表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/270

明石閑話・夜海復讐絵巻

今日は短め

 私の名前は夜海(よるみ)。元……(サメ)です。


 ワニって言った方が神話的に正解じゃね? と、わけのわからないことをよく賢者様はおっしゃられますが(*日本神話ではワニは鮫だったと解釈されることもあります)、山におられる岩神さまは「鮫は鮫でしょう?」と、おっしゃられていたので多分鮫です。


 何故鮫だった私がこうしてほとんど人間と変わらない姿で、一年ほどの地上生活をしているのかというと……どうやら、私はとある人間の嫁になるために、鮫からこの姿に転生させられたようなのです。


 そりゃ戸惑いましたとも。それと同時に、恨みました。そして、のちに行われた賢者様の教育を受けて、知恵をつけていくたびに、私の恨みは強くなっていきました。


 わたしは別に人間になりたいと思ったこともなければ、海から出たいと思ったこともなかったからです。


 私は、海では誰も敵う者がいない女王でした。


 わけのわからない新顔の海獣とかいう哺乳類も、


 太古の時代から生き延びる、首の長いトカゲのような爬虫類も、


 海にあいた大穴の底にある大陸からごくたまに湧いてくる、黒い獣のような魚も、


 私の牙にかかればあっさりと引き裂くことができ、あたりの海域に血をまき散らせるのですから。


 そんな外敵もいない、圧倒的強者だった私も地上に出ればただの弱者。


 海の中で出会った大風彦様に、槍でぶんなぐられて退治された記憶はいまだ恐ろしく、


 人間になる際「あんまサメの身体能力を残すと、夫婦の関係に支障があるかも……」というくだらない理由で、私の人間の体は瑠偉様よりも貧弱にされ、今ではちょっとした薪をもって、森から家まで往復するだけで息が切れる始末……。


 これで恨むなという方が、少し無理があるでしょう。


 でも、


「ん? 夜海じゃないか。お前また一人で薪を取りに行っていたのか?」


「っ……!!」


 突然聞こえてきた声に、私は慌てて振り向きます。


 そこには鮫時代の私に匹敵する大きさをもつ、巨大な鹿を肩に担いだ瑠訊様がいました。


「ほれっ。無理すんな。持ってやるよ」


「あっ!」


 そういうと同時に私の返答もきかず、薪をとって鹿と一緒に担いでしまう瑠訊様。


 屈辱でした。海では敵なしだった私が……今いる人間の中で一番強い瑠訊様とは言え、気を使われ、助けられたことが。


 瑠訊様は、初対面の時いきなり土下座をされたので、賢者様よりは恨んでいませんが……彼が原因で、私がこんな身の上になったのは紛れもない事実。


 つまり彼は私の仇も同然。そんな彼に気を使われたというのが、屈辱で無くて何と言いましょう!!


「まったく、賢者も余計なことするよな。力強くて不安とか……。力強い方が色々便利だろうにな? ごめんな? 不便な生活させて……」


「つまり……あなたは力が強い私のほうがよかったと? いいんですか? 億が一、わたしがあなたの嫁になったら、褥に入った瞬間、恨みを晴らすためにあなたを引き裂くかもしれませんよ?」


 嫌がらせがてらにそう問いかける私。そして、いいかげん思い出してほしくもあったのです。


 私があなたのことを、大嫌いなことを。


 元の力さえあれば、あなたなんてすぐにでも殺してあげたいと、思っていることを。


 そんな、私の質問に対する瑠訊様の返答は、


「え? だって、強い奴っていうのはかっこいいだろ? サメでも、動物でも、男でも……女でもな。そういうやつは誰だって好きだよ、俺は。それに、お前はなんやかんや言って、瑠偉とか大風彦とかの仕事手伝ってくれるし。いい奴だってのは分かってるから。俺を殺そうとするかも? なんて心配は、元からしてないしな」


「っ!!」


 こちらのことを信頼しきった視線を向けてくる瑠訊様に、あっさり言い負かされてしまった私は、歯を食いしばりました。


……屈辱でした。




…†…†…………†…†…




「うにゅぅ……つまり、瑠訊様が強い奴はかっこいいから好き!! って言われたから、ぜひとも強い女になりたいと……。そういうわけ、夜海?」


「なんで、そうなるんですかっ! 私は、ただ、元の強さを取り戻して、あのへらへら笑っている男に、一泡吹かせたいだけでっ!!」


 というわけで、いいかげん瑠訊様に屈辱的態度を取られるのを我慢できなくなった私は、私たちの家に帰ってから、同じ被害者であるウサギからの人間になった少女――否麻(いなば)に相談を持ちかけました。


 瑠訊様に一泡吹かせたいっ!! と。


 幸いなことに、この家には私と否麻しかいません。なんでも賢者様が言うには「“ぷらいべーとすぺーす”って大事だよね?」とのことで、この拠点には三つの家屋ができていたのです。


瑠訊様と瑠偉様が住む本家。


大風彦様の分家。


わたしたちが住む分々家。


 もっとも、言葉の雰囲気以上に厳しい階級わけではないみたいです。もうそろそろ瑠偉様が大風彦様の家に引っ越すのでは? という話を、賢者様と瑠訊様が嬉しそうにしていましたし。


 閑話休題。


 とにかく、これのおかげで私たちの話が瑠訊様たちに漏れる可能性は零! だからこうして私たちは、瑠訊様を害する計画をひそやかに話すことができるのです。


「だいたい夜海……。恨んでる、恨んでる!! って言っている割に、割と夜海って人助けすることが多いよね? この前転びかけた瑠偉様助けようとして支えたはいいものの、力が足りなくて一緒に倒れたりしていたし……。海に行くって言ってた大風彦様に大喜びでついて行って、いっぱい魚とって来たりもしたし……。ほんとは意地はってるだけなんじゃないの?」


「な、ち、違いますッ! 私は、今は貧弱ですからっ! ここの人たちに見捨てられたら困るからっ! だからせいぜい仕事手伝って、媚び売ってるだけなんですっ!! 力さえ戻ったら、ここにいる奴らなんて、八つ裂きにしてやりますッ!! 毎日毎日岩神様のところに入り浸って遊んでいる……あなたとは志が違うんですっ!!」


「うにゅぅ……。またそうやって、口悪く意地はる……。友達いなくなっちゃうよ?」


「け、結構ですっ!! わたしもとは女王でしたからっ!! 海の女王でしたからっ!!」


 私の必死の抗議は否麻に届いたのか? まるで雷でも避けるかのように倒していた耳を持ち上げる否麻。


 け、決して私の言葉がうるさかったから、耳を閉ざしていたわけではないんですよね? ね?


「大体私遊びに行っているわけじゃないも~ん。私は岩神様の巫女になるから、そのための修行だも~ん」


「え? 巫女? なんですかそれ?」


「ん~? なんか賢者様が言うには、歌って踊って神様を喜ばせるだけでご飯がもらえるお仕事なんだって。だから岩神様にどんな踊りがいいか聞いてるところなの」


「なんですかその仕事舐めきっている仕事は……。人間の文化というものはよくわからないですね……」


 と、私はちょっとだけ文化の違いに驚きながらも、


「で、何かいい方法有りません?」


「う~ん」


 諦めずに否麻に質問を続けてみた。


 すると、彼女は何か思いついたのか、ポンと手を一つ打つと。


「そうだ! 狩りで勝つっていうのは?」


「狩りで?」


「そうそう」


 否麻が言うには、


――いわく、現状最強の瑠訊だからこそ、彼は地上での動物を狩る仕事を任されている。


――いわく、それに勝ちさえすれば夜海が現状最強ということになる。


――いわく、そうなれば賢者様から褒美がもらえるかも? 賢者様からは無理でも、私が岩神様に口利きしたら、案外身体能力ぐらい元に戻してもらえるかも?


 というのが、否麻の意見だった。


 えらく単純かつ率直的すぎて、流石は獣畜生と言ってしまいかけるほど簡単な作戦でしたが、


「ふふっ……。力でねじ伏せる……悪くありません」


「まぁ今はその力自体がないから、実行は不可能……って、夜海ぃ、聞いてる?」


 何やら否麻が質問してきますが、些細なことでしょう。今の私の脳裏には、泡を吹いて私にひれ伏す瑠訊様の顔がいっぱいですし、聞いている暇はありません。


「ふふふっ……。待っていなさい、瑠訊さん! 絶対もう生意気な口はきかせませんからねッ!!」


「うにゅぅ……なんか余計な入れ知恵しちゃった気がする……」


 そんな否麻のボヤキを効果音代わりに、私は窓から見える月に復讐の実行を誓うのでした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ