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[出会い]



 息を吸い込む事に身体が内から清められるような風が緩やかに吹き抜ける。


 朝露を微かに纏わせる、瑞々しく深い緑をその身に宿した葉を茂らせる木々が風を戯れざわつく。


 真上に上りきらない太陽の柔らかな日差し。


 一日で暑くなる前の活動しやすい時間を待っていた鳥や動物、虫たちの音楽を奏でるかのような鳴き声や気配。


 ───全てが心地よく気持ち良かった。この地に存在しているという事が、ふとした瞬間自や動物達を身近に感じ、心を穏やかになるささやかな幸せを感じる。


 この地が好きだ。いつもそう気付かされる。


 もし、この先何があろうとも、俺はこの地を守るためならば、自分をも投げ出す事も出来る。


 それほど……この地が愛しい。

 ──アイツと、同じ位に。





 プロローグ




 木々の隙間を縫うように、森の中を走る人影があった。


 朝の暖かな日差しを身体に受けながら、やや緩やかな傾斜になっているけもの道にもなんて事のないようにスイスイと軽い足取りで進んでいく。


 その人影は、この地域では珍しい明るい月夜の様な紫紺の髪に、スミレの花を連想させる深い紫色の瞳を持つ14、15歳少年だった。腰には使い慣らされた木製の剣が一振り下げられている。それはよく騎士見習いの者達が使う、一般的な修行用の物だ。


 だが、少年は騎士というには少し幼く見えた。


 繊細とも言える端正な顔立ちは、まだ幼さが残っていた。その肌もきめ細かな白さを持っており、成長し切っていない、どこか少女をも思わせる中性的な細見な身体。どちらかと言えば、少年は魔法士といったほうが良い様な程に華奢だった。


 しかし少年はその細い体のどこにそれほどの体力を秘めているのかと疑問に思うくらい、疲れた様子も見せず、息も切らさず、けもの道を進んで行く。


 迷う事なく真っ直ぐと伸びた後ろ姿は少年の歳よりも大人びて見えた。足もとが悪くても歩調は乱れることのなく、木製の剣を腰に差している姿は少年の幼い風貌を加えても違和感は感じられなかった。


 やがて坂道を抜けて、木々の開けた場所に出た。

知らぬ内に少年の頬がほんのり弛む。


 木製の剣を手に握り太陽の下に出ると、風霊の清い風が少年の脇を駆け抜けていく。まるで、親しい友達に悪戯を仕掛ける子どもの様に、少年の紫紺の髪をサラリと浚われた。


 ──この風が。特にここで感じる風が少年は一番好きだった。



 不意に、少年の耳に唄が聴こえてきた。


 それは……少年が理解することが出来ない、人外の言葉。だが、その意味は理解することが出来なくてもその唄がとても綺麗なモノだということは判る。


 ずっと聴き入ってしまいそうになった時、サラリと揺れる灰色の何かを見た。


 開けた場所の真ん中に一際でかい岩があり、その岩に此方からは隠れるように髪だけが覗いていた。日に透かすと銀に輝く綺麗な色合いで、肩につかない位の長さの髪が絹糸のように繊細に舞っていた。


 少年に気付いてはいないのか、その灰色の髪の頭は動く事は無い。その間も少年の耳を(クスグ)る優しい音色は辺りに響き続けていた。


 不意に、その音が止まる。知らず知らずの内にその音色の中に引き込まれていた少年は、ハッと下に俯いていた顔を上げた。


 そんな少年の目に一人の青年の姿が映る。驚いた事に、すぐ近くに立っていたので目を見開いた。


 太陽の日差しに照らされキラキラと輝く銀灰色の髪に、金色の優しい瞳。パッと見ても少年よりも逞しい男性の体をした青年は、スラリとバランスが取れていて立ち姿は優雅であった。


 思わず彼の姿に見入る。──なんて、綺麗なのだろう。こんなに綺麗な人は、今まで見たことなんて無い。


 まるで宝物を偶然見つけてしまったかの様に、少年は感慨に体を震わせる。


 そんな少年の嬉しい戸惑いに気付いているのか、いないのか。青年の金の瞳が、フワリと細められる。少し間を置いて、微笑まれた事に気づき、驚きのあまりたじろいだ。


「今日も来たんだな、期待の新人サン」

「え?」


 まるで少年とは知人であるかの様な親しげな言葉に、青年の心に染み込む声よりもその意味の解らない言葉に首を傾げた。


 すると、青年は先程とは性質の違った悪戯な笑みを浮かべた。


「未来のバファーレ王国軍、軍隊長アーノイル・レゼフトだな。俺はディ、ディートだ」


 ニッと笑う青年。驚きのあまり目を見開いている俺なんて気にすることなく、彼は俺に近づきバンッと肩を叩いた。



 ──それが、ディと俺……アーノイルの出会いだった。



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