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斎宮事情

 あわただしく内裏中を駆ける女房たちを唖然として見ながら、俺たち――賢者の石と天華はとうとう実行された、早大かつ迂遠な計画の第一手の結果を眺め、ため息をついた。


「とうとう始まってしまいましたね、賢気様」


「こっからは、もう止まらんな。天華」


 お互いに自分たちがしでかしたことの大きさについて、いまさらながらに自覚した俺達。お互いの顔を見合った俺たちは、最後にそう言うとため息をもらし、


「ほんと、これでよかったんだろうか」


――あいつの口車に乗って……。と、自信満々に笑っていた成片の顔を思い出した。




…†…†…………†…†…




「あなた方に足りぬのは時間です」


「時間?」


 首をかしげる天華を相手に、成片は大きく首肯を示す。


「はっきり申し上げましょう。今のあなたたちでは、二人はけっして結ばれることはありません。あなたは政治的価値が高く、女盛りの年齢で有らせられますし、自愛さんは冠務陛下の庇護があるとはいえ、決して位が高い人ではない」


「そんなことは言われなくてもわかっています」


 それと時間がどう関係あるのですか? と、天華は迂遠な成片の言葉に眉をしかめるが、


「そうか……」


 俺は、その話を聞き、成片が何をたくらんでいるのかを察する。


 重要なのは、女盛りの年齢というその一点。


「要は、お前はこういいたいわけだな……。子供が産みづらい年齢になれば、たとえ神皇家の姫であっても、他の貴族は嫁にと望むことはないと」


「ご明察。流石は知恵の神。ご慧眼恐れ入ります」


「っ!」


 俺と成片の話で、天華もようやくその事実に気付いたのか、息をのんだ。


 天華が今、無数の貴族から嫁によこせと言われているのは、ひとえに自分たちの子孫が神皇家の外戚になれる可能性があるからだ。


 だがしかし、この世界の出産適齢期は驚くほど短い。


 理由は医療技術の未発達、出産に対する知識不足、月経周期という存在の不認知など、いろいろあげられるが、世間一般で言われる出産適齢期は、20代まで。


 30代の女性ともなれば、出産確率は大幅に下がると、世間ではいまだに思われている。


 そして、子の産めぬ女などに価値はない。と、言ってしまうと酷いのだが、この時代はその価値観はまかり通ってしまう時代だ。


 その常識を逆手にとることを、成片は提案しようとしているのだ。


「流石にあなたも30になりさえすれば、他の貴族たちの求婚もやむでしょう。ましてや相手は斎宮。暗黙の了解で易々と手は出せなくなる。まぁ、結婚の前例がないわけではないので、しつこく食い下がってくる貴族はいるでしょうが……。冠務陛下も娘の幸せを考え、結婚相手を探そうと躍起になるでしょう。まぁ、これ幸いと自分の後宮に入れる可能性もありますが、そちらの方は片胤陛下と、賢気様にお任せすることにしましょう」


 神様の説得力の見せ所ですよ? と、妙なプレッシャーを俺にかける成片。


 別にそれはかまわんのだが、説得力っていうとなんか違う力を求められている気がする……。なんだ? 俺が結婚もできず、嫁もいなくていかに辛いかを滔々と語ってやればいいのか? と俺がくだらないことを考えている中で、成片の話は進んでいく。


「あなたには、女性として最も華々しく活躍できる期間を逃してもらうことになります。本来なら、蝶よ花よと人々に称えられ、夫に愛され、子供を産み幸せな家庭を築くべき期間を……。対する自愛さんもそうです。あの人にはこの10年の間、あなたとの婚儀という悲願を我慢していただくことになりますし、あなたと婚儀を結んだところで世継ぎを残せる可能性は極めて低い。もし、あの人が鹿家の再興を願っているなら、恐らく血涙を流していただくことになるでしょう……。ですが、10年後、あなた方の婚儀は確実に可能になっている。その事だけは保証いたします。ですから」


 愛のために、あなたの女としての価値を、極限まで殺していただきたい。と、成片は言ってのけた。


 究極の不敬。普通なら首を刎ねられてもおかしくない無礼だ。


 だが、自信満々に成片が言い放った未来を思い描いているのか、天華は静かに目を閉じ天井を見上げた。


 そして、


「かまいません。あの人と結ばれることができるなら、他者の評価など必要ありません」


 天華は、成片の提案に乗る覚悟を決める。


 女としての自分を殺し、ただ自愛のためにその人生をささげる覚悟を。


 その言葉を聞いた成片はにやりと笑い、


「では賢気朱巌命様。ひとつお願いが。計画の詰めをお頼みしたい」


「わかっている。10年時を稼ぐ方法など、もはや一つしかないだろうしな……」


 俺はそう言って、神皇家にしか使えない、最後の婚約話エスケープ術の発動を容認する。


「流刃に頼んで、天華を斎宮にするよう神託を出させる」


 こうして、高草原を巻き込んだ一人の内親王の、人生をかけた大博打が始まった。




…†…†…………†…†…




「実際のところ勝てる見込みは低いよな……。お前がいない間に、自愛がほかの女に心変わりする可能性も無きにしも非ずなわけだし」


「え、縁起でもないおと言わないでくださいよ、賢気様」


 結局、座っているだけで威世に行くための準備で、手伝えることは何もないとわかった天華は、女房たちの邪魔にならないようコソコソと私室を辞去。


 ぽっかり空いてしまった時間を使い、自愛に事情説明をしに行くため内裏の回廊を歩いていた。


「大丈夫。あの人と私は固い絆で結ばれています! たとえ10年待つことになっても、あの人ならきっと……」


「まぁ、俺としてもそれを信じたい気持ちではあるんだが……とにかく事情説明だけはしっかりしておけよ。お前がいくらあいつを信じても、人ってのは言葉を介さないと意思が伝わらん生き物だからな……」


 俺も報告・連絡・相談(ホウレンソウ)を怠ったせいで昔酷い目にあった……。と、真神戦争のあの大騒ぎを思い出し、俺はわずかに顔をしかめる。


「おまけに今回の話は自愛にとっては寝耳に水だ。いくら信頼しているとは言っても、多少の動揺はしているだろう。そこから冠務のやつにお前らの関係を嗅ぎ付けられても厄介だし……不安の芽は今のうちに摘んでおこう」


「あの、それ言いだすと今、私が自愛のもとを訪れるのもまずくないですか?」


 まぁ、そういわれると確かにそうなんだが、


「幼馴染に都を離れる挨拶をするくらい、冠務だって目をつぶるだろうさ。もっとも、自愛の後に冠務のところに顔を出すのが絶対条件だが」


「お父様、顔ださなくても、今夜には来るでしょうに……泣きながら」


「あぁ。もう鬱陶しいぐらい泣くだろうな。なんなら俺は神様を殺すといいかねない勢いで……」


 今からどうあしらうか考えるだけでも憂鬱だと、高草原と下界のつなぎ役なんて役職をいつのまにか頂戴してしまった俺としては、わずかにため息が漏れるのを禁じ得なかった。


――きっと冠務のやつ、これから天華が旅立つまで毎日「これは何かの間違いではないか!?」って聞きに来るんだろうな……。


「まぁ、毎日なんて言っても明日には出るんだが……」


「今日さえ乗り越えれば、賢気様の心労も一気に減りますね」


 なんて、これから、都から遠く離れた威世に行くというのに特になんの気負いも見せないまま、天華は笑う。


 きっと彼女は信じているのだろう。この先に待っている、自分たちの素晴らしい未来を。


 10年後、きっと結ばれることができる最愛の男との未来を。


 そんな彼女の笑顔は、いままで見たことがないくらい美しく、


「……はぁ。まぁ、そうだな。一日ぐらいは我慢するさ」


 多少の憂鬱ぐらい、我慢する価値はあると俺に思わせるには十分なものだった。


 というわけで、俺たちは道すがら官吏達を呼び止め、今自愛がどこにいるのかを聞き、彼の仕事場の近くまでやってきた。


 あとはこの角を曲がれば自愛の職場が見える。


 そんなところにまで、俺たちがやってきて、いざ角からその顔をのぞかせると、


「っ!?」


 天華の顔が、驚いたように固まった。


 当然、俺の思考も一瞬フリーズする。


 なぜなら、


「婚儀を結ぶなら、やっぱり自愛様かしら?」


 そんなことを言いながら、彼の手を取る絶世の美女――春野小町が、靖英と成片の前で傲然とそう言い放っていたからだ。




…†…†…………†…†…




 わるい夢でも見ているんじゃないだろうか? 私――自愛は内心そう考える。


――天華様が、斎宮? バカな……では、私との約束はどうなる? 賢気様は? 承諾されたのか? あの人は最高神のはずだ。いくら主神である流刃天剣主様であっても、あの人の許可なしにこのような暴挙には出られないはず。


 でも、事実斎宮になるよう神託は出ている。神祇庁にも確認したから、それは間違いない。


――では、賢気様は……この決定を良しとされたのか?


 そんな愚もつかない考えがグルグル頭の中を回り、仕事も手につかない。


 そんな私のもとを、


「あら? 珍しい。自愛さんが書類の筆記を間違えるなんて」


「うわっ……これは相当弱っておられる」


「大丈夫ですか、自愛さん」


 驚いた顔を扇子で隠した小町さんと、大丈夫ですかとこちらを気遣ってくれる靖英君。そして、面白いものを見たとニヤニヤ笑う成片君の三人が、私のところへやってきた。




…†…†…………†…†…




「いやぁ、それにしても自愛さんの長年の恋もとうとう破れることになるのですねぇ~」


 ぐさりと……。三人をもてなすために、一時的に仕事を切り上げた私は、職場に一つある私の私室へと三人を通し、小間使いにお茶を出させていた。


 矢先に、成片君が言葉の短刀で私の心臓をぶっ刺してきた。


 瞬間的に固まる私を見て、靖英君が成片君の頭を強制的に下げさせ、小町さんが後ろ手に成片の背中をつねり上げる。


「も、申し訳ありません、自愛様っ! こいつホント空気読めなくて」


「とどめさしに来たのですかあなたはっ!? というか、ほかに話すことがあるでしょうっ!!」


「いや、だって見てくださいよ、小町。あの聖人君子じみた笑顔があんな歪んで……こんな面白い自愛さんの顔はそうそう見れないですよ?」


――成片君は……私に刺されに来たんだろうか? 半ば真剣にそう思いながら、私は顔をひきつらせつつ何とか内心の殺意に耐える。


 そして、何とか普段の笑顔を維持することに成功した私は、


「そういう君たちこそ、人の恋ばなしにうつつを抜かしている暇があるなら、自分たちも嫁の一人や二人、探してみたらどうなんだい? もうお互いそういうことを考える歳だろう?」


 意趣返しがてらに、わずかにとげとげしくなった言葉をぶつけてしまう。


――自分のいら立ちを後輩にぶつけるなんて……。なんて惨めで情けない。と、今の自分の姿を客観的に見ている自分が、そんな嘆きの声をあげるが、私は今のすさんだ心をどうしても止めることはできそうになかった。


「私はべつに恋人に苦労していませんから。結婚相手なんてより取り見取り」


 とはいえ、ぎゃふんと言わされたのは私の方だった。もとより恋の話で、成片君に勝てるわけもないのだから……。


「私は一応神皇陛下の更衣(最下位の神皇の側室)ですし……。結婚相手などとてもとても」


「更衣は側室と言っても、后になることはほとんど期待されていない女房の上役といった感じの役職でしょう? 恋人を作っていることも多く、陛下はそう言った更衣は祝い金までつけて、その相手に嫁として送り出していますよね?」


 どちらかというと更衣は、神皇の妃というよりも、神皇の側室を除く女官の最高位と扱われることの方が多い。いまだに女性官吏の制度が整備されていない日ノ本で、女性が官吏になるための手段として扱われている。


 だからこそ、小町さんも恋人を見つけることは決して不可能ではないと思うのですが……。


「まぁ、その事実は否定しませんが、私の宮仕えを認めてくれる上で結婚したいという殿方はそうおりませんので」


「自分より才覚があり、如才ない女を囲う器量がある男は、そういないですからね」


 全然男にモテていないくせに絶世の美女とは……聞いてあきれる。と、鼻を鳴らす成片の布がまかれた額に、小町さんの鋭い扇子の一撃が叩き込まれる。


「――っ! まだ傷が治ってないのに!!」


「自業自得です」


「今のは成片が悪い」


「というか、成片君。君額を怪我したのかい?」


――何やら布がまいてあるから変だなと思っていたら……。と、私が心配する中、靖英君と小町さんは「いつもの痴話げんかですから」「気にしていたら、身が持ちませんわよ」と、適当に悶絶する成片君をあしらう。


 まぁ、仲のいい二人がそう言うならそうなんだろうと、私はとりあえず悶絶する成片君は無視する方向で自己完結し、


「では小町さん、靖英君なんて相手にどうかな?」


「「「え?」」」


 寧ろ何で今までそうならなかったんだろうと思っていた疑問を、ここで解消することにした。


「君たち仲もいいし、気心も知れているだろ? 靖英君なら宮仕えを禁ずることもないだろうし」


「まぁ、うちは貧乏ですから……確かに、うちに金入れてくる嫁がいてくれればありがたいですけど」


 と、なにやらすすけた笑みを浮かべる万年貧乏貴族の靖英君。


――べ、べつにそういう意味で行ったわけではないんだけど。と、私はそんな彼の笑顔に顔をひきつらせながら、


「相手としては申し分ないだろ? 身分も夫の方が低いんだから、わずらわしい夫婦の上下関係に縛られないし、変に気を使うこともない。気心も知れているし、共通の趣味もある。君にとっては理想的な相手だと思うんだけど?」


 まぁ、親御さんが許してくれるかどうかは別問題だけど……。と、今の私と大して変わらぬ状況の二人に、私は思わず自分を重ね苦笑い。


 そして、そんな私の提案の返答は、


「ぶっ! あははははははは! いやですわ、自愛様。靖英様はあくまで私のご友人。そのような懸想など、してしまってはむしろ失礼というもの」


 爆笑して否定された。というか、本気で彼女は靖英君を恋愛対象として見ていないらしい。その笑顔には一点の曇りもない。


 だが、


「…………………………………」


「元気出せ……。まだまだ時間はあるさ」


 後ろで靖英君が盛大に四肢をつき、その背中を成片君が叩いているのを見て、私は虚ろな笑い声で小町さんに合わせることしかできなかった。


――この三人はこの三人で苦労しているんだな……。


「それに、六歌仙の中で、婚儀を結ぶなら、やっぱり自愛様かしら?」


 といって、小町さんは悪ふざけがてらにわたしの腕を組む。


――あの、あなたほどの美女にそんな風にされて悪い気はしませんが。お願いだから離れて、靖英君の視線から妬ましさがあふれ出している。と、ちょっとだけ怖くなった靖英君の視線のガタガタ震えながら、私は一応理由を聞いておく。


「そ、それはまた何で?」


「だって、いま一番の有望株ですし、神皇陛下の庇護もあるでしょう? なにより、その一途な思い……惚れた女は大切にしていただけそうですわ。成片様と違って」


「一言多くないですか、小町?」


 もっとも、それの愛が、今あなたが想っている女性以外に向くことはそうないでしょうけど。と、成片君の抗議を無視しながら、すべてを知っている小町さんにそう言われ、私はついうっかり天華の斎宮就任を思い出し、再び顔を曇らせてしまう。


「ですが、もう彼女は……」


 私がつらそうに顔をゆがめ、そう漏らしかけたとき小町さんは苦笑いを浮かべ、


「そのことについて、成片から話があるのでしょう?」


「え? あぁ。そうだったそうだった……。自愛さんをからかうのが楽しくて、すっかり忘れていましたよ」


「おい」


 四肢をついていながらも、一応呆れた声でツッコミを入れてくる親友に、成片君はまあまあと手を振りながら、いろいろなことを誤魔化した後、


「実はですね自愛さん。今回の天華内親王の斎宮入りは……」


 と、なにやら重要な話をするんだといわんばかりの真剣な顔になり、




 背後から延びた検非違使の手が、その肩にかかった。


「ん?」


 驚き振り返る成片君に、いい笑顔をした私の部下の一人が話しかける。


「奈木山成片様ですね?」


「そうだが? 検非違使が何の用かね?」


「あなたには昨夜、後宮に侵入した疑いがかけられています」


「…………………………………………」


 どっと、成片君の全身から冷や汗が流れ出た。


――というか後宮って……そんな危ない橋を渡っていたのか、キミ?


「お話し中申し訳ありません、頭。少々この方……お借りしてもよろしいですか?」


 と言われたので、私は信じてもらえないだろうなと思いながら、一応六歌仙のひとりとして成片君をかばってみる。


「いくら成片君でも、そんな無謀なことはしないと思うんだけど……」


「女御のおひとりからの証言はすでに得ています」


「……お仕事がんばってね?」


「ちょ!?」


 これ以上庇うとこっちにも火の粉が飛びそうだと。早々に成片君の救出をあきらめた私は、笑顔で部下たちに手を振り成片君を引き渡す。


 成片君はそれに何やら言いたげな顔をしていたが、私も彼はいい加減一遍痛い目を見るべきだと思っていたし、ちょうどいい。


 冠務陛下は後宮に興味がないから、それほどおとがめはないだろうけど、こってり絞られてくるといいよ。


 と、私は手を振り彼を見送り、唖然としてその光景を見ていた靖英君と小町さんに一言、


「私のことはもういいから、彼について行ってあげなさい。多分打ち首はないだろうけど、割と危機であることには違いないし、君たち二人も彼をかばってあげないといけないだろ?」


「っ!? 失礼しますっ!!」


「あ、あのっ! 話の続きはまた明日にでもっ!!」


 二人はそう言って、慌てて連れて行かれた成片君の後を追って行った。


 そんな慌ただしい後輩二人を見送った私は、再び一人になってしまったがゆえに、取り留めもないことをつれづれと考えてしまう。


――なんで天華は斎宮になってしまったのか……。


――結局、私との約束など、神の前には無意味になってしまったのか?


――期待させるだけ期待させておいて、この仕打ちはあまりにひどすぎる。


 そして


「私と一緒になってくださらないのなら……いっそ」


 そこまで考えた瞬間、私は自分の考えに慄然とする。


「バカな……私は今、何を言おうとした!?」


 滅多なことを考えるもんじゃない……。と、私は必死に首をふるい、嫌な考えを追い出す。


 そして、自分が二度とそんな考えを起こさないよう、仕事に没頭するために職場に戻る。


 結局私はその時気付けなかった。


 廊下の角で落ちていた、わずかに涙にぬれた天華の扇子にも、


 自分の背中にいつの間にか存在していた、黒い霧のような存在にも……。


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