思考する。

それは一人ではない、皆が共通の思考にあるのだ。死にたくはないが、カッコ悪くあがきたくはない。

先に逝った者たちに、恥ずかしくない姿で再会したいのだ。恥ずかしくないカタチで。

『みんな・・・』

赤色はリーダーの印、彼女の言葉で開戦となる。

『忘れ物、無い?』

何か重大な発表でもあるのかと前のめりも肩透かし。

『全部置いてきたわ、取りに帰らなくちゃ』

意図を理解したる異国の女性、さらりと足す。

『そうなの、私もね電気代の支払い忘れててさ、早く帰らないと電気止められちゃうのよね…』

本気の困り顔の赤いリーダー、それは年齢よりも格段に若く可愛く見えた。

ここ最近で5割の殉職率の男子も、乗っかって行く。

『なんだよ、俺だって今月一杯までの割引券貯めてるんだから、早く帰らなきゃだ』

『猫の餌、足りてるかな?』

ここは居酒屋でも東京支部の楼幻の間でもない、死地に向かう鉄箱の中。

だが皆リラックスし、笑みをこぼし、友として語り合っていた。

それはある種の儀式、今日で今生の別れだとしても、何も残さない様に。

忘れ物を、残さない様に。

『オッケーじゃあ、さっさと終わらせてみんなで帰ろうか!』

杉本が腕を差し出す。それに合わせて皆突き出す。

合わさる掌、重なる魂。

『ベニス・セット!』

5層の体温検知システムはこの時ばかりと制御を失い、熱は上昇して行く。

(皆で帰る、皆を護る…)

リーダーの想いを具現化する程の激烈なるゴー!の掛け声にて、最終戦・開幕。


『寒い…!』

考えてみれば快適なのはスーツ着用の5人だけ。

ヘリで待つよりもダイブ地点にて戦況を伺う事にした小杉統括、少々ギブアップ気味。

そもそも生まれが南の方なのだ、寒さに耐えうる育ちではないのだ。

奥歯のみならぬ全身のガタガタを抑えきれない小杉、足取りも鈍る。

『統括、戻っててください。必ずやり遂げて皆で帰りますから』

あれ程恋人として無しな男だと宣言しても、やはり一応の上司。

ほっときゃ凍死しそうな姿を、そのままにも出来ず。

『…うむ、託したぞ杉本隊員』

普通なら、もう少しある押し問答。 …即決、そこに現れる小杉の現状。

(なら最初から来なきゃいいのに…)

一番彼との付き合いが長い岡林、声に出すことなく口をパクつかせる。

当然、それは伝わることなく、男は足早に去って行くのだ。

『さぁ、行きましょう』

鉄箱内の熱を返せとばかりに、5人は早足にて歩く。


『今頃きっと、ロシア最終地点ですね彼等…いえ彼女等は』

小さな部屋に差し込む細過ぎる光の線では、判別のつかない状況。

2人?の何者かが、語り合っている。

『無事、やり遂げられると思うかね?』

どうやらこちら側が上手の様だ、少々言葉が強い。

下手に出るべき男性と思われる人物?は、判別不能の表情を浮かべ呟く。

『貴方が選ばれたのですよ?』

その先に続く、だから大丈夫ですを言わない男性と思われる人物。

そう、選出したのだ私が。多方面に睨みを利かせつつ、この私が…。

上手男はグラスに注がせた液体(ワインと思われる)を飲みほし、

ゆっくりと腰を下ろした。

『戦況、分かり次第報告を』


雪原を歩く事に慣れが必要な場面も確かにあるが、それはそれ程までに重要な事ではない。

最新の靴底を所持したるベニス戦隊御一行様にとって、負荷が通常よりもかかる以外は、

特に苦となることは無い。

体温調節機能も流石の一言にて、これで負けて帰ったら製作者様に顔向けできない、的。

不安材料は無い、寒くもない、ハズが。

全員体を小刻みに震わせていた。

理由は多種にわたる。視覚的に寒さを痛感している者や、戦いに向けて武者震いする者。

そして前回を思い出し、恐怖で震えて居る者(3名)。

勿論、死の恐怖はある。やはり人間、死にたくはない者だ。

(自殺する人だって、本質は死にたくないはずだ。その世界から逃げる手段のひとつが死であるってだけで)

だが彼女等はベニス戦隊である。恐怖するのは死ではない。

皆の遺志や期待に応えられない事だ。

3人は震えを武者に変えて、この道を歩む。

『ここだ、ここから飛ぼう』

岡林の持つ腕時計型の小型端末にて確認するダイブポイント。

全員、バックパックの主電源を入れ、両足に力を込めていく。

『降下ポイントの設定はOKね、…行こう』

5人は順にジャンプ、鳥となり吹雪の中に紛れ降下する。


バックパックから蝙蝠の羽のような翼が飛び出し、5人の落下速度を減速させていく。

そのまま風に乗り、上空を舞うかの如く、降下していく5羽のベニス。

『見えてきた、あれがA棟ね』

メット内通話にて確認し合う5羽。エアの逆噴射も活用し、降下速度を更に抑えていく。

『監視怪人2名確認…レッド!』

あいよ~っとばかりに取り出すは引継ぎし拳銃。

ベニスブルーの無念を晴らすべく、今ここに健在。

一応射撃の腕は人並み以上よ、とばかりに狙いを定める杉本。

1発余分に放つも、怪人2名を亡き者と変えていく。

そこに、多少なりとも情やら同族意識があるのなら、麻酔弾なり急所を外すなりするのだろう。

だが、残念ながら彼らはもう同種の存在ではない。

元人間だろうとも、元同職だろうとも、倒さなければならない敵。

杉本は迷うことなく頭部を狙い、その命を奪っていく。

ブルーが考えていた共存共栄の道、今は0%なのだ。

ジャンボジェットばりの滑空からの着地にて、5人はクラール最重要基地に降り立つ。

そして速やかにA棟(ベニスサイドが勝手に付けた名称)の壁際に張り付いて行く。

吹雪とはいえカラーリングの鮮やかなる5名、簡単に発見されそうなのだがそれはそれ。

5人は静かに入口を発見し、A棟の1階へと侵入していく。


A棟の1階、都会でよく見れるオフィス1階的な作りで、今自身がどこに居るのかの錯覚を

起こしそうな感じ。

『ご丁寧にフロアマップまであるじゃない…』

流石に【ここに居ります byクラール】は、無いが、A棟内の一覧が見て取れる。

怪しい空間、不釣り合いな場所、多過ぎてどこから当たれば良いのやら…。

『とにかく昇りましょう、どのみち1階にお目当ては無いわ』

5人は周囲を警戒しつつ非常口より上の階へと進む。


現在6階と5階の踊り場、現時点での異常は見て取れず、同時に5人も発見されることなく。

だが、余りにも不自然な点がある。怪人と呼ばれる者たちが一人として棟内には存在しないのだ。

見て取れるのはスーツ姿の男と、白衣の男女。

まるで研究施設だ。

『つまりは、ここは研究棟?』

A棟改め研究棟への侵入を開始して30分。5人は共通の結論へと辿り着く。

怪人化エキスの研究・開発・生産工場、そんな役割だろうこの棟は。

『ここはここで、潰し甲斐があるんじゃないの?』

レイニーの言葉に賛同する面々、バックパックに装着されし物を取り出す。

TFTプラスチック爆弾。

ちゃんと3棟分持参なのだ。とっとと爆破してしまおう!

…それすなわち発見される事になるかも、だが。

事前に決めていた、エキス精製工場は早々に爆破してしまおうと。

だから発見される事に問題は無い、一番の問題はそこではない。

『多すぎるね、人が…』

多国籍にわたる面々、自らの欲望の為か金銭の為か、はたまた何らかの理由で働かされているのか。

(人質、借金、身の危険、等々)

いきなり爆発ドカンが本来はベスト、だがこの状況でそれは研究員全員の死亡を意味する。

『ふん、こんな奴らに加担してる奴は同罪だ。やってしまおう』

御堂の言葉にイエスもノーもない、しばしの沈黙が戦隊を包む。

『ピンポイントでの破壊、それが最良だと思うの、どう?』

建物は破壊せず、研究施設の重要箇所のみ爆破・破壊する…そう、それしかないのだ。

『まずは何処に何があるか、調べる必要があるね』

レイニーはいつも杉本の後を押してくれる。

迷いのある時と、確信を持ちたい時と、いつだって前進する力をくれる。

杉本にとって掛け替えのない存在、失えない宝石。

『本来は別れて調べたいのだけど、敵の力量が分からない今、全員で動こう』

6階の探索を終えていた面々は、7階フロアへと歩みを進める。

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