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明石閑話・簒奪者の旅

「天剣の神の居場所を知りたい?」


「はい……」


 あの戦争から、数か月の月日が流れた。


 戦争で両親を失った狐獣人の少女――稲納をうちの集落に迎えてから、俺――賢者の石は再び教師として、彼女の指導をしていた。


 そんな平和なある日のこと、各地を転々として村々の復興を手伝っていた、龍神姫と虎武が俺たちの集落に顔を出したのは。


「お前の罪の償いは、各地集落の復興を支援することで決着をつけたはずだが?」


 それで納得させた以上、これ以上余計な手間は取りたくない。言外にそう告げた俺に対し、龍神姫はわずかに苦痛にゆがんだ顔で、首をふるった。


「それでは足りないんです……」


「なにが?」


「……罰が」


 そう言って苦痛に顔をゆがめた龍神姫は、滔々と話を始めた。


「この数か月、私の軍が滅ぼした集落の復興を手伝っていて思ったんです……。自分は本当にこれでいいのかって。自分は本当に、これで許されていいのかって……。だって、だって……あんなに一生懸命生きていた人たちを相手に、私はあんなひどいことをしたのに……たくさん人を殺したのに、たったあれだけの力仕事で許されるなんて、そんなこと……あっていいはずがないって」


 そうして、ぽろぽろ涙をこぼしながら震える龍神姫。


 いったい何があった? とよほど問いただしそうになったが、虎武の諦めきったような視線を受け、なんとなく俺は悟る。


 あれから彼女は、多くのことを学んだ。


 獣人の普段の営み。戦による被害。人の気持ち。そして、罪の意識。


 自分が楽しげに生きれば生きるほど、彼女は自分が殺した人間がいる、という事実にさいなまれた。


 獣人たちに許してもらう為、必死になればなるほど、それでも変わらない獣人たちの憎悪の視線に気づいた。


 彼女だってわかっていたのだ。自分が許されたのは、決して獣人たちが自分自身を許してくれたわけではなく、神の使いと認識されていた瑠訊たちが「彼女はまだ何も知らない子供だったんだ」と主張し、無知であったがゆえに罪を許してくれたから。


 獣人たちが、己が憤怒を抑え、龍神姫を殺しに走らないのは、その瑠訊たちの無罪宣告を信じ、一時的に矛を収めてくれただけということを。


 こんな関係はいずれ破たんする。旅をしたことで、龍神姫は自然とそのことを悟った。だから、彼女はその問題を、根本的にどうにかしたくて、彼女は自分自身で断罪の旅をすることに決めたんだろう。


 唯一彼女を裁ける存在である俺たちが、それをしない以上、自分より明確に上位である存在……誰もが彼らの沙汰を受け入れるであろう、天剣に加護を与えた、偉大な神々のもとを訪れることによって。


「はぁ……。大和」


「え?」


 突然名前を呼ばれ、ちょうど龍神姫が訪れていることを知り、ひょっこり顔を出した大和が固まる。


「お前が生かすと決めた女だ。だったら、お前が最後まで面倒を見ろ」


「え? うぇ? と、唐突になに!?」


 一度決めたことをうじうじ蒸し返しやがって。めんどくさいわ!! と、大和に事後処理を丸投げした俺を、稲納だけがじっとりとした視線で見つめていた。


 だが、そんな投げやりな態度になるのも許してほしかった。


 彼女は無知だったのだ。俺の故郷の日本の法律に照らし合わせれば、責任能力の決定的欠如が目立つほどに。


 だから俺は、瑠訊が許すと決めたときも止めなかったし、すべてを知っていてなお、龍神姫をあおった彼女の側近を許さなかった。


 これから学べば変わる可能性がある罪と、学び終わっているくせに犯してしまった罪は平等ではないと俺は考える。


 高々ガキが火に指を突っ込んだら危ないということを知らなかっただけで、それに目くじらを立てるような、大人気ないことはしたくなかった。


 だが、それでも自分自身で彼女が断罪を望むというのなら、俺は止める理由はない。


 勝手にしろと思っていた。


「せっかく救った命を、自分の罪悪感で落とすなんて……。バカな女だ」


 それで死んだ人間が生き返るわけではない……。彼らの怨念が晴れるわけではない。


 だったら、罪滅ぼしなんて、生きている獣人たちの生活を助けるぐらいでしか果たせないだろうが……。


 内心でそう吐き捨てながら、俺はこの旅で彼女が命を落とす予感を感じていた。




…†…†…………†…†…




「……熱い」


 なんだ、ここは……。僕――大和は思わずそうつぶやきながら、額を伝う大量の汗を、服で拭う。


 龍神姫の罪滅ぼしの旅に付き合うことになった僕は現在、龍神姫によって壊滅の憂き目にあった僕らと同じ、人間の神をしていた神――火山山頂に坐す猿神のもとを訪れていた。


 そこはもうすぐ冬に差し掛かるというのに、灼熱の大気に包まれた場所だった。


 あちこちから体に悪そうな悪臭を放つ煙が立ち上り、時々大地がはじけ、そこから赤い液体が流れ出てくる。


 到底人が住んでいい場所ではない。僕は内心でそう思いながら、淡々とその大地を上っていく龍神姫の背中を追った。


「も、もういいんじゃないですか? 龍神姫!? 父上があなたを許すと決めてから、天剣の神々もあなたの暴走を二度とさせないことを条件に、あなたを許すと約束してくださいました。いまさら彼らのもとを訪れるなんて、それこそ完璧に無意味じゃないですか」


「そんなことはない……」


 彼女の足元にあった石が、暑さに耐えきれなくなったのかはじけ飛ぶ。


 彼女の頬にそのはじけ飛んだ石の弾丸がかすめ、彼女の体に薄い傷を作った。


 それでも彼女は、痛みに苦痛の声をあげることなく、また一歩神が座す火山の山頂へと足を動かす。


「私が全部悪かったんだ……。私はもっと悪かったんだ……。瑠訊様に説得されたとはいえ、神々が完全に私を許すわけがない。この数年を私は無為に過ごしてきたわけじゃない……。それくらいの相手の気持ちは、悟れるようになっているんだ」


 いかないと……。病的な罪の意識にとらわれた瞳で、淡々とそう語る龍神姫に、僕は何も言えないまま口をつぐんでしまう。


 そして、そんな僕らの間に出来上がってしまった沈黙を見計らうかのように、


『ほう……。どうやら本当に学んできたようだ』


 はじけ飛んだ大地からあふれ出す溶岩の中から、一柱の鬼神が姿を現した。


『よくわかっている……。我々の怒りが、貴様ら人間が定めたナァナァの断罪を許すほど、甘くはないことを』


 三面六臂の猿神は、三つの顔に全く同じ凶悪な笑みを浮かべて言った。


『待ちわびたぞ、龍神姫。我が一体どれだけの月日、貴様の罪を償わせる日を待ち望んだことか』


 そして猿神は、真っ赤に灼熱した手をかざし、


『我の裁きを受け入れよ……。貴様が言うところの、神の裁きだ。貴様の美しさを私によこせ』


 突然の神の顕現に驚く僕たちをしり目に、龍神姫の顔に向かってその手を伸ばした。


 触れる。彼女の顔半分に、その灼熱の手を押し付けた。


 肉がやける音と、今度こそ上がった龍神姫の激痛に苦しむ悲鳴が、僕の鼓膜を射抜いた。




…†…†…………†…†…




 簒奪。それが、神々が与えた龍神姫への罰だった。


 彼らの子供を奪いつくし、彼らの平穏を奪い尽くした彼女に対し、原始に生まれた神々は、目には目を、歯には歯をの精神を実行した。


 悲鳴を上げのた打ち回る龍神姫をあざ笑いながら、火山を噴火させ僕らを追いたてた猿神から必死に逃れた僕たちは、神術で移動速度を加速させながら一路巨大な滝を目指した。


 彼女の感覚器官の半分を殺しつくし、顔の左半分はもはや焼けただれた肉しか残っていない彼女の傷を少しでもいやすため、僕は真水を求めたからだ。


 だが、僕が進んだ先が大滝の顕現である蛟のいる場所だと気付いた瞬間、僕はかの神々に自分の行先が誘導されたのを悟る。


 慌てる僕をしり目に、蛟は再び神の裁きを龍神姫に与えた。


『貴様から水の加護を奪おう……。今後貴様に与えられるであろう水の加護は、死ぬまでお前に与えられることはない。貴様は今後水を飲むことも、水で傷口を洗うことも許されない』


 そう言って姿を消した蛟の宣言通り、水は彼女の体に何も干渉を与えなくなった。


 飲まそうと彼女の口に入れても、傷口を洗おうと彼女の火傷に浴びせても、水は彼女の体をすり抜けてしまった。


 そのことに泣きそうになっている俺を見て、龍神姫は火傷の激痛に脂汗を流しながら立ち上がった。


「いいんです。これで……いいんです」


「い、いいわけあるかっ! いますぐ集落に帰って、賢者様に……賢者様に助けて」


「いいんです……。旅を、旅を続けないと」


 そう言って彼女はまた歩みを進める。僕はそれに泣きそうな顔になりながら、ついていくことしかできなかった。




…†…†…………†…†…




 それからも僕たちの旅路は続いた。


 それは、神々から龍神姫が奪われ続ける日々だった。


 吹雪の巨象は言った。


『朕に恨みはないけど、でも天剣の神々の間で決まったことだから……。ごめんね?』


 そう言って彼は、自らの牙をふるい、龍神姫から暖かさを奪った。


 森の大樹は言った。


『よくもぬけぬけと顔を出せたものだ……。我が恨みの裁きを受けたいというのなら好都合……貴様はじわじわと死んで生け』


 神の祟りを吐きながら、その神は龍神姫の体から再生能力を奪った。


 大気の鳳は言った。


『わしの天空を死臭で汚しおって……。貴様二度と空には来るな』


 龍神姫の飛翔・跳躍の権限を、その神は奪った。


 大海の鯨は言った。


『ワタクシの領土から、あなたのような恥知らずが生まれたことが残念でなりません……。ゆえに、あなたの昔の姿が基礎となっている、あなたの本性を奪います。二度と龍になることはまかりなりません』


 龍神姫の本当の姿が奪われ、彼女は痩せ衰えた人間の姿でしかいられなくなった。


 俺は旅の間に気付いた。


 神々の裁きの内容は確かに簒奪だ。だが、本当の到達点はそうではない。


 神々は彼女を殺す気なのだ。ありとあらゆるものを奪い取り、じわじわと彼女を殺す気なのだ。


 この旅の終点に、彼女の生存の可能性はない。


 そのことに気付いた僕が、彼女を殴りつけてでも旅を止めさせようと画策していた時だった。


『待ちわびたぞ……』


 その計画を実行する前に、僕らは憤怒の表情を浮かべる、稲穂を纏った神孤のもとに、たどり着いてしまった。


『私が奪うものはたった一つだ』


 神孤はそう言って立ち上がる。


『貴様の最愛だ』


 瞬間、神孤の大きな口が僕の体を食んでいた。


 無数の牙に体を貫かれ、愕然とする僕の視線の先では、昔の美しさなど見る影もない、憔悴しきった龍神姫が、固まっているのが見えた。


「あ、あぁあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 悲鳴とも、慟哭ともとれる龍神姫の絶叫を聞きながら、僕の意識は闇に落ちた。




…†…†…………†…†…




「まったく、ひどいことしますね……。あの神孤も後先を考えない……大切な一人息子である大和にこんなことをすれば、私たちと戦争になる可能性もあると気付いていたでしょうに」


 一年がかりで各地を回り、神々の裁きを受けてきた龍神姫を迎え入れた私――岩神は、血まみれになって意識を失っている大和と、ほとんどのものを奪われてしまい、憔悴しきっているはずの体を酷使し、彼をここまで運んでくれた龍神姫を迎え入れた。


 大和は致命傷だ。通常なら助かる術など存在しない。


 だが、これが神の裁きであることが功を奏した。


 あの稲穂の神孤は、いやらしいことに、あることをすると、大和の傷が癒えるように神術を施していたのだ。


 そのあることを告げねばならない私は、この後、この事実を教えたことを大和に恨まれるであろうことに、どっと疲労を感じながら、


「彼はもう私の権能をもってしても治せません。致命傷です」


「っ!!」


 口を開く。


 私にとっては大和の方が龍神姫より大事だった。長年ともに暮らしてきた瑠訊と、私たちが生み出した夜海の子なのだ。


 どこの馬の骨とも知れないウミヘビのためにその命を捧げてやるつもりなど、毛頭なかった。


「ですが、一つだけ、大和を救う方法があります」


「な、なんでも……なんでも言ってくださいっ!!」


 悲鳴のように、懇願のように、私に縋り付いてくる龍神姫に、私は口を開き彼女から奪う。


 彼女から……生きるという選択肢を、奪う。


「あなたの血です」


「!!」


「大和が失った血液量を補うほどの血を、大和に捧げなさい」


 龍神姫はその提案という名の命令に、しばらく目を見開いたあと、


「それで、大和が助かるのなら……」


 儚い笑顔を最後に浮かべて、自らの喉をその鋭い爪でかき切った。




…†…†…………†…†…




 わたし――龍神姫は真っ暗な世界で目を覚ました。


「ここは……」


 私は死んだはずじゃ……。と、私は首をかしげる。


 なぜか神々にあらゆるものを簒奪され、倦怠感と激痛しか感じなくなっていた体に、それらが一切感じられない。


 治るはずのない神の呪いが、今の私には感じることができなかった。


 いったい何が起こったの? と、首をかしげる私に向かって、一つの声が飛んできた。


「あら? お客様? 《餓鬼》以外でここに訪問者が来るなんて、珍しい」


「っ!?」


 私がその声の方を振り向くと、そこには私と同じように、わずかな鱗がついた肌が見える、綺麗な女の人が座っていた。


「あ、あなたは……?」


「ごめんなさい。ここでは名乗ることはできないの……。そういう世界になっているみたい。何を考えて、あの子がここをそんな風に作り変えたのかは知らないけど……。まぁ、まともにしゃべれる人の方が少ないから、名乗りができなくても困ることが少ないというのは事実だし、事実今までは困らなかったから放置していたんだけど……」


 あなたはちょっと困っているみたいね。と、その女の人は苦笑をうかべた。


 そして、


「ねぇ、あなた」


「は、はい?」


「久しぶりに私の御話し相手になってくれないかしら? なんでも言ってくれて構わないのよ? あなたが生きてきた道と、あなたがどうしてここにきてしまったのか、聞かせて」


 どういうわけか私は、その願いをすんなりと受け入れ、


「わ、私は……恥ずかしい人生を送ってきました」


 素直に、口を開いていた。




…†…†…………†…†…




 その女の人は、穏やかな笑みを浮かべながら、黙って私の話を聞いてくれていた。


 獣人たちのように私を責めることも、大和たちのように笑って「気にするな」というわけでもなく、ただ黙って聞いてくれていた。


 私は何となくそれによって落ち着くことができた。


 その時には私はもうここがどこなのか気づいていた。


 ここは死んだ魂が落ちてくる場所。死んだ人々が集まる場所。


 黄泉だ。多分この女の人は、大和が言っていた黄泉の女神様か何かなんだろう。


「私……本当に馬鹿なことしかしてこなかった」


「そう? 最後の贖罪の旅は、普通の人ならなかなかできない……立派なことだと思うけど?」


 違うんです……。違うんです……!! 私は心の中で必死に否定の言葉を並べながら、冷静になってしまったがゆえに見えてしまった、自分の浅ましさに気付いた。


 結局私は、反省なんてしてなくて、贖罪なんか求めていなくて……ただ、ただ……!!


「大和の隣にいて……いいよって。誰からも言ってもらえるような……そんな、そんな権利がほしかっただけだった!!」


「……………………………………」


 私は大和が好きだった。あの時、私が殺されるべきだとだれもが願っていたあの場で、大和は私に生きていいよと言ってくれた。


 こんなバカな私を、瑠訊さんに逆らってでも助けてくれた。それが私には、どうしようもなくうれしかった。


 だから、そんな彼の隣にいたくて……でも、英雄の後継である大和の隣に、罪人である私がいることをすべての人が許してくれなくて……。


 だから私は求めてしまった。誰もがグウの音も出ずに、私はもう罪人ではないと認めてくれる……そんな証を。


 でも、神様はそれを全部知っていた。


「だから、私は死んじゃった……。神様は私が全然反省してないことなんか御見通しで、私がただの薄汚い蛇だってことを知っていて……。だから、私なんか全然許してくれなくてっ!!」


 恥ずかしい!! 恥ずかしいっ!! 心と同じ悲鳴を上げ続けた私は、泣きながら黄泉の女神さまに縋り付いた。


 こんな、自分が大嫌いで、


 まだ大和への未練が捨てきれない自分が死ぬほど嫌いで、


 だから、私は死んでしまったんだと……泣き続けることしかできなかった。


 でも、黄泉の女神さまはそんな私を嗤わなかった。


「そうね……。きっとあなたのやったことは、とても不誠実なことだったのね。確かに、それはとても恥じるべき罪なんでしょう」


 優しく泣き崩れる私の頭を、なでてくれた。


「でも、好きな人のために頑張ったあなたの行いは、きっと恥じることじゃないと思うわ」


「っ!!」


 女神さまの優しい言葉に、息が詰まった。


「だれだって、好きな人のために命を懸けたいと思うものよ。そして、あなたの道は険しかったけど、あなたはきちんとそれをやり遂げたじゃない」


「で、でも……私、こんなに汚くて、こんなに卑怯で」


「それでも、あなたが大和に抱いた心は美しい」


 女神さまにそう言ってもらえて、私の涙は一瞬止まっていた。


 私の目元に残った涙を、女神さまはぬぐってくれる。


「それに、あなたは自分が卑怯で汚いことを認めることができたわ。ここにきてなお、まだ自分の罪が認められない魂が多い中、あなたは最後の最後で、ここにきて、ようやくそのことを自覚することができた」


 地上でもそれを認識している魂は少ない。と、女神さまは語った。


「黄泉の女神の名において告げます。あなたの魂はもう、綺麗な魂よ」


「っ――――!!」


 その言葉がどうしようもなくうれしくて……。


 記憶にない、母親に褒められたかのようにうれしくて、私は再び涙を流し、声をあげて情けなく泣いた。




…†…†…………†…†…




「さて、では、最後に刑期を終えた餓鬼に私からの沙汰を下します」


「え?」


 数分後、ようやく泣き止み落ち着いた私に、黄泉の女神さまは悪戯っぽい笑みを浮かべて、手元に小さな鏡を作り出した。


「当然でしょう? 黄泉で罪の穢れを払ったとはいえ、現世であなたの罪滅ぼしは終わっていない。賢者の石が言っていたはずよ? あなたが償いをしたいのならば、少しでも獣人のために働けと。私がこちらで許しても、現世であなたが許されたわけではないわ」


「で、でも私、死んで……」


「黄泉の女神に生き死にを語るなんて、不毛なことこの上ないわよ」


 女神さまはそう言って、私に鏡に映った景色を見せてくれた。


「っ!!」


 そこには、私の死体に縋り付いて泣いてくれている、大和がいてくれた。


「なにより……私の息子をこれ以上悲しませることを、私は許しません」


「えっ!!」


 その言葉にわたしが驚いた途端、女神さまは私の背中を押し、私の体はその力で一気に天へと昇って行った。


 遠ざかっていく女神さまの姿に、私は思わず問いかける、


「め、女神さま? あなたまさかっ!!」


 私の問いに女神さまは答えてくれない。


 ただ、女神さまが小さくなっていく中で、はっきりとわかる笑顔を浮かべて一言、


「さぁ、生きなさい。私の骨を食べて、すべてが狂ってしまった娘よ。私の遺体が体内にある、あなたにだけ使える、裏ワザだけど……きっとうまくいくわよ。大丈夫、今度のあなたは、もっと上手に生きられるはずよ?」


 それが、女神さまが私に与えてくれた、最後の言葉だった。




…†…†…………†…†…




 目が覚めた私の目の前には、泣きくれていた大和がいた。


「やま……と?」


「っ!!」


 私の声に驚いて顔を跳ね上げた大和は、私が目を開き、呼吸をしているのを確認した後、顔をくしゃくしゃにして泣き始めた。


「あぁ……よかった。よかった。母上……感謝します。感謝しますっ!!」


 泣きながら、私に縋り付きながら、何度も母親への感謝の言葉を告げる大和に、私は自分の予想が正しかったことを悟る。


 だからこそ、私はあの人の助言を無駄にしないために、


「大和……」


「なんだ……なんだよ……。このバカ女。勝手に死んで、心配かけてっ!!!」


「ごめん。ごめんなさい。最後に……。違う、最後のわがまま聞いてほしいの」


 もうあなたをこんなに悲しませたりなんかしないから……。私はそう誓いながら、自分の気持ちを大和に告げた。


「ずっと……助けてもらった時からずっと、あなたのことが好きだった。こんな、恥ずかしくて醜い私だけど……あなたの隣にいて、いいですか?」


 こっちに戻ってからはまた、神様の呪いが私の体をむしばんでいることに気付いていた。


 きっと私の体は痩せ衰えて、顔の半分は焼けただれたままだろう。


 文字通り、心も体も醜くなってしまった私。


 普通なら、誰も受け入れてくれないような化物のような見た目のはずだ。


 でも、


「卑怯だ。卑怯だよ、龍神姫……」


 大和は、違った。


「僕は、もし二度目があるなら……。今度はお前の手を離さないと、母上に誓ってしまったところだ……」


 そう言って笑って私の手を取ってくれた大和に、私はまた泣いてしまった。


 この旅は、私のことをずいぶん泣き虫にしてしまったようだ。


 でも、今は……この涙が心地よかった。


というわけで、賛否両論ある前の話の補足話と相成りました。


 龍神姫におとがめなしというのがちょっと……。という方が必ず出るだろうと思っていたので、謝罪旅行を掘り下げる予定はありましたが、いざ書いてみると結構長くなってビックリ……。


 こ、これでも短くしたんだよ? 本当なら、八柱の神様めぐる際、全部細かい話をつける予定だったしね!?


 え、さすがにそれはない? 失礼しました……。

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