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②−2

-2


あの日より3日、各々の体力は回復の兆し。小杉は翌日の計画遂行を目指し、裏方として働く。

一方の表、ベニス5人は集結し会食を…。

『日本の冬とはね、根本が違うのよね』

愚痴というのは人々の大好物であり、それを吐き出したいがために、集う。

『まぁ、酒に困る国ではないのだけど、ウォッカだかウォトカーだかが合わなくてさ』

レイニーはセリフとは正反対に、その合わないと公表した酒を一気に注ぎこんでいく。

酔えればなんでもいいって事?っと牧野は思う。

そして自らもそうであるとばかりに、その合わない酒を注ぐ。

一気に全身が熱くなり、目の前の何かがボヤけてゆく。

急性アルコール中毒とかで運ばれるベニス戦隊ピンク!

そんな見出しの地元ゴシップ紙を想像しニヤリ、先に逝った馬鹿男二人に怒鳴られるわ…。

彼女らが宿泊するサンクロッツホテル、地下1階にある複数のBAR、その中の一室。

貸切は初めてなのだが、今日は他のお客が居た方が良かったに思う。

やはり、間が開く。そして思い出す彼を。

ほんの数日前までそこに居た、青色の若者を思い出す。

『成るべくしてなった、か』

杉本は統括の言葉を無意識に吐いていた。自身がそう思っているとか、そう思いたいとかは置いといて。

『運命は変えられない?変えたつもりでも、そうなる運命だった?』

それを言い出すと終わりはない。

決められた図式に沿って生きていると思いたいかどうか、だけの話。

『…彼は最後に我々の命を、運命を変えたの。そう思いたい…』

牧野がもう一度グラスを空け、続きを欲する。それを制止、少しだけね…と3割注ぐレイニー。

その後、この席で彼の事を語る者は居なかった。

皆避ける様に違う話に終始し、朝を迎える。


『敵はここだ、我々の使命は簡素であり明確。クラールを抹殺するのみだ!』

朝イチのテンションとしては受け入れがたいものである。

だが彼の熱量は収まるどころか再沸、ますます磨きがかかってゆく。

正直、途中から誰も聞いてはいなかった。各々の感覚で精神を研ぎ澄ませ、今日の決戦へと挑む。

その精神状態が安定しているのは、昨夜の愚痴大会のお蔭でもあり、先立った者の魂を引き継いでいるからでもあり。

何より、自らの死のイメージが湧かないからであり。

皆で東京の地を踏み、皆で辻本を弔う事。それがあるから、皆死ねぬ。

だがそんなのに確証も無ければ未来が確立されている訳でもない。

それをも含めた上で、彼女等は進む。

その為に新たなる弔いが生まれようとも、だ。

『…以上、諸君らの健闘を祈る!』


時代の流れに逆らうことが正しいとされた時代に生まれた者として、

この車内の光景に暫し酔いたい。

鷺宮へと向かうハイエース内とは違う光景。

林の忘れ形見となりつつある杉本を囲み談笑する面々、絶えない笑顔。

これから殺し殺されの血みどろの世界へと落ちて行く者達とは思えぬ、微笑ましくもある光景。

やはり…と小杉は思う。

過ごした時間は確かに大事だが、何よりは共有した時間のその内容。

ただ無意味に側にいたのか、はたまた命と魂を賭け、同じ道を同じ歩幅で…

彼女等にそれは不可避に降り注ぎ、友のロストを経て、今ここに完成の兆し。

この局面を打破すれば、新生ベニスの完成・成就となるであろう。

小杉の確信は現地へと赴く車内で膨れ上がり、膨張し、心を高揚させていった。

(やれるかもしれない、コイツ等となら…)

彼にも野望はあるのだ。

誰にも伝えていない彼の野望、それの成就。

その先にある未来を、期待に満ち足りた未来を、彼等は掴む事が出来るのだろうか。


『さぁ、到着だ。皆下りたまへ』

一瞬、どこの産まれかを模索させるのだが、そんなものに構っている思考は無い。

早々に切り替えて、いざ進む5人のベニス。

『…ここは空港?』

全員一致の見解を、第一人者として音に変えた杉本、そうここは空港。個人所有の。

『縁あってな、利用させていただくことになった』

空港を所有したる程の人物との縁、羨ましく紹介していただきたい衝動を堪え、

5人はその先の鉄の塊に搭乗していく。

『で、これは予算内?』

数年前製の米軍からの払い出しながら、当時の世界を空路から監視・統制してきた名機。

グリエディス29、ジェットエンジン搭載の武装ヘリコプターである。

『…なんでもな、縁ってのは大事でな』

男が目を細め始めた、これは長くなりそうだ。

レイニーは機転を利かし、即話題を変えてゆく。

『で、この借りたヘリでどちらまで?』

小杉の頭の回転は速い、だからその問いに反応する、本人の意思とは別に。

『ウラル山脈、ナロドナヤ山の頂上』

ナロドナヤ山、標高1894mで万年凍土なる山。1年中吹雪と積雪の地である。

『正確に言うと中腹までヘリで飛び、そこからクルッと回ってからのダイブ、でしょ?』

杉本がヤレヤレ顔で補足する。

彼は少々自分に酔う時があるのが良さでありネックであり。

長き話を遮られた影響か、目を細めたままの一言では、何も伝わらないのに…。

そんな小杉は細目継続させたまま、ヘッドセットを着用する。

まったく、経費削減の一環とはいえ、この男にどこまでの仕事をさせるつもりなのか会社は。

なんの疑いも無く操縦席にてエンジン始動する小杉を見つつ、哀れ半分感心半分。

初めは静かに、そして一気に回転を上げ轟音を響かせるグリエディス29。

『皆、準備は良いか?』

流石に普通目となった小杉が、統括として皆に問う。

それを受ける5人、既にベニスセット済み。

一応の寒冷地対応仕様であるので、それなりに快適なるスーツ内。

激しく動けば体温の上昇でスーツ内が熱くなるかも?の心配もない。

体温検知システムという捻りのない名称で、着衣者の状態を読み取り、常にスーツ内が快適に成る様な設計がなされているのだ。

まぁ、勿論スーツの機能を超えた温度には、耐えられないのだが…。

鉄の塊の上昇に合わせて込み上げる圧力が好みである人も当然いる。

この中では小杉を始め5人が得意というか、好む。

唯一の苦手者である御堂、内部の鉄柵をこれでもか!と握りしめている。

『ダメね御堂、力使い果たしちゃうよ!』

よくある流れ、年上の上司に恋しちゃうって流れ。

そんなのに落ちてもいいかな?とか思いつつ、御堂は笑った。

そんな片道通行な恋は御免だ、とばかりに。

ベニス戦隊東京支部に女子ベニスは3人。

全員がフリーであり、同時に全員がまだ、昔の恋を引きずっている…。

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