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28・29 ~真摯~

-28


長き廊下の先に見える重厚なる両開きの扉。なるほど、それ相応の門構えだことで。

3人は廊下の壁に注意を払いつつ、その奥を目指す。

天井、床、壁等全てに注意を払うのだが…特に異常は無く。

『侵入には気付かれているはずなのに…?』

導き出される答えは最深部が外れだ、ということ。ならばあのドアの奥の部屋をさっさと

終わらせ、1フロアずつ地上階へと進むのみ。

3人は小走りにてその先を目指してゆく。

安堵という感情は、時に人の五感を狂わせる事がある。

今回のケースもそれに付随し、それが3人同時だったことが事を悪い方向へと押しやった訳で。

よくテレビ番組で見る光景、落とし穴。あんなのは事前に打合せ済みなんだ、とか。

分かっているけど知らないフリして大げさに落ちるんだ、とか。

多種の考えはあれど、中にはガチがある訳で。

気付けない状況と完璧な隠しに対応するのは不可能である。

バシュン!

3人には何が起こったのかが理解できない。

(床が…消えた?!)

穴が開くとかいう類ではない、床全体が消えたのだ瞬時に。

手を伸ばせば届くとかの範囲ではない、中途半端に横幅が広い意味が良く解る。

3人の誰かが腕を伸ばせばフック付のロープが天井へと伸び、それに皆がぶら下がり事なきを得るあのパターン。

3人が3人とも他人へ期待を膨らませつつ顔を見合わせている。

そして気付く、今回誰もその装備を装着していないことに。

『あ~れ~!』

意味不明な叫びを残しつつ、漆黒の闇へと落ちていく3人。

『事前の打ち合わせ、何だったのよ!』

『想定内じゃないの、普通こんなのはさぁ!』

『いやあ~!』

ド・ドスッ!!

着地点は思いのほか近い、が急斜面。3人は暗闇のまま高速滑り台をしばし楽しむ…。


高速スライダーが楽しいのは、それがアトラクションであるからであり、

デートや旅行や、イベントに組み込まれた瞬間であるからである。

敵地で、突如、スライダー。楽しめる訳もなく…この先に何があるのかがまだ見えぬ状況では、恐怖心しか生まれず。

『光だ!』

前方の壁?から光が漏れている。どうやらアレをブチ破るかアレの前で何かがあるのか、であろう。

…残念ながら前者、ブチ破るようだ。先頭はレイニー、つまり彼女が穴をあける。

『ベニス・ヒール!』回転は不可だが、とりあえず足を前方へと伸ばすレイニー。

壁なら壁で、蹴破るのみ…

先程同様、焦りは人の五感を狂わせるもので。蹴破るべきか否か、冷静に対処できるだけの能力は彼女らにはある。

まぁ、今回は発揮されず、更に言うなら悪い方向へとは、行かず…。

バガヵァ!!

この世の何よりも硬い(当社比)との噂のヒールにて、引き裂かれていく空間と、それによって開かれる新たなる空間。

そこは部屋、大広間。

バレーボールのコート4つ分程の空間。

歴代のロシア芸術家が結集し生まれいでた場所のような、言葉を失うほどの奇抜。

無事着地した3人は、周囲を見渡し思う。

(なんてセンスなのかしらここ…)

『ウェルカ~ム』

侵入してきた壁より右手前方、両開きの扉が勢いのまま解放され現れる、今回の首謀者。

『クラール…ハウゼン!』

ロシア陸軍の象徴、赤きベレー帽を被り悠々と登場、だが…。

『ちょっと、何いきなり現れてるのよ?』

理不尽な質問の答えを聞く前に、継ぎ足す。

『大体、苦労して捜し当てた先に居るもんでしょ普通。罠にかかって落ちたら登場?無いわ。しかもウェルカムて英語だし。』

まくし立てる杉本、まぁ少し緊張が増しているのだろう。

それもそのはず、原則的に日本人は権力者に弱く、打倒何がしを掲げデモ隊を結成し徹底抗戦の構えを見せることが少ない。

権力に不満を抱きつつも、結果従う民族性。それが日本人の良い所とも悪い所とも。

3人は感じていた、その権力者たる威光を。クラールから放たれたる見えないオーラに

抗う術を模索していた。結果、吼えるしかなかった。負け犬の遠吠えと言われ様とも。

その様子を、微笑みながら見ているクラール。手元の資料によると身長は180cm台前半で、髪色は金で肌は白。そう一見アメリカ人に見えなくも無い要旨。

だからのウェルカ~ムだったことに、気付ける3人の精神状態ではなかったのが、

クラール最大のがっかりとなる訳で。

一歩、歩み出るクラール。体躯の良さからか表情を変えないまま歩き出した違和感からか、

その一歩で大気が震える感覚に陥る。それ程の一歩、世界随一の大国ロシアを裏から操っていたのは伊達ではなくて。

動けぬ3人に構うことなく歩を進めるクラール。

それを見ていることしか出来ない3人。

始まる前から、終わっている…。

『ようこそ、ベニスの諸君。』

部屋の中心部に印が刻まれていたかの如く正確に、その場所にて語り始めるクラール。

3人に許されたのは聞くことのみ。

『君たちを招待したのは他でもない…』

大きく手を広げ、そのまま一気に親指にて自らを指し示すクラール。

『この、私だ!』

この一連の流れに何の意味があるかを聞いてみたいが、それを許さぬ男は続ける。

『招待した理由はね、だ~れでも良かったんだけどね、ダーツがさ、日本に当たってさ、あれだよ、所ジョーシがやってるでしょ?』

ジョージだ!っと3人同時に頭で突っ込みつつ、理不尽に怒りが。

ダーツで決めた?誰でも良かった?

なら榎本官房長官もダーツで選ばれたから怪人化し、この世を去ったというのか?

対面していたときから感じていた違和感。

そう、この男からは感じられないのだ、人としての了見が。

何度と無く戦った怪人たち同様のモノが、この男からは流れてくる。

彼の持つ権力という名の傘が、それを滲ますのか?

いや、それ以前に…レイニーは頭にある知識を解放してゆく。

『クラール・ハウゼンは30歳で政界入りした陸軍上がりで、その先約30年間政界に根を下ろし引退。その後はTVショーのコメンテイター等を勤め…現在69歳のはず』

仲間の話に耳の全てを傾けていた2人はハッと奴を見る。

張り詰めた筋肉と艶のある肌感、とてもアラセブには見えない。

若作り?いや…

『若返りなの?』恐る恐る牧野が聞く。それを待っていた男は両手を広げシャワーを浴びるかの仕草にてイグザクトリィ!…正解であると。

若返り、それは人類永遠の夢であるべきもの。全ての生物に訪れる終わりという概念。

それにより成り立っているこの世界。終わり無き者など存在しては成らないのだ。

何かに気付いた杉本、どうやらまだ質問タイムの様なので挙手せずに聞く。

『ねぇ、怪人化計画と関係あるんじゃないの?』

クラールはOh!っというお決まりの表情の後杉本を褒め称えた、つまりはこれも正解。

『どっちが先だったかは、ご想像に…』

確かにそこは問題ではない、問題は若返ることが出来る事。

世の権力者たちが民衆から吸い上げた税金にて若返り、更に民衆から税を絞りと取って行く図式。権力を保持したる者のみが永久に幸を得るシステム。

『もう既に中東から何件か依頼が、ね』

それを世に流さす訳には行かない。ここで止め、消失させるべき発明。

腹は決まった、この人物は敵だ。我々人類の平和を乱す者だ。

『ベニス・セット!』3人だけでは締まらないが逆に女性だけの声で良いとの噂も。

『ちょっと待ちなさい、まだ話は終わってない。』

ゴー!の直前に急停止、少々イライラ。

『で、なぜダーツをしたと思います?』

話を根底に戻された気分。まぁ、確かにそもそもがそこだ。3人は考えるのが面倒だからではなくて、いち早く答えを知りたいんだ的な表情にて先を促す。

『ずっと疑問あったんです、答えを知りたくて』

3人は頭を捻る。特にまだ正解を導ける程の材料は無いな…。

『よく言いますよね、仲間が2人溺れてたら、どっちを助けるかって』

何が言いたいのだろうか?

『あれね、自分は助かる前提じゃないですか。』

話のコシが見えてきた杉本、全身の寒気が止まらない。

『仲間か自分か、どちらかしか助からない時…皆さんは自己犠牲派ですか?』

ニヤリと笑うクラール。そして後方にフワりとジャンプ。

と同時にせり上がる地面、床から何かが飛び出してきた。

『悩めるように原型を残してあげましたよ皆さん!』

現れたるは青いベニス、中身は勿論辻本実。

『さぁ、特等席で拝見させて頂きますからね!』

牧野も杉本も、震えが止まりそうもない。唯一、レイニーだけが辛うじて状況把握に努めていたが…。

(中が別人って事に賭けるか、いやそれ以前に怪人化した辻本に太刀打ちできるのか…?)

言ってることの矛盾に気付けぬレイニーも、やはり震えていた。



-29


 ~数か月前~

オレンジと青のコントラストが人々を魅了するコートダジュール。

その地にグラス片手に側近と談笑を楽しむクラールの姿…。

『自分が可愛いのですよ人類なんて。相手を亡き者にして悲しむフリをするに決まってます』

発言者はシューレ・ポアロ。クラールの側近となって早40年。苦楽を共にしてきた。

その要旨、美青年。都会のメインストリートを歩めば、女子は振り返り男子は嫉妬の念に押しつぶされるだろう。

自然と流れた金色の髪が、真っ白な肌に更なる光沢を与えている、それは選ばれし者の容姿、支配者側の成り立ち。

…そう、彼も若返り組なのだ。

『シューレは物事を単純に捕えすぎだ。そんなに簡単では無いぞ、人間の根底は』

ゆっくりとワインを口内へと注ぐクラール。上質な香りと喉元から広がる甘味、こればっかりは創りだせないとクラールの思考。

『私は見てみたいのだよ、我々の計算を超えていく姿を…』

また始まった…とシューレ。主の見てみたい…は毎度実行される恒例行事。

今回もきっとそれに従事するのだろう。だが不満とかではない。

彼もクラールの見たいと思うモノが見てみたいと思う。その為に真摯になれる。

『主の考えられるシチュエーションに当てはまりそうなのは…』

シューレはタブレットをめくり、何やら検索している。

『世界各地に点在している戦隊と呼ばれる者たちですかね』

クラールの瞳が展開を想像し煌めいていく。まったくこの人は何時まで経っても少年の眼差しをするお人だ…、だがそれがいい。それこそがシューレの大好物なのだ。

展開を察したシューレはスッと消え、スッと現れる。

手には地球儀とダーツの矢が1本。

クラールの煌めきは最高潮となる。まったくお前を側近にして間違えたことがない。

矢を渡し地球儀を回すシューレ。

『さぁ、選ばれし者よ、我の前に姿を現せ…』

ダーツの矢はその面積からすれば奇跡的な確率で、日本の関東地区へと突き刺さる。

運命の悪戯か、はたまたこの狂人を止めるべく神が使わした刺客か。

微笑むクラールの横でタブレットをめくるシューレ。

『ベニス戦隊の東京支部、ですね。変な名前だ』


模造ヘルメットから顔が見えている訳でもない、何か特徴的な個所が見えている訳ではない。

だがそれでも彼が辻本であるとの確信を持てる。…要らない確信だけど。

『辻本!つーじーもーとー!!』

何の反応も無いのはやはり寂しい。恋愛に似ているな、でも辻本にそんな感情は持ってない!

杉本の脳裏に浮かぶもの、その全てが今は無意味。宛先のないラブレター同様。

彼の心には届かぬ想い。

『レッド!戦うしかない!』

レイニーの言葉に少し現実を見る杉本。そう、それ以外の選択は逃亡しかない。

逃亡、それも有りだとは思う。だがこの現実を放棄して、どこに逃げるというのだ。

彼を助ける術が、ゼロであるはずがない。

『みんな…』

絞り出した声に反応する2人。耳を小さく傾ける。

『キャプチャーしましょう、なんとか3人で』

方法までは現状では言えない、だが皆分かっている。適度に痛めつけてギュッ!だ。

『ベニス・セット!』

今度こそGO-になる、その先の事も今は深くは考えない。

『…良いのですか?彼は頑固でワガママですよ?』

含み笑いから読み取れる。これからのベニスの希望と展開が。

そしてそれを否定している、そんな甘い話は無いぞ、と。

『ゴー!!』

杉本の枯れかけた声が室内に響き渡り、悲壮なる戦いの開始を告げるのだった。


結果的に言うならこの戦いは無意味であり、彼らは不毛なる戦いに落ちていると言える。

だが、その全てが無意味ではない。彼らの働きによって助かる命があるかもしれないのだ。

眉の中の赤の他人を救う為の戦い。

主旨は変われど大いなる意義がある。命を賭けるに相応しい戦いだ。

まぁ、それまでの道は簡単では無さそうであるが。

2mの大男は両手を天へと掲げ、何やら詠唱。と、同時に体全体から朱色の輝きが放出されていく。

『グロロ~ム!』

当然意味など解らないが、その言葉と同時に輝きは増し、周囲へと飛び火していく。

それはまるで落雷。大男を中心とした雷雲が、彼らを襲うイメージ。

2人のヘルメット内に響き渡る警告音、現状では回避不能との指示。

『リミット・バック!』

2人同時に発した音に反応するベニス・スーツ。その性能を全解放させてゆく。

刹那、時間は止まる。

そして間髪入れず動き出す時。2人は辛うじてその第一波を回避していた。

だが本当に間一髪、次は怪しいしその上があればアウトとなる。

『ガムロー!』

なんか言葉が変わった、いやそれよりこんな短時間で乱発するのか?

そんなの聞いてないぞ。

またも朱色の輝きと轟音、そして衝撃波。

2名、何とか現存。

『ギュルモロー!』

3度目の絶叫を聞いた瞬間、2人の思考は統一となる。瞬時に前進し攻へと転じていく。

攻めなければ、じっくりと炙られて終わりだ!

『グルージング・アロー!』

岡林の持つ無数の突きを繰り出す必殺技である。御堂のそれよりも射程が長く、一足先の攻撃となる。

だから御堂はそれに対処した大男の行動の先に攻撃を置いていく作戦となるのだが…。

無数の槍は不可解な音と共に大男に突き刺さり、真紫な血のような液体が周囲に飛び散る。

(手応えもある、出血量からも深手だ、いける!)

動かぬ標的に、御堂は置きにいかず直撃を選択。

『クロス・ザンダー!』

右肩付近から左腰付近までざっくり裂かれた肉体と、先ほど以上の出血。

これは致命傷、明らかなる事実。

『ギュルモロー!』

両手を広げ叫ぶ大男。そして光り輝く朱色の稲妻。

2人の思考は疑心を帯び、その現実を受け入れられない自身を呪う。

確かに与えた致命の傷を、俺たちが勝ったはずなんだ…。

衝撃は全身を通過し後方の眉を破壊していく。

体内の血液が沸騰し蒸発していくイメージ、身体はバラバラに砕け散ったのだろうか…?

首だけとなった感覚の岡林が大男を見る。確かに傷はある、血も流している。

(不死…?)

そりゃ反則だ!っと心の叫びが表に出る事は無かった。


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