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20・21 ~豪遊~

-20


歴史は全てではない。

語るべく存在が、自らの価値観と現実を結び付けただけの黙示録。

決して、ありのままの現実ではない。

それを証明するかのごとく、各都市各国家によって語り継がれている歴史は異なり、

自国にとって都合の良いことばかりをクローズアップさせているのだ。

だから争いは絶えない。歴史認識の違いから、隣国の歩幅が揃うことはなく、

自国の政権維持のために、自己都合の歴史を持ち出すほどだ。

しかし歴史は一つ。

彼らがこれから作り出す歴史の真実は一つ。

各国によって、どう語り継がれるかは別問題として…。


アメリカのような強国と遜色のない首相専用機【エアシティ991】

国家予算の一部を惜しげもなく投資されたこの空飛ぶ国会議事堂に、6人プラスαは搭乗している。

『嘘でしょ?!持ってないの必殺技!』

あの夜より、すっかり近距離と成った同世代の2人は、今日も賑やかである。

『何言ってるの?私の存在自体が必殺的であり…』

レイニーは理屈っぽい。それが今の関係を悪くも良くもしていないのだが、

恋人となると、少々しんどいかも?等と空想しつつ、杉本は雲海を見ていた。

何度となく見た景色、勿論幸せを感じながら見た日もある。

それはレイニーも同様、そして牧野も同じ。

皆にあった幸福を感じれるとき。…今は無い?とまでは言わないが、やはり足りない。

埋まるはずの無いピース。いつか代替品が現れるのだろうか…?

楽しそうに会話する女子会を眺める男子最年長の岡林。

彼にだって幸福を感じれる時代はあった。

…まぁ、過去形なのだから、今は独り身ということになる。

(やはり一番手はレイニーだな。国際交流は永遠の夢だ…)

十分楽しんでいる男は、自らが考察した未来図を想い、人知れず笑みをこぼすのだった。


首相専用機【エアシティ991】はロシア南西部のクラスノダール国際空港へと順調に飛行を続けている。

空港到着後はレンタカーにて移動。目指すべきアストラハン州は目と鼻の先、となる。

今回は通常予算外の仕事、特別手当が日本国様より進呈されているのだ。

まぁ大半はピン跳ねの対象との事ながら、最低限の経費は回してもらっている訳で。

(戦隊事業は金がかかるのだよ!と社長談)

しかも飛行機のチャーター代、燃料代等の空飛ぶ代金は出羽のポケットマネーなので、

実質の経費はロシア在住費のみ。

流石のブラック企業も宿泊及びレンタカーには気を配ってくれたみたいだ。

彼女等の到着を待つのは、3台の英国製高級ジープとなる。

『ユークリッド!!』

レイニーの母国のスラングらしいが、意味は特に問題ではなく。

『カッコつけたって、ただのチョップでしょ?』

『そうよ、何の為のベニスヒールよ』

レイニーに与えられた武器は靴。ヒール部分の殺傷能力を極限まで高めたハイヒール。

『だって、ヒールだよ?なんか悪人みたいだし…』

言い方を気にする理屈娘にタメ息のプレゼント×②

『もうくるくる回って足からヤー!っでいいじゃない』

『そうよ!ベニス・スピニッシュ・ヒールで決定!』

『そんなくるくる回ってヤー!って、ありがちな…』

『ダメです、決定です!レッド特権発動です!!』

延々と繰り返される議論に終止符を打つべく結託した杉本と牧野。

(一応の)先輩からの強行決議に、レイニーは陥落した。

(まぁ、10時間以上やってりゃ嫌にも成るわな…)

完全なる傍観者と化していた男子会の面々は、やっとこ静かになる事を喜びつつ、

残りのフライトを堪能していった。

人生最後のフライトかもしれないのだ。

首相専用機なんて、乗る機会2度と無いのだ。

楽しまなきゃ、損だ!

豪遊を許された数名の男性陣は、情報でしか知らない酒の味を、舌と脳へインプットして行くのだった。


ブルー辻本実は年齢もチーム内では中堅で、それに比例して職歴も中堅。

防衛大学からの戦隊入り、初めてのコンテストで優勝、ブルー選抜試験で優勝。

一般人から見たら輝かしいこれまでの人生。

だが眼の肥えた有識者からすれば、それはスカスカの形だけの人生。

重厚、濃密、何にも当てはまらない辻本の27年間。

まぁ、そんなことは言われなくても分かっているのだ!っと辻本談。

当然、そうなる理由も分かっている、土台がないのだ。

努力や持って生まれた才能で構築される、人としての発射台。

そこに彼の小人は居ない。だから、ジッと待っていても滲み出る物がない。

今時の若者などそんなものだ、との思いもあれば社会人として足りていないとの理解もある。

だから、この仕事に賭けているとかは無い。明日にだって辞められる、いや今すぐにだって…。

若者に職務を押しつける事は出来ない、そして責務を教えることも簡単にはいかない。

前レッド林は、岡林との酒の席で溢したそうだ、次のリーダーになるべく男の名前と、

それに至るまでの長く険しい道のりを。

辻本が全ての事柄を真摯に受け止めて、真面目に・武骨に仕事に打ち込めばベニスは変わる、それは林の遺志であり願い。

叶う時をもう、彼が見ることは無いのだが。

金を貰えるし嫌いじゃないから何となく続けている辻本に、周囲の目は暖かく期待は計り知れず。



-21


 クラスノダール国際空港に轟音とタイヤの焦げる嫌な臭いを運びしエアシティ991は、

ロシアとしては最も歓迎できない6人を放置し、その責務を終えてゆく。

『あれ、帰りまで待っててくれるんだよね?』

誰かが呟いた言葉に返杯は無い。

時は10月初旬、ロシアでは初雪が猛威を揮い、人々の生活を一気に冬使用へと変貌させていた。

招かれざる来訪者の6人の服装は、それに対応させていたとはいえ寒いもんは寒い。

足早にジープへと乗り込む面々、車内は暖かく快適だ。

『さて、一度ホテルへと行き、そのまま今日は自由行動だからな』

小杉の配慮の高さは昔からである。もし明日死ぬかもしれぬ状況ならば、せめて一晩位は…。

杉本はレイニーと飲める今夜に喜びを隠せずニヤリ顔、そこをすぐさま小杉に看破され一括。

『あぁ、お前さんは俺とデートな』


空港より約1時間、お目当てのサンクロッツホテルへと到着。

1階は三ツ星レストラン、屋上は展望室、地下には温水プール、地下2階はカジノ。

予算があるときはここまで違うのか…と牧野は思う。同時に林と…が脳裏に重なるのが、

我ながら楽しい。

(杉本さんもそうなのかな?)

まぁ、それを確認する術はない。彼女は小杉統括と共に行ってしまった。

『レッドなんて、やるもんじゃないな…』

誰かの呟きに返杯はないが、皆納得の頷きをシンクロさせていた。


旧市街地の寂れた小屋、地下12階。お目当てのポイントは高台からの絶景に溶け、

注視していない者の視界から消えていた。

『見ろ、あれだ』

言葉と同時、いや一寸早く最新式スコープを杉本の目に当てがう小杉。

少々の不快感に呑まれつつ、杉本は指定されたポイントへと視野を落していく。

『…寂れたって表現をあれほどマッチさせるとはね、大したものよ』

とりあえず頷いた、だが彼女の真意は正直伝わってこない。

だが聞き返すのも統括として辛い。小杉は52年間の人生にて習得した奥義を炸裂させる。

『まったくだよ…』

決まった、我ながら会心の出来。語尾を濁すのが玄人の成せる業と小杉談。

『さて、どうします?少し潜ります?』

小杉は無事話題を流せたことに、見えないガッツポーズを。

そして切り替え、進める。

『勿論、潜る。その為の2人だろ?』

普段、小杉と修練することは無い。だから未知数、いやそのノンマッスルボディを見れば分かる。潜入ミッションには不向きであると。

『本気ですか?助けませんよ?』

小杉はおもむろに準備体操を始めていく。そして本気の男前顔(ドヤ顔とも)を披露しつつ、自慢の体術を魅せる。

予想に反して申し分のないキレとスピード。

だが不安要素はある、スタミナと非情に徹しきれるか、ということ。

肩で息をしながら、開戦前に燃えつきそうな男の背中、悪くない…。


カジノ、それは光悦のひと時。

流れ出るメダルと、テーブルをスライドしてくるチップの山達。

敗北者に囲まれたる、一握りの勝利者…。

まぁ、開始30分で飛んでしまった彼らに、その一握りの資格はない。

才能が無い、との言葉で括って良いのだろうか?

答えは否。カジノは運・不運ではない、力と力の勝負なのだ。

勝負どころを看破し、そこで最大限の力で勝利を手繰り寄せる。

技であり圧であり覇気であり。

勝つ為に手段など選ばないのだ!

…部屋にこもる事は敗北者に許されたる唯一の自由。

彼らは眠った、いやそれしかなかった。

空になってゆくワインを片目に、皆眠っていった。

2人の上司が命を賭けて任務にあたっているというのに…。


『気をつけろ、あれも見張りだぞ…たぶん』

小杉のたぶんは正解率が高い(とはいっても7割強)

だから彼が多分と言うときは、そうだとして行動することにしている。

2人は中央通りからの進入を諦めて、古びた雑貨屋の脇の道へとスルり。

地図が正しければ、裏路地ってのが導いてくれるはずだ。

情報というのはあって損するモノではなく、むしろ逆。

情報無き者に勝利は無く、行き当たりばったりに勝機も無く。

榎本官房長官を生かして日本に帰したのだ。彼らが我々の侵入を想像しないハズは無くて、

何より情報が空港等から漏れていること、十分に考えられる訳で。

『見知らぬアジアン発見次第、本部へ無線連絡を。そんなところだろう』

今度は多分が付かなかった、なら確定?

少々困惑する頭部を想像で眺めながら、杉本は思った。

(そもそも、なぜ榎本官房長官を帰したの?)

小杉に聞けば、何らかの答えが返ってくる?

たぶんの付かない確定版か正解率7割の答えが。

杉本は奥歯の手前まで出かけたそれを押し込んで、聞くのを止めた。

今は任務中もあるが、何より聞いてはならない気がして…。


目的地周辺ともなると、杉本にだって【多分】の付かない見張り様が判別できる。

まぁ、肩にマシンガンをぶら下げてるんだ、嫌でも理解させられるのだが。

『これ以上は無理ね。どうするの統括?』

建物内に進入は、そもそも無いプラン。周囲の確認とかなんたらが本日のメイン。

これで十分だ。下手に動いて本番に必要以上の警戒態勢を取られても、なのだ。

『そうだな、ホテルに戻って奴らの…』

小杉は停止した。理由は簡単、杉本の顔が恐怖映画を見ている客のように、青ざめていたから。

『統括、どうやらどこかで3割引いちゃったみたいですよ』

気配も音も、消せる者たちにより、半径20mをくるりと囲まれていた。

そしてそれを一瞬で知らしめる為、気配開放。杉本の検知する所となる。

『まーねー、辛いのよね~』

その物体の吐き出したる音声と分かるのはなぜだろう。

口と呼ばれる物があり、その音声に合わせて動いている、とかでもないのに。

『人造怪人か否かは置いといて…不味いわね、スーツ置いといたわよホテルに。』

気の利いたシャレだと感心する余裕も無く、これはヤバイ。

敵は上空、ビルの3階部分に浮かんでいる。いや正確にはぶら下がっている、か?

その怪人の背中に無数の穴があり、そこより蜘蛛の糸のようなものが周囲に張り巡らされているのだ。なるほど、捕獲向けの立派な能力だ…。

『人造怪人蜘蛛男、そんなところね?』

地上三階部分にいるのだ、表情が完璧に見えている訳ではないが、怒ってる?

『わーたーしわー、おんな!』

ゆっくり糸を弛ませて、蜘蛛女が地上へと舞い降りる。

…やはり顔というモノの判別は付かない。お灸の山のようなイメージ、蜘蛛をリスペクト

してくれていたら、もう少し分かり易かったのに。

蜘蛛女が通路前方に、後方には気配を出し入れできる数名の人間と思われる者が。

『暴れたら、しななーい程度に、いたーってしていいって。だから抵抗を希望します!』

山で言う頂上付近から声が聞こえるイメージ、そうか口はその辺か…とか思いつつ。

『奇遇ね、私達の希望も抵抗よ。もっとも、いたーってするのは私達じゃないけどね』

とりあえず、レッドに恥じない強がりは発しといた。でもそこまで、それ以上の策は無い。

(昔の特撮ヒーローは、生身でも強かったのに…)

ベニススーツの無い彼女等なんて、針を持っていないことが判明している蜂だ。

ぶんぶん飛び回るだけで、何のダメージも与えられない。

『杉本』

統括は常に最悪のことを想定している。今回だって同じ。これは範疇だ。

『俺が前の奴を抑えているから、その内に後方の奴等をすり抜けてホテルへ』

小杉、一歩前へと。そして末路を思う。今ここで殺されたならマシ。

最悪は怪人化エキスを注入されあの官房長官のように…。

小杉は震えた、そしてだからこそ部下をさせられない。そんな姿に。

『俺が居なくてもベニスは動く。だがな杉本、今のベニスにお前は無くてはならない』

肩を持つ彼の掌が熱い、そして何より小刻みに震えている。

誰も皆、死は平等に怖い。順番、早い遅いの個人差はあれど、最後は同じ。

『居なくてもいい人なんていない!』

分かっている、それは正論。だが今は最悪の中のサイコー探しをしているのだ。

『分かった、なら言い方を変える。ベニス6人で、私を助け出しに来てくれ!』

小杉はレッドの両肩を握り締めた。そして全てをその瞬間に込める。

ベニスの栄治と衰退とを全て見てきた男の、最後の恩返し。

『(サラバだ)杉本!後は頼む!』

小杉、制止も聞かず蜘蛛女へと渾身のダッシュ。


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