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新しい仲間 猿・人迫害

『大地に立ちし兄妹神は賢気朱巌命より知恵を授かり暮らしを始めた。そして、大地が芽吹き、森が生まれ、動物が生まれ、そしてそれらを自在に操れる証である畑が作られたとき、流慰天瞳毘売は大地から生まれ出でた神を見つけた。

 地の神にして国の神――国常大上彦命くにとこのおおかみひこのみことが生まれたのだ。

 国常大上彦命は神々しい力を放つ、流慰天瞳毘売を見て、涙を流しひれ伏した。

『われこの国の大地より生まれたもの。汝らが大地を耕した時にこぼれた汗と血の塊。汝らの下僕です……』

 その話を流慰天瞳毘売から聞いた流刃天剣主は、笑って土から生まれし穢れた神々を受け入れ、自ら作り上げた畑の土を浴びせ、祝福を授ける。

 その際流刃天剣主が振りまいた土が変貌し、大地には《国建神》なる、八百万の神が生まれた』




…†…†…………†…†…




「ど、どう?」


「……意訳しすぎ。それに、国常大上彦命による国建神(土着の神々)の服従の言葉は、きちんと訳せばもう一つ二つ単語が増えるうえに、もっとへりくだった言葉になるはずよ。これじゃ先生も40点ぐらいしかつけられないわね……。やり直し」


「うわぁあああああああああああああああああああああん!! 優香ちゃんのいけずぅううううううう!!」


 とある女子高生が、古文の現代語訳の課題をしながらそんな会話を交わした……。




…†…†…………†…†…



…†…†…………†…†…




「賢者の石さん。今私どのくらい進んでいます?」


「普段の生活領域からは少し外れているかな? どうした。見えなくなったか」


「えぇ。いつも通っている場所よりも、ちょっと物の位置がわかりにくくなくなったので。多分そうかなと……」


 人よりも鋭敏な感覚を持つ瑠偉の言葉に、俺こと賢者の石は「相変わらず凄まじい感知能力だな……」と舌を巻きながら、普段瑠偉が歩き回って食料を集めているエリアに向かい、道案内を開始する。


 あれから8年の歳月が流れた。


 まだまだ子供だった瑠訊と瑠偉は、もう大人の気配を漂わせる20歳と18歳の青年と女になり、ここでの生活も安定してきていた。


瑠訊はもう立派に一人で狩りができるようになり、この森にいるクマや狼の群れと戦っても、平然と生きて帰ってくるくらいの強さを手に入れていた。


 正直、逞しくしすぎたか? とちょっとだけ思ったが、武力というのはいくらあっても足りないということはないだろうから、よしとしておく……。


ということで、瑠訊に教えることはなくなり暇を持て余していた俺は、最近の日課となりつつある、瑠偉の食料採集に同行しながらの散歩にうつつを抜かしていた。


「ところで賢者の石さん」


「ん? なんだ?」


「どうして兄さんの狩りについて行かずに、私にばかりついてくるんですか? どう考えても命の危険が多いのは、兄様の方なのに」


「今のあいつを害することができる生物がこの森にいるかよ。なにより、むさくるしい男と一緒の散歩よりも、お前みたいな美人な女に抱えられての散歩の方が、万倍楽しいに決まってる!!」


「……」


「え? な、何その顔? 何、俺を捨てようかどうしようか、真剣に迷っているといわんばかりの顔になってんの!?」


 瑠偉も、見目麗しかった子供時代から充分予想できた美人さんになった。流れるようなさらさらとした黒髪に、左右対称な完璧な造形の顔。正直近くでこの顔になるまでの成長を見てきていたが、彼女が成長するたびに石の俺ですら思わず「世の中って理不尽……」と思うほどに、その美貌は完成されていた。光を映さない紅い瞳すらも、いまではその美貌に花を添える一つのアクセントになりつつある。


「お前ホントにあの大陸にいなくてよかったな……。下手したら15越えたころには、すでにかどわかされてでかい娼館の名物娼婦になっていたかも」


「兄さんの前でそれ言わないでくださいね? わたしでも、あなたをいいかげん砕くかどうか迷う言葉ですし……」


「マジスンマセンでした……」


 さすがに不変なんてありがたくない称号を戴いている俺でも、砕かれたらどうなるかわからないので、素直に謝罪の言葉を継げる。とはいえ、


(こいつら兄妹……救世主の俺に対して扱いがぞんざいすぎね!? ダメになった兎嵐でさえ、おれに向かって『砕くぞ』なんて脅しはしてこなかったって言うのに!?)


 あれ? 俺もしかして選択肢間違えたのかな……。と、そんな詮無いことを考えながら、俺たちがいつものようなくだらない雑談を続けながら、森の散策をしていた時だった。


「ん?」


 瑠偉が突然今まで向いていた方向とは違う方向を振り向いた。


「ん? どうした」


「いえ……。何か聞きなれない足音がこっちに」


「聞きなれない足音?」


 瑠偉は危機を回避するために、この森に生息する動物たちすべての足音を覚えているため、だいたいはどんな動物が近づいてくるのかわかるのだが……その彼女が、知らない?


「どんな感じだ?」


「足音は一つ。単体です。でも変です……。これ、明らかに足を四本使っていない……。私達みたいな、二足歩行の足お……」


 瑠偉がそう言いかけ、俺があわてて遠視魔法を発動しようとした時だ。


「うぉ?」


「え?」


「なっ!?」


 突如上がった猿のような声。それと同時に俺が視線を向けた先には、


「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」


 瑠偉を見て驚いたように出てきた茂みから逃げていく、もじゃもじゃの髪とひげをもった素っ裸の……人間(・・)がいた。


「人だとっ!?」


「え、うそっ!? この島にはいないんじゃ!?」


 驚いたように声を漏らす俺に、瑠偉は明らかに不安がにじみ出た雰囲気で、慌てて手に持っていた(おれ)を力いっぱい握りしめた。




…†…†…………†…†…




 それから数時間後。


「瑠偉が人間を見たっていうのはここか?」


「そうなんだが……」


 ひとまず混乱する瑠偉を家までナビゲートした俺は、狩りから瑠訊が返ってくると同時に、俺が世界改変で作り出した玉鋼の名剣と、鉄の矢じりを持つ弓矢をもたせ、先ほど人間と出会った場所に急行した。


「どう思う? 春王朝の奴らがやってきたと思うか?」


「いや、幾らなんでもそれはない。さっき遠視の魔法で確認したが、あの国は今も内乱が続いて、海外に目を向ける余裕なんてない。難民たちが自力で逃げようにも、俺たちみたいな裏ワザでもない限り、いまの航海技術じゃとても日本海を横断してこっちに来るなんてことは……」


「じゃぁ一体誰だっていうんだ!」


 精悍に育った顔に浮かべる焦燥。それが隠せない様子の瑠訊の怒声交じりの問いかけに、俺は「わからない……」と答えてやることしかできなかった。


 俺も何度か遠視であの人間の行方を追ったのだが、どういうわけかあの人間の像だけがうまく遠視魔法に映らない。


 まるで俺と同じ力を持つ何らかの存在が、あの存在の感知を妨げているかのように……。


「瑠訊……」


「なんだ?!」


「もしかしたら……俺みたいな力を使える奴が、さっきの人間の守りについているかもしれない。もし戦いになったら、注意をしろ」


「っ!? わかった……!!」


 この時のために訓練はしてきた。今や誰にも負けない力を手に入れたと、一人前の瑠訊はそんな自信をもっていた。


 だがしかし、実戦というものはどれほどの力をもっていたとしても、緊張を覚えるものなのだろう。


 特に同族。人間との戦いは。


 俺を握り締めていた瑠訊の手が、わずかに震えるのを感じ取る。


 俺はそれを感じとり、少しでも瑠訊の緊張をほぐそうと、いつもの軽口をたたきかけたときだった。


「っ!! 見つけたっ!!」


 瑠訊がそう言って指差した先には……!


「なっ!?」


「おい!? なんだあれっ!?」


 かろうじて二本足で立てているような、手の長い巨大な猿たち。それに石ころや木の枝を投げつけられながらも、彼らの前に貢ぐかのように、必死に果物や野草を置いていく、毛むくじゃらの裸男の姿があった。




…†…†…………†…†…




(どういうことだ?)


 その信じられない光景を見て、慌てて茂みに隠れた瑠訊と息をひそめながら、俺は内心そう思っていた。


「どうして人間がサルに貢物をする? やっぱり春王朝からやってきたのが正しい予想か? そんで碌に航海技術をもたないせいで、海難事故にあってたまたま日本に漂着。ただその男は漂流したときの恐怖で、頭がやられてしまったとか……」


「おい。それ関わるのまずいんじゃねーの? ちょっと可哀想だけど、そんな男を瑠偉の近くに置くわけにはいかないぞ?」


「まぁ……そうと決まったわけじゃないし。もうしばらく様子見……まて、どこかへ行くぞ?」


 おれと瑠訊がヒソヒソそんな相談をしているのをしり目に、サルたちの猛攻撃にとうとう耐え切れなくなったのか、毛むくじゃらの男は猿か何かのように、地面を手につけ走る野獣のような走法を披露しながら、森の中へと逃げ込む。


 男がいなくなった途端、歓声を上げて男が置いて行った貢物に群がる猿たち。


 そんな光景を、ちょっとだけ切ない気分になりながら見た後、俺は瑠訊に指示を出す。


「あいつを追いかけろ。どこに行ったのか確かめる。多分そこにあいつの拠点があるはずだ」


「了解」


 俺の言葉を聞いた瑠訊は、極力音を立てないよう茂みから飛び出し、男が進んでいるであろう、森の木々をかき分ける音が聞こえる方へと疾走を開始した。




…†…†…………†…†…




 そして俺たちは神に出会った。





「とまれっ!!」


「っ!!」


 突如体を走った力の奔流に、俺は思わずそう叫ぶ。だがその力は、俺が叫ぶまでもなく瑠訊にも感じ取れたのか、彼は俺の指示を聞く前にすでに停止し、森の隙間に現れた巨大なそれを、唖然とした様子で見つめていた。


 それは信じられないほど巨大な岩だった。


 下の方は無数のコケに覆われているが、それ以外はどういうわけか風雨にさらされた跡も、削られた跡も見受けられない、ごつごつとした楕円形に近い形をした巨岩。


 大体高さ30メートルはあるだろうか? 見上げるほどの大きな巨岩が、俺たちに力の奔流をたたきつけた正体であり、あの毛むくじゃらの男が縋りに行ったものであった。


「なんだこりゃ?」


「わからん。だがこの岩……意志をもっている」


「……………………………………」


 俺の確信めいたその言葉を聞いたとき、瑠訊は驚いたように目を見開き手に持った俺を見つめた。


「おいおい……こんな時にダジャレかよっ!! もっと真剣になれっ!!」


「お前はもう、黙れっ!!」


 も~! 空気読めよっ!! と、そんなすっとぼけたバカ発言をする瑠訊に、俺が思わずそう怒鳴り声をあげたときだった。


『我が子が『南の森で、毛が少ない奇妙な同族を見た』と言っていましたが、あなたたちがそうですか、大陸の知恵ある獣と、大陸の《偉大な物》よ』


「なんだ!?」


「瑠訊! この岩からだっ!!」


 突如、瑠訊と俺の脳裏(まぁ、石だから脳なんて(以下略))にそんな声が響き渡り、俺は思わずその岩を見上げた。


「言葉がわかるのか?」


「いいや違うな。言葉というほど複雑な意思は感じない。これは……思念? 多分岩が発する思念を俺たちの脳が勝手にわかりやすく変換して、処理しているんだろう」


「……も、もっとわかりやすくいってくれ」


「……この岩とは会話ができます」


「なるほどっ!! お前より神様っぽい岩だな!!」


「おいおまえ。いいかげん痛い目にあってみるか?」


『ふふふっ……。なかなか愉快な獣のようですね。大陸の《偉大な物》よ』


 俺たちの言い合いの内容はきちんと理解できているのか、巨岩はそんな思念を飛ばしながら俺たちに気安く話しかけてきた。


「あんたは、いったいなんだ? 瑠訊が言うようにこの国の――いや、国はまだだったな。この大地の神か?」


 だから俺はひとまずそう質問した。もしもこの存在が神だというのなら、いまさらどうこう言うつもりもないが……もしかしたら、俺がこの世界に来るきっかけになった女神とのつながりが、何かあるかもしれないと思ったから。


 そして、その返答は。


『その《神》という概念を私は理解できません。私は生まれたときからこの森と共にあり、森の獣たちは私の姿を見て《偉大な物》と畏怖の念を抱き、私に一定の敬意を払ってくれました。だから私は自身でも《偉大な物》と名乗っているだけなのです』


「そう……か」


 その言葉を聞き、俺は若干落胆しながらも周囲の状況を探った。


 そして、


(ここ……龍穴か?)


 一時期うちの国でもやった概念。《星を流れる見えない霊的エネルギーの巨大な流れ》が、この巨岩の下で、無数に交わりあい岩に向かって噴出しているのを見て、目を見開いた(石だから(以下略))。


 俺が何度も行っている世界改変も、実は大気に満ちるこの力を使っているらしいというのが、最近暇つぶしがてらに調べた実験で確認が取れている。


 この世界では、俺の世界では眉唾物とされていた、世界を流れる《力》の流れが確かに実在していたのだ。


 どうやらその力が噴出する地点にいたことによって、この岩はおれと同格……いや、もしかしたらそれ以上かもしれない、圧倒的な世界に対する影響力を持つに至ったんだろう。おまけにこの岩は動物たちの畏怖という原始的信仰という力も同時に受けていた。だからこうして意識を覚醒させ、原始的ながらも、こちらと会話ができるほどの自我を保持することに成功したんだ。


(おそらく、女神によって作られた俺とは違う形での神……。純粋に自然発生した、大自然の神ってわけか……)


こりゃ人間の貧弱な魂に、適当に力を与えられた俺も拝まないといけないかもな……。と、ちょっとだけ岩の存在感に俺がビビッていたときだった。


「っ! そうだあの男っ!!」


「あ……」


 岩のインパクトが強すぎてついうっかり忘れてしまっていた。


 俺が慌ててあたりを見廻すと、毛むくじゃらの男は大岩の陰に隠れるように、猿たちの攻撃で傷ついた体を抱え、うずくまっていた。


 その男の周囲では岩から発せられる力が渦巻いており、ゆっくりではあるが男の体を癒しているようだった。


『この子に用ですか?』


「よ、用っていうかなんというか……いえあの。見たところ俺たちの同族のようだし、何者なのかなって。あんたが言うように大陸から俺たちのようにやってきたのなら、ちょっと放っておくわけにもいかなかったし……」


「おい……まさか」


 そのとき、俺は嫌な予感を覚え、思わず頬を引きつらせる(石だから(以下略))。


『ご安心なさい、大陸の知恵ある獣よ。我が子はあなたが恐れるような大陸からの侵略者ではありません。我が子は我が祝福を受けた《樹上の獣》の子供です』


「樹上の獣?」


「あぁ、悪い! 岩の神様!!」


『はい?』


「その話は、ちょっと俺だけとしてくれないか?」


「えっ!? なんで!? なんでここまで来て、俺は除け者っ!?」


「うるさい。そこらへんで食糧集めでもしてなさい」


「てめぇ、いい加減にしないと本気で砕くぞ、エセ神話道具!」


「いいからっ!!」


 ギャーギャー喚く瑠訊を、俺は力を世界改変で《威圧》という形にして固めて、ぶつけることで強制的に黙らせ、


「この話は聞くな。神様だけの秘密の話だ」


「……わ、わかったよ」


 どうやら俺が本気で拒絶していることは理解してくれたのか、瑠訊はなんだか少しだけ落ち込みながら、俺を地面に置いて森の中に消えてくれた。


(悪いな瑠訊。でもお前はまだ知る必要はないんだ……。人間が猿から進化したなんて、聞いただけでショック受けるだろうし……)


内心でそう謝罪をしながら、


『もういいですか? 大陸の《偉大な物》よ』


「話を切って悪かったな……。続けてくれ」


 俺のその言葉を聞き、岩はその男の出自を事細かに話してくれた。




…†…†…………†…†…




 何のことはない。他の森の獣たちよりも力が弱かった猿を哀れに思った岩の神(呼びにくいのでこう呼称することにした)が、猿のメスが孕んでいた一人の子供に祝福を与えたのだ。


 森で獣に虐げられないよう、いまよりも大きな体を。

いらぬ危機を避けられるよう、いまよりも賢き頭を。

誰よりも早く危機に気付けるよう、二本脚での移動が可能な強靭な足を。


 岩の神はそんな願いを込めて、自分の力をその赤子に送り続けた。


 そして生まれた子供が、完全に大陸の知恵ある獣=人間と同じ姿になり生まれたときは驚いたらしいが、大陸での人間の栄華をなんとなく感じ取っていた岩の神は、純粋にそのことを喜び、生まれた赤子がきちんと成長できるまでの守りの加護を授けていた。


 だが、岩の神が予想していなかった事態が起こる。


 猿たちが自分たちとあまりに違いすぎる見た目をした男を、排除しにかかったのだ。




…†…†…………†…†…




『私は愚かでした。自分たちの腹の中から、異形の物が生まれたときに、獣たちが抱くであろう恐れを理解していなかった』


 慌てて岩の神がこちらに来るよう男に指示を出した時はもう遅く、彼と猿の確執は岩の神であっても治せないところにまで来てしまっていた。


「そいつがそれでもなお、その猿のコミュニティーに近づいたのはなんでだ?」


『親がいたのですよ。彼を生んだメスの樹上の獣が。その母である樹上の獣だけは、彼をいつくしみ、群れからの迫害から彼を守りきった。もっとも、その母親は、今は病でなくなっておりもうあの群れにはいないのですが……。この子はまだ、そのことを理解していないんでしょうね』


(そして、その母猿のために、あんなに傷だらけになっても食料を送り届けているってわけか)


 そんな男の物語を聞き、切ない気分になっていた俺は、今はすっかり傷が治り穏やかな寝息を立てて眠っている男を見つめた。


(猿から進化したての人類か。進化っていうのは、一種の突然変異だろうという意見は元の世界でも言われていたが……)


 まさか、こんな貴重な生命の歴史の目撃者になるとは思っていなかった俺は、「あんまり、いいもんじゃなかったけどな……」と、猿による人間迫害の歴史を内心苦々しく思う。


 いくら仕方がなかったこととはいえ、やはり迫害というものは聞いていて気分の良くなるものではない。


『そこでひとつ提案なのですが……大陸の偉大なるものよ』


「え?」


 だが、その後岩の神が提案したその言葉を聞き、俺の頭は一気に痛くなった。


『このままではこの子があまりに哀れでなりません。どうか大陸の知恵ある獣と同じように、あなたの庇護下においてやってはくれないでしょうか? 幸いなことに、この子の体は大陸の知恵ある獣たちと全く同じようですし、共に生きることは決してできないわけではないはずです!!』


 男を思う、男を生み出した母としての岩の神の真摯な懇願の言葉に、先ほどの迫害の来歴を思い浮かべた俺は、


「うっ……」


 今も二人のガキの面倒を見るので手いっぱいなのに!? と思いながらも、


「ううっ!?」


 しかもあいつら最近反抗期なのかやたらと冷たいし!? と思いながらも、


「うぅううううううう!?」


 それに受け入れるならもう一軒家をつくる必要が……。最低限のコミュニケーションができるように教育も施さないといけないし……そんな労力は……!? と、思いながらもっ!!


「うわぁああああああああああああああああああああああああああああああ!?」


 葛藤し、葛藤し、カットウシ、かっとうし……そして、




…†…†…………†…†…




「ようやく帰ってきましたか?」


 あの人、結局どうなったんでしょうか? と、私――瑠偉はそんなことを考えながら、家の扉の前にやってきた人の気配を感じとり、その扉を開けます。


 それと同時に漂ってくるのは、かぎなれた兄さんの匂いと、感じなれた賢者の石さんの気配。そして、


「?」


 感じなれない、野性味あふれる男の人の体臭でした。


「ご、ごめん瑠偉……。とりあえず風呂沸かして?」


「拾うことになっちゃった……」


「あ~う?」


 どうやらその体臭が、私が森で出会った男の人の臭いだと分かった私は、多分とっても申し訳ない顔をしているだろうな……。と思われる兄さんと賢者の石様に向かって、


「くさいです。薪は用意しておきますから、早く水を汲んできてください。あ、ついでにその人もちょっとだけ洗ってくださいよ? 今の状態でお風呂に入ると湯船が汚れますから。それだけは絶対に許しません」


「「全速力で洗ってきますッ!!」」


 二人があわてた様子で、新しくやってきた男の人を連れて行くのを感じながら、私は扉から外に出て薪が積んである場所へと歩いていきます。


 それと同時に川から聞こえてくる、


「うぎゃぁああああああ!? ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!!」


「あっ!? コラ暴れんなっ!!」


「俺が世界改変で押さえつけるっ!! 水汲みもあとで俺が世界改変でやってやるから、できるだけ手早くそいつを洗えっ!! 見た感じ瑠偉、滅茶苦茶怒ってたぞ!?」


「あたりまえだこのバカ石っ!! ほんとうにもう……簡単に安請け合いしやがってぇええええええ!!」


 兄さんと、賢者の石さんと、新しい住人の怒鳴り声と悲鳴。


 どうやらまた、賢者の石さんのむちゃぶりが発動したみたいです。と、騒がしくなりそうな新しい住人の来訪に苦笑をうかべながら、私は薪に手をかけるのでした。


国常大上彦命くにとこのおおかみひこのみこと=明石記に登場する最古の神の一人。もともとこの国にいた土着の神であるとされ、学者の間では土着の神の代表ではないかと考えられている。

 皇家の祖先神である流刃天剣主と流慰天瞳毘売に、何の抵抗もなく真っ先に臣従の意を示したため、世界一のヘタレ神とも言われるかわいそうな人。

 だが、実は創造神話の中である活躍をすることに……。

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[気になる点] ~「えぇ。いつも通っている場所よりも、ちょっと物の位置がわかりにくくなくなったので。多分そうかなと……」 わかりにくくなったので なくが入っていると、普段より分かりやすくなったという意…
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