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明石閑話・遣瑞使たちの瑞滞在記

「あーしんどい……。呉燈~。肩揉んで」


「肩ないじゃないですか……」


 そうでした……。まったくもってその通り。と、ようやく流刃から押し付けられた仕事を終え一息つけることになった俺――賢者の石は、クサレ神の妻になった茶の神が経営しているらしい、小料理屋に呉燈と一緒に訪れていた。


「まったく、流刃様も容赦ないですね」


「まぁ、なかなか帰ってこーへんかった賢気朱巌命様に、若干苛々しているところも見れたし……。あんがい、久しぶりに顔だしてくれた育ての親に甘えてたんちゃいますか?」


「あれがそんな殊勝な考えするような奴かよ」


 頭巾で長い髪をまとめた、下町の女性の服を着こなす芝色の毛なみを持つ、犬型獣人の素朴な女性。毛色から柴犬のだと分かるこの女性が、茶の神である《其ノ葉薫姫(そのはかおるひめ)》。渡来人が持ってきた《お茶》をとある村で普及させ、その村で神格化された新参の神様だ。


そして、流石はお茶の神というべきか、俺が割とむちゃぶりした自覚があるとある現代のお茶を、伝聞で聞いただけの状態で見事に再現。俺が訪れたときは特別にそのお茶を出してくれる。


 言わずもがな、俺の故郷の味……麦茶だ。


 抹茶じゃないのかって? あんな苦いモノ飲めるか。と、一人で自問自答しながら、俺は最近になって発見した物質吸収機能を使い、お茶を飲んでいく。


 別に吸収したからと言って、霊力が上がったり、女神の制限が減ったり、体積が大きくなったりと、特別なことは起らないが、そんな無駄なことをする価値がある機能がこの機能にはあった。


この吸収機能には味覚があるようなのだ。おいしいものを食べたら、おいしいと感じることができたのだ。というわけで、俺は新しい娯楽として美食……とはいわないまでも、そこそこおいしいものを吸収するのが、最近のマイブームになっている。


「あぁ、そうだクサレ神。お前俺が頼んどいた醤油やら味噌やらはどうなったんだよ!! いつまで待てばできんのあれっ!!」


「あんな伝聞系の情報だけでどうこうなるわけないでしょう……。おまけに、一度冬に入っちゃったから物を腐らせるのも一苦労なんですよ」


「とか言いながら、この店のお茶の発酵は順調に進んでいるみたいだな」


「嫁さんの頼みですので」


 そう答えたのは、クサレ神の名に似合わない、線の細い美少年。サラサラの黒髪に、涼やかな瞳。筋の通った鼻筋を中心に、顔のパーツが完璧に左右対称につけられた、文字通り神がごとき美貌を持つ少年だった。


 ただし、物が腐ったような異臭を体から放つ……。


 この臭いに耐えきれないという連中が続出してしまったせいで、高草原でも割と長い間ボッチ暮らしをしていた奴で、石という体故に、五感が割と簡単にカットできる俺以外に、交友関係なんてないと思っていたんだが……。


 なんか久々にこいつに社に顔だしたら、素朴だが、だからこそいい雰囲気を放つ、こいつにはもったいないくらいの嫁さんがいて、一緒に屋台を切り盛りしていた。


 許し難し。こっちは百年単位で(ツレ)なんかできたことないのにっ!!


「やっぱり見た目なんだろうか……」


「まぁ、賢気朱巌命様はいろんな意味で障害が多いですからね……。見た目もさることながら」


 なんか高草原(こっち)に来てから呉燈の口が悪くなったような気がする……。と、俺は隠れたどころか、透けて見える棘がある呉燈の言葉に肩をすくめながら、念動力の神術で浮かせていた湯呑を置く。


 その時だった。


「ん?」


 湯呑に満ちていた御茶の水面が、まるで鏡のように平らになり、何かの景色を映し出したのは。


「あぁ、下界託か」


 神託ならぬ下界託(げかいたく)


 神様とて万能ではない。それこそ天瞳を持つ流慰でもない限り、たいていの神々は、自分を奉ってくれている人々、全員の様子を知ることなど不可能だ。


 そんな神々を補助するがごとく、ここ高草原はごくたまに、神の加護が必要な状態にある下界の人間を、何らかの方法で神に伝えてくることがある。


 それを見た神がその人間の願いをかなえるために、神託やら加護やらを与え、彼らを窮地から救う。これがこの世界での神頼みが成就するためのシステムとなっている。


 まぁ、たいていは神社にお参りして、お願いをしている人間が映るものなのだが……。


「俺の神社って、確か神祇庁にしかないよな?」


「あたりまえです。王族守護の神なのですから、それ以外の人間が簡単に訪れるような社では困ります」


 ん? だとするなら、征歩がなんかやらかしたのか? と、俺は首をかしげながら、湯呑にできた水鏡を覗き込んだ。




…†…†…………†…†…




「はぁ……。瑞に来てから、もう()ぶんと経ちますね」


「………………………………………」


 帰ってきたのは無言。しかし、若干抗議の色が感じ取れる視線も飛んできたので、私――照夜望戸はしてやったりと笑う。


 そんな私の表情を見てため息をついたのは、私が瑞にやってきてから7年ですっかり仲良くなった瑞の友人――最近になってようやく官吏に返り咲いた、春樺だ。


 私が瑞についたときはいろいろな要因が重なって、官吏を解任されていたんだけど、幸いなことに瑞の皇帝にかくまわれていたみたい。羅針盤の増産が本格的にできるようになったとき、その手柄をひっさげて再び朝廷入り。文句を言う官吏たちを羅針盤の手柄で叩き伏せて、再び官吏に返り咲き、私たち日ノ本の遣瑞使の面倒を見てくれるようになった。


 もっとも、官吏に返り咲く前から、彼女がかくまわれていた後宮に入り込んで、一緒に雑談をしてはいたんだけどね?


「しょーもないこと言って私の仕事の邪魔をするのやめませんか、望戸」


「だって退屈なのよ~。春樺はわたしに仕事させてくれないし」


「あなたは、あくまで神術の技術提供が仕事でしょう。それにこの階級の官吏になってくると、やってくる書類は全部が機密級の書類なんです。他国の人間にそうやすやすと触らせるわけにはいきません」


「え? そうなの? でも征歩(ぞくぶつ)は割とあなたに仕事を手伝わせていたような……」


「あの国は例外中の例外です。あなたの呼び方を、征歩神皇が顔引きつらせながらも許していることが、何よりの証……」


 仕事手伝いましょうか? と言った途端、機密書類を投げつけてきた征歩に、機密の意味を解いて、自分でやるように説得するのに、どれだけ苦労したと思っているんですか。と、昔を懐かしむ……にしては若干険しい顔をした春樺に、わたしは肩を竦めた。


 まぁ、たしかに、うちの国はできたてらしいので、若干神皇に対する尊敬の念が足りないんだけどね……。


「それにしても、誤算でしたね……。まさか、こちらでは神術の出力があれ程安定しないとは」


「私みたいに、神様との間に強力な通路ができていたら、問題ないみたいだけどね……。こっちの国の人たちにも私たちの国の神話を読ませて、神様の信仰をさせてみているけど」


「他国の神のことなど信頼に値しないという人たちが多いですからね……。いっそのこと、一般庶民を集めた方が妙な矜持なんかなくて、助けてくれるなら、どんな神でもいいと縋るでしょうし、神術を使わせやすいのでしょうが……」


 そう。この国で私が広めようとした日ノ本の神術は、こっちでの日ノ本の神様の認知度が低すぎたせいで、うまく機能しなかったの。


 一応、認知度改善のために私に神術を習いに来た官吏の人たちに、うちの神話を読ませてはいるんだけど、


『所詮小国の神』

『形だけ信仰してうまい汁だけ吸おう』

『なぜ、あのような列島の獣たちに、わたしが頭を下げねばならん……』


と、考えている人たちが大多数のせいで、そっちもうまくはいっていない。


 どうやら、科挙試験があるといっても、宮中で官吏をしているのは、よほど頭がいい人以外は、だいたい幼いころから科挙試験のために勉強している貴族の人たちばかりのようだ。


 そのため妙に誇り高く、悪く言えばこっちを下にみる人が多すぎるため、うちの神々は力を貸したがらないみたい。


 もうめんどくさいので、そういった誇りとか矜持とかがあまりない、平民の人でも呼んで教えれば、小国の神っていう偏見もないから、すんなりうちの神々の加護を得られるのかもしれないけど、


『妙な話を広げて人心を惑わす可能性がある!!』という高級官吏の鶴の一声によって、そっちは禁止。今教えている官吏の人たちが一定以上の成果を出さない限りは、そういった布教活動はだめらしい。


 要は、平民が先に力をつけて、変に蜂起をされたら困るということなんだろう……。まったく猜疑心の強い国ね。


「もう神術普及に関しては諦めるしかないわね……」


「そ、そういわないでくださいっ! 皇帝は火緋色金の貢物は気に入られていっておられたでしょう!? 特にあの鈴。鳴らしただけで凄い衝撃波が出ていましたが、どういう仕掛けですか? まぁ、多分神術の産物なのでしょうけど」


「あぁ、あれは神術とは関係なくて、火緋色金が吸収した霊力が、響き渡れっていう持ち主の意志に反応して、鈴が鳴ると同時に、音に変換されて鈴の中で増大。一定方向に放出されているのよ。あの金属は、身に着けていなくとも、霊力をため込みやすい性質を持っているし……」


「わかるように言ってください……」


「原始的霊力汎用技術なんだけど……」


 なんでわかんないのよ……。と、私は思わず言ってしまいそうになったけど、この国はそういったことに頼らず歴史を刻んできた国だと、以前読んだ歴史書に書いてあったことを思い出しため息をついた。


「とにかく、神術は関係ないの。あれを使って、あの頭の固い俗物官吏どもを言いくるめることなんて無理なの」


「むぅ……。ですがそれでは契約違反になってしまいますよ。こちらに神術の技術を伝えることを条件に、私は日ノ本と対等の関係を結ぶ契約をしたというのに」


「だから、神術が使えないってわかった時に、代わりになるようなものを手に入れられるように、二人を走らせたでしょ?」


智耳豊隆(さとみみのほうりゅう)殿と、粕華菫(かすけのすみれ)殿ですか……。まだ連絡は来ていないんでしょう」


「そうなのよね……。そろそろ帰ってくるころだと思うんだけど」


 どこほっつき歩いているんだか……。と、私は一緒の船に乗り遣瑞使としてやってきた少年たちの顔を思い出し、つい似合わないため息を漏らすのでした。




…†…†…………†…†…




 俺――智耳豊隆は、風を切り、雲を突き抜け、虎の尻尾と耳をなびかせながら、一路師匠のもとを目指していたっす。


「まったく、何なんっすかね師匠のやつ……。もう修行も終わって、免許皆伝になった弟子をわざわざ呼びつけるなんて」


 俺が師匠――天鐘老君(てんしょうろうくん)と呼ばれる仙人の弟子になり、修行して仙術を使えるようになったのは訳があるっす。


 時間は6年前にさかのぼるっす。




…†…†…………†…†…




 瑞にわたり、神術が使えないと分かった時でした。神術が使えないと分かった以上、日ノ本が瑞との契約を履行するのは限りなく不可能に近い。


 でも、だからと言って黙って引き下がるわけにもいかなかったっす。契約の不履行は国の威信にかかわることだし、その相手は大国瑞。多少の無理を押してでも、俺たちは神術に代わる異能を瑞に提示する必要があったっす。


 そこで俺が考えたのは、この国土着の異能=仙術を俗世に広めることっす。


 誰か一人でも、仙人を説得することができれば……いや。騙すことになったとしても、弟子入りして技術さえ教えてもらえれば、あとは下界にそれを広めればいいだけの話!!


 そうすれば、日ノ本は瑞との契約を履行できたことになるっす!


 そう考えた俺は、一路仙人が住むといわれる瑞北部にある大山脈地帯――昆浄山脈(こんじょうさんみゃく)にでむいたっす。


 そこで俺は、どうやら俗世避けにはってあると思われる結界を発見。それを俺は、まだかろうじて残っていた断冥尾龍毘売様の霊力を使い再現した、龍神の尾の一撃で粉砕し、結界内に侵入したっす。そして、しばらく行かないうちに仙人の皆さんにひっとらえられました。


 まぁ、そりゃ自分たちを守ってくれる結界を粉みじんに砕かれれば、誰かくるだろうとは思っていましたが、さすがにこれほどの反撃を食らうとは予想外っす……。せいぜい二、三人仙人が出てくる程度だと思ってたんっすけど……。


 その後なんやかんやあって、一人の仙人を言いくるめることに成功した俺は、その仙人とこんな約束を交わしたっす。


『よかろう。ならば貴様は私の弟子となり《(タオ)》を学ぶといい。そして、その間学んだすべてを、下界で教えても構わん。だがしかし、免許皆伝までにかかっていい時間は5年じゃ。免許皆伝までにそれ以上の期間がかかるようなら、貴様はこの昆浄山脈に封印され、仙人を侮った罪を償うこととなるだろう』


 そして、地獄の修行が始まったっす。


 そして、三年くらいであっさり終わったっす。


 いや、実は俺が加護を戴いている日ノ本の神は、変貌の神・断冥尾龍毘売様と並んで、知恵の神・賢気朱巌命様もいるんすよね……。その加護を使ってちょこちょこっと知能強化していたので、頭を使う異能だった仙術が、もう覚えやすい上に、会得しやすいのなんのって……。


 三年で山浮かせて、湖を新しく作った俺。そんな俺を見たときの師匠の、度肝を抜かれた顔が未だに脳裏で思い出されるっす……。


 というわけで、割とあっさり修行自体は終わったんすけど、意外と仙術の奥が深かったので、遣瑞使の滞在期間が10年だということもあり、四年ほど他の仙人たちと一緒に仙術の鍛錬を積んでいたんっすけど……。




…†…†…………†…†…




 たわわに実った、桃の実をつける並木道を通り過ぎ、


「師匠! 智耳豊隆ただいま到着しました」


「おぉ、豊隆……きよったか」


 俺が師匠の住む小屋みたいなおんぼろ家に到着したっす。すると、そこでは師匠が、なにやら弱り切った様子で、床に横たわっていたっす。


「わ、わしはもう長くない……。じゃからこそ、わしの弟子の中で随一の仙力をほこるおぬしに、た、頼みたいことが……」


「いや、不老不死の桃を栽培している人が何ぬかしてるんっすか。そういうおふざけは良いんでさっさと要件言ってくださいっす」


「なんじゃい。年寄りの暇つぶしに付き合うことくらいせんか」


 と、俺が冷静なツッコミを入れると、師匠こと天鐘老君は憮然とした顔でとこから起き上がり、胡坐をかいたっす。


 真っ白になった、長い髪とひげを持つ、《仙人ってどんな感じ?》と人に聞くと、十人中九人が描くだろう姿をした師匠は(ちなみに雑談っすけど、残り一人は多分千人の人間を書こうとして苦労していると思うっす)、矍鑠(かくしゃく)としているっすけど1000年の時を生きる大仙人で、数多いる仙人たちの中で唯一不老不死の桃の栽培に成功した人だといわれているっす。


 病気程度で死ぬわけがないし……。というか殺されたって死なない人っす。


 多分世界の終りまで生きてるんじゃないかなと……最近では思うようになった人っす。


 そんな師匠が頼みごととは……ただ事じゃないっすね。


「あぁ、豊隆よ。おぬしがこの山に入ってからもう何年たったかの?」


「丁度、今日で七年目っすね」


「なんじゃい。そのくらいしかおらんかったか?」


「千年単位で時間刻んでる人にとっちゃそうでしょうけど、結構な長期間っすよ?」


「ふぇ? そうかいの……。歳をとると時が遅く感じていかん」


 そのセリフは仙人だけの特権っすよね? と俺は思わず言いかけたっっすが、変に話を長引かせると、メンドクサイ昔話を師匠がはじめてしまうので黙っておくっす。


 そんな俺に一つ頷いたあと、師匠は言いました。


「では、そんなおぬしに最終試練を……」


「まつっす!!」


 なんすかその怪しい試練はっ!? 聞いたことないっすけど!? と、驚く俺に、師匠は髭を扱きながら平然と言ってのけたっす。


「実は下界にとんでもない妖狐が降り立ったらしくての……。もとはこの山で修業をしていた仙狐だったのじゃが、自分の力に酔いしれ道を誤りよった」


「いや、まつっすって言ったっすよ!? なんで受けることになってんっすか!?」


「そやつはどうやら今代の帝に取り入り、自らの欲望を満たすつもりのようじゃ。そのまま放っておけば、瑞の世は乱れ、人々は苦しみにあえぐことになるじゃろう。いくら俗世が嫌いなわしらとはいえ、仲間の不始末はさすがに放っておくことはできん!!」


「じゃぁ、他の仙人に討伐をお願いしたら万事解決っすね」


「待たんかい……。お願いじゃからおぬしがいってくれ……。他の奴らには頼めんのじゃ」


 俺が面倒なんで、ほかの仙人に妖狐討伐を押し付けようとしたら、なぜか師匠がこっちに食らいついてきたっす。


 これは……怪しい。


「師匠? 何隠してるんすか?」


 できるだけ怖くない声を出しながら、師匠にそう尋ねる俺。


 そんな俺から視線をそらしつつ、師匠はしばらくの間沈黙を守っていたっすけど、


「いや、だって……あんなボンキュボンのねーちゃんに化けられたら、そりゃ仙術くらい教えてやらんと、と思ってしまうじゃないかのう?」


「てめぇ、色香に惑わされて、その妖狐弟子にしたっすねっ!?」


「ちょうどおぬしが免許皆伝になった年ぐらいじゃった。そりゃぁもう色っぽいねーちゃんがわしの小屋を訪れて」


「だまるっす!! この仙人の風上にも置けない俗物がっ!!」


「か――――!! なんじゃなんじゃ!! わし千年単位で女っ気ない生活送ってきたんじゃぞ!? 多少綺麗なねーちゃんに鼻の下伸ばしたって悪くは無かろう!!」


「そのせいでこんな騒ぎになってるんっすけどねッ!?」


 そんな風に言い争いをしながらも、聞いてしまった以上放っておくわけにはいかなくなった俺。


 仕方ないっす。瑞とは、これからも末長い友好を続けたいというのが征歩神皇の御達し。ここで変な妖怪狐に瑞をつぶされたら、その方針も全部おじゃんっすから。


「はぁ……。まぁどっちにしろ、もうそろそろ都に帰る予定でしたから、いいっすよ。引き受けるっす。その妖狐退治」


「おぉ、引き受けてくれるか! それはよかった!! そうじゃ、選別にわしのとっておきの宝具を、おぬしに与えようかのっ!!」


 そう言ってほっとした顔で奥に引っ込み、何かを探し出す師匠にため息を漏らしながら、俺は、都で俺の帰りを待ってくれている、あの人の顔を思い出すっす。


「あぁ、ようやく再会できるっすね……望戸さん」


 逞しくなった俺を見て、あの人はいったいどんな顔をしてくれるだろうか?


 俺がそんなことを考えていると、


「あぁ、あったあった。始皇帝の賢者の石を再現しようとして失敗した、《全知盤(ぜんちばん)》じゃ。これは真実を映し出す《盤》でな。これに聞けば妖狐が誰に化けておるのかすぐにわかる優れモノじゃぞ? って、なんじゃ豊隆。変な顔して……。あぁ、ついでにもう一つ餞別じゃ。今惚れとる女がおるならそいつはやめておけ」


「って、いきなりなんっすか!?」


「なんかおぬしの顔にすごい女難の相が出とったぞ? その惚れとる女、恐らくお前が思っているような人間ではないと見える」


「失礼なこと言わないでくださいっす!? あの人は国一番の巫女として、清廉潔白を絵にかいたような方なんですからっ!!」


「いや、そやつのことは知らんが、おぬしが多大な勘違いをしとることだけは、なぜかわかるのう」


 な、なんてことを!! いくら師匠でも、望戸さんへの暴言は許さないっすよっ!!




…†…†…………†…†…




 私の名前は粕華菫(かすけのすみれ)。日ノ本より瑞に派遣された遣瑞使の一人だ。


 鳥人の血脈である、鴉獣人の私の背中には大きな黒い羽が生えている。


 それが、今私がいる場所……砂漠という環境では非常に邪魔だった。


「はぁ、人に尋ね、神に尋ね何とかここまで来たが……本当にあるのだろうか? さらに西の国より来訪した、真なる人の教えを操る神など……」


 一直線に仙人たちのもとへ向かった豊隆とは違い、私はすぐに神術以外の異能の力と言われても、思いつくことができなかった。


 仕方なく私は、足を使ってに瑞の人々に、そういった怪しげな力をふるうやつはいないかと聞いて回り、地道に異能を使う連中を尋ねたのだが、どいつもこいつも稚拙なインチキや、巧みな話術を使った詐欺師ばかり。


 いい加減うんざりしてきた私の耳に入ってきたのが、その神の話だったのだ。


 その神は、砂漠のはるか向こうにある、最果ての村ではやりつつある。


 なんか凄い、いいお話を聞かせてくれるらしい。


 信心すれば、死後は確実に天国へ行けるらしい。


 それどころか生きている間も、真なる教えにたどり着く補助をするため、神々が力を貸してくれるらしい。


 あまりにも荒唐無稽すぎる話だったが、豊隆と別れ、瑞をさまようだけだった三年間を過ごしてしまった私にとっては、もはやその話はすがるべき藁だった。


 まぁ、間違ったのだとしても構わない。またその詐欺師をつぶして、別の異能を探すだけ。


 いつものことだと嗤い流せばいいさと、私はほんの少し強がりながら砂漠を歩く。


 そして、


「っ!?」


 私は見つけた。


 砂漠の向こうで佇む、金色の光を放つ神を。


 私が彼を唖然として見つめていると、彼はふとした様子でこちらを振り向き、


『おや。あなたも私の話を聞きに来たのですか?』


 今まで私が見たことがないほどの純粋かつ穏やかな笑顔を浮かべて、わたしを迎え入れてくれた。


 その時私は悟ったのだ。


 あぁ……この方こそが、《(しん)》ならぬ《(しん)》なのだと……。


おそくなってすいません^^;

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[気になる点] ~最近になってようやく官吏に返り咲いた、春樺だ。 ~再び官吏に返り咲き、 前の文に返り咲きと使われていて繰り返しであることと、後の方は丸ごと削除しても前後の文の意味が通るため、無い方が…
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