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14・15 ~観察~

-14


『なんだこの会見は…?』

御堂の言葉は皆の同意。まぁ、皆といっても4人の、だが。

トップ2を欠いたベニス戦隊は、定例会見を仲良く観戦、で結果がこれである。

『ロシア?契約?怪人?…何の話をしているんだアイツ等は?』

ブルー辻本は1つも解決されない問いを、誰も居ない空間へと投げかける。

当然のごとく拾われない問い、空しく大地を転がり目的地のない旅路へと…。

『少なからず、等は不要ね。一番はあの記者よ』

拾われた…闇の彼方へと消えかえたその問いは、無事に鞘へと収まり続きを促される。

『どこの雑誌か、はたまたTV取材か、…調べる必要がありそうだな』

パープル岡林は自前の鞄に書類等詰め込み、その場を後にする。

行く先は馴染みの情報屋だと理解するのに時間は不要。残されたメンバーは他の可能性を探るべく、各々の情報元へとアンテナを伸ばしていった。


『なに?そんな事が…』

資料の森に埋まり中の小杉へと届けられるホットライン。内容は言うまでもなく、発信者も言うまでもなく。

『杉本、一時中断だ。倉橋からの話だと、少々優先順位が逆の様だからな』

明らかなる不満顔も、要点だけ聞かされて即改正。確かに優先順位が違うようだ。

私に降りかかる火の粉と、全人類に降りかかる火の粉では、考えるまでもない。

『でも、その話本当なんですか?ロシア政府が加担しているなんて…?』

小杉は口を閉ざす、それが意味するものは肯定か不明瞭か。杉本には看破できない。

『とにかく、倉橋の元へ』

あぁ、知らないんだ統括…と理解するまで約10秒…。


『悪かったな、デートの邪魔しちまって』

ニタリ顔の倉橋と、まったく意にかえさず話を進める小杉、なるほど良いコンビだと頷く杉本。

『北海道、東京、大阪、沖縄。全支部の情報網に無いからといて、静観してよい訳でもないからな』

現状はやはり誰も認知していないロシアの暴挙。やはり出羽を追い落とすためのブラフか?

『とにかくアンテナを広げよう、そして何より先ずあの記者の確保だ』

既にベニス実行部隊が確保に向かっているとの事、3人は彼の到着を待つこととなる。

【ベニス実行部隊】…各支部及び出張所に籍を置く、準隊員である。

基本的には隊員に欠員が出た場合、このメンバーから選ばれる。各小隊10名程度で編成され、その実力は折り紙つき、というやつだ。

恐らく、1時間もしないうちに連絡は入るだろう。杉本は2人に離席する旨を伝え、その部屋を後にした。


『繋がりません…』

先ほどから何度も受けたくもない怒号を浴びるたびに、もはや覚えてしまった番号をプッシュするも、不通。

そらそうだろう出る訳はない、私が彼の立場なら当然出ない、居留守だ。

だが報告の度、総理から睨まれる立場にも成ってもらいたいものだ。

私は悪くないのだから…。

『榎本…!』

後援会会長夫人から頂いた万年筆をギリリと噛み、その怒りを和らげる出羽。

そこは当たっちゃダメでしょ~と思うも、閉口。

良からぬモノには触れない事、それが福田の座右の銘。彼は静かに、本当に静かに椅子を引き、深く座り直す。…本当はこの場を去りたい。八つ当たりはこりごりなのだ。

だが、消えようものなら何をされるか言われるか、分かったもんじゃない。

一般家計の殿方よりも月賦を多く頂いてる理由を価値を、簡単には無に出来ないのだ。

【福田清二】48歳、彼の人生に檜舞台へ上がるという選択は無かった。

いや、正確には考えたのだが、鏡を見て即終戦。確かに志があれば…とか、実際に檜の人々で自分よりも…と思う人材が無いとは言わないが、普通に考えたら分かる、無理だ。

特に最近は顔で選ばれるケースが増え(出羽がそもそもの原因との噂もあるのだが)

身長・体型もプラスされ、中肉中背の不細工なオッサンにチャンスの一端もあろうはずはなく。

まぁ、それでも総理大臣の第一秘書に納まれているのだから、そこは福田の能力のなせる技なのだが。

だからこそ、裏方に徹そうと誓う。こんな容姿の私を傍に置いて下さる方のために。

一番の理由が男前な自分の引き立て役だとしても、問題はない。

ここで必要とされているのだから。

今このタイミングでは八つ当たる相手としての価値しかない福田は、静かにペンを取り、

託されていた仕事を本当に静かに処理していくのだった。

(10分に1回は響く『福田!』の怒号で、仕事は全く捗らなかったそうだが)



-15


複数の足音が次第に大きくなり、接近している事を感じたる面々。

予定していた4階セキュリエンス・ルームにて、ご対面の時。

『榊原雄大?聞いたことないな』

この部屋に在席を許されたのは5人。小杉、杉本、岡林。そして東京支部の重鎮2名、

田名丘司令補と桑原本部長である。

『流れの記者、的なようです本部長』先ほどの問いに間髪答える小杉統括。

なるほど、社会とはそうゆうものなんだなと、納得のパープル岡林。

ある程度の地位を得るためには、様々な努力が必要なのだ。

そしてその努力を惜しまなかった者のみ、地位と金銭を得る。分かりやすい社会だ。

『どこかの新聞社やテレビ局に属する事なく、情報を持ち込んで金を得る。簡単に言えばフリーのカメラマン、ですかね』

杉本は熟知していた、この社会というものを。すぐさまコンタクトを試みる手腕と、その的確な内容。この状況では人見知りは影をひそめ、彼女を後押しする。

どうやら私は従う人材を間違えてはいないようだ…。

パープルは頷き確信する、そしてレッド杉本に付いて行こう、と心に刻む。

目の前の観音開きの扉に、2名の屈強なる実行部隊員が左右から手をかけてゆく。

そしてゆっくりと開放、中央に現れたのはテレビで見た顔。両脇をこれまた屈強な男に抱えられつつも、表情になんら恐怖感も見せない。記者に有りがちな好奇心も見えない。

何のために来たのかさえ、分からなくなる感覚。

『榊原さん、初めまして。我々はベニス東京支部の者ですが…職業柄、ご存じで?』

司会進行役の小杉、なかなかに流暢な語り口。彼も散々やらされたのだろう祝い事のマイク持ちを…と杉本・心の談。

『怪人ハンターの巣が、こんなとこにあったとはね…ククク』

顔にはマスクをし、ヘッドホンを装着させ現住所が分からないように…と施したが?

『こんなトコ、とはどんなトコを指すのかな?』

田名丘司令補が問う、それをクククと受け流しつつ、一見普通のG何ちゃら時計を5人へと示す。

『これ、高かったから』それだけで読み取れとはなかなかに酷な事だが、趣味ネットショッピング(買わないけど)の杉本にはすぐに分かった。

『毎分、自宅のPCへGPSにて位置情報を飛ばすモデルね。確かに今は分からなくても自宅に戻れば、か。』

榊原はまたクククを見せてから…『おれのは特注でね、このスマホにも同時に送られてくる訳よ』そう言って榊原はスマートフォンを取り出す。なるほど、見事にこの支部の場所が地図にて表記されているではないか。精鋭揃いの実行部隊の通り名は、変更確定だ。

だが榊原は次の瞬間、その画面をデリートし専用アプリを停止させる。

そして時計を外し、PCの所在地も告げる。正直、それで全てを信用するには至らぬが、

彼なりの信念が伝わってくる。

『俺はね、脅しとか強請りとかが大嫌いでね。真実を伝え、その真実でのみ稼ぐ…』

なにやらポーズを取り始めた、面倒くさいタイプなのか?

『それが俺の信念だ!』

声量も仕草も、5人を圧倒するに足りるレベル。まぁ、圧倒の意味が多少違っているが。

しばしの沈黙、司会進行の小杉の脳よ、甦れ!

『つまり、金を得るに十分な情報を持っているので、買えと?』

クククが最大音量になり、発言者を睨む榊原。

『あんた、さっきから鋭いな。…何モンだ?』

自己紹介をするのはこの前の怪人さん以来か。…はて、名前は何だっけか?

イケメンだったことは覚えているのだが…。

『私は杉本です。レッド、やらして貰ってます』

後半は無用だろ!っと叱りたくなる小杉を余所目に、続けられるストーリー。

『アンタが現レッドか。…林を超えるのは簡単ではないが…アンタならやれそうだ』

この男はどこまでを知っているのだろう、そして同時に信頼できるのではないか。

世間には一切漏れていない、レッドが交代した事など。守秘義務は社員なら当然、

だが彼は流せる立場にあり、それで生活費を稼いでいるはずだ。

『…なぜ売らなかった?それなりにはなったはずだ』

榊原は小杉に即答する。国の為だ、と。

思えば先ほどの会見での発言も、この国を思っての事。

この国の行く末を案じての行為。

5人は被せてあったベールを1枚拭った。全てとはいかないにしても、彼の事は信頼してゆけるのではないか?

『君の事、全てとは言わないが理解できてきた気がするよ。…話してもらおうか、情報の出所を』

年齢よりも若く見られる田名丘司令補、その渋みを聞かせた低音ボイスにて、小杉の役割を奪って行く。

榊原は用意された椅子に腰掛け、その真実のみを語る為にある口より、言葉を発する。

『俺がこの情報を得るには一つ条件があった。会見でインパクトを与える事、すなわち生放送でぶちまけるって条件が』

用意されたのは椅子だけではない。ブラジルからの直輸入との噂のコーヒー豆から抽出された極上の香りと芳醇な味わい。ベニス東京支部名物のアイスコーヒーを一口含みつつ、続きを。

『俺としても悪くない条件だ、大舞台での暴露は願ってもない話だからな』

語る時に右肩を小さく揺するのは彼の癖らしい。会見時から気になってはいたが…

岡林は興味深く彼を観察する。話の内容よりも彼自身の動向が気になる様子。

岡林の興味をそそる媒体は、更なる右肩の動きを披露しつつ、その先を紡ぐ。

『だからまぁ、今回はお金で動いたわけではなく、俺のジャナーナリズム魂が震えた訳だ』

次第に話が脱線して行く流れ? 杉本は腕組みしたくなる衝動を堪え、続きを待つ…。

『すまないが、要点だけ…つまりは結末を教えていただけんかね?』

痺れていたのは杉本だけではない。定年間際の桑原本部長、枯れた声を絞り出しながら嘆願する。ご老体は単純に、早く帰りたいらしい。

ヤレヤレ顔の榊原、絵にもならない仕草の後で結末を語る。

『今回の話を持ちかけてきたのは、榎本官房長官だ』

人間観察中だった岡林の思考も、一旦停止。


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