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君を愛することはないと言われた、四日目

作者: 椎名正
掲載日:2026/10/30

 「これからも、君を愛することはない」

 新婚四日目の寝室で、シル伯爵令嬢は夫になった男に初日と同じ台詞を言われる。

 シル伯爵令嬢は答える。

 「それはあとにしてください。今は白いコードと黒いコード、どちらを切りますか?」




 寝室には爆弾が仕掛けられていた。

 「ここにいては危険です。爆弾が爆発したら、この部屋にいる人間は確実に死んでしまいます。すぐに退避してください」

 王国の治安を守る王国騎士団が、緊迫した様子で退避命令を出す。

 「しかし、君たちはどうするんだ?」

 「我々は爆弾の解体を試みます。それが仕事です」

 「しかし」

 妻であるシル伯爵令嬢が、夫に助言をする。

 「旦那様。私達がいても騎士団の皆様の邪魔になるだけです。避難しましょう」

 「そ、そうだな」

 退出する新婚夫婦。

 すぐに妻のシル伯爵令嬢だけがこっそりと戻ってくる。

 シル伯爵令嬢は、王国騎士団の元総隊長。

 のんびりとした口調で、五番隊隊長に確認する。

 「やっぱり、白いコードか黒いコードのどちらかを切るしか、爆弾を止める方法はないわけね」

 五番隊隊長も、さきほどの緊迫した様子はなく、ゆるい空気で答える。

 「はい。間違った方を切ると爆発します。セオリー通りならこの型式なら白いコードを切ればいいんですけど、ダミーぽくもあるんですよね」

 シル伯爵令嬢は少し考えた後に言った。

 「それじゃあ、どっちか適当な方を切っちゃいましょう」

 「そうですね」

 軽い調子で決定する二人に、部屋のすみで縛られていたメイド服の女が大声でつっこみを入れる。

 「待て待て待て!間違えたらドカンだから!ドカンしたら死んじゃうから!」

 メイド服の女は、爆弾を仕掛けた張本人。この屋敷のメイドではなく、メイド服を着て爆弾をしかけるために侵入していた。

 「なら、どっちのコードを切ればいいのか教えなさいよ」

 「素直に教えるわけないだろ」

 メイド服の女はふてぶてしく笑う。

 その様子を見て、シル伯爵令嬢は言った。

 「よし。とりあえず、白いコード切りましょう」

 「待てって!こういう時、駆け引きとかあるだろ。私を尋問したり、ちょっとした会話から爆弾解除のヒントを得ようとするとか。いきなり、コードを切るのは違うだろうが」

 「あなた、王国民でしょう。私と騎士団のことは良く知っているでしょう。私と五番隊隊長が、そんなめんどくさいことするわけないって、知っているでしょう」

 「ああっ、なんで五番隊に当たっちゃったのかな。おい、待て!その白いコードを切るな!白状する。黒いコードだ。黒いコードを切れば、爆弾は爆発しなくなる」

 メイド服の女の自白を聞いて、シル伯爵令嬢と五番隊は頷き合う。

 「これは白いコードね」

 「白いコードですね」

 「なんでそうなる?」

 「ミステリー小説を読んでいないの?爆弾犯は爆発を何よりも優先させるから、自分が爆発に巻き込まれようとこういう時は爆発させるように誘導するのが、お約束です」

 「それは爆弾好きの爆弾魔の話だろ。私は爆弾好きじゃない。私はあの方の命令で爆弾を運んだだけだ。あっ、いや、私は単独犯で」

 口を滑らして慌てるメイド服の女に、軽く手を振るシル伯爵令嬢。

 「あなたに指示を出したのが大臣なのはわかっているのから小芝居はいいわよ。古代兵器復活の鍵を握った私が王国の権力ゲームに不確定要素すぎるから、爆弾で排除しようとしたんでしょう」

 「なんで、そこまでわかっているんだ?い、いや、違うぞ。私は大臣に命令されていない」

 「あなた、大臣の隠し子でしょう。お城で大臣の従者として、私と会っているでしょう。なんで、メイド服着ただけで誤魔化せると思っているのよ」

 「何回かすれ違っただけなのに?」

 何事か思いついたシル伯爵令嬢が、爆弾を見ながら五番隊隊長に言った。

 「この爆弾、仮に爆発しても魔法防壁を発動すれば私達は無傷よね」

 「そうですね。まあ、このお屋敷は吹っ飛びますがね」

 「五番隊の会計で一部ごまかしたところがあったでしょう」

 「あれですよね。いつかは監査が入るだろうし、どうしようかなって思っているんですよ」

 「この爆弾が爆発した時、たまたまこの部屋に会計の書類を置いてあったので、消し飛んでしまったってのはどう?」

 五番隊隊長が厳しい顔になる。

 「治安を守るべき王国騎士団が、わざと爆弾を爆発させようなんて、恥ずべき行為です」

 顔を伏せるシル伯爵令嬢。

 「ごめんなさい。私の言ったことは忘れてちょうだい」

 と、小芝居をしたあとで、五番隊隊長が部屋から出ていく。

 「それじゃあ、会計書類を持ってきます」

 「いってらっしゃい」

 メイド服の女が縛られたまま怒鳴る。

 「ちょっと待て。おまえらの不始末を大臣に押しつけるのか?おい、こっちを向け。答えろ。鼻歌を歌って誤魔化すな」

 一時間後、五番隊隊長が帰ってくるが、一人ではなかった。

 「シル元総隊長。すみません。見つかってしまいました」

 ばつが悪そうにする五番隊隊長の首を掴んだまま現れたのは、この王国の王妃。

 「あなた方、何をしているのです。自分にとって不都合な物を、世間から隠蔽しようなんて。私は王妃としてではなくこの王国の一人の人間として、情けないです」

 王妃の強い口調に、顔を伏せるシル伯爵令嬢と五番隊隊長。

 そんな小芝居を続けながら、王妃は一束の古びた書類を差し出す。

 「これなんです?」

 「エル文章です」

 「おおっ。本当にあったんですね。これどれぐらいやばいんですか?」

 「書かれている内容が世間に知られたら、今の王族が全員ギロチンにされるぐらいよ」

 「えげつないですね」

 王妃は愚痴る。

 「まったくさ、あの親父、普通は次世代に遺恨が残らないように秘密を墓まで持っていくものでしょう。何、死に際に、やっかいなことを私に告白するのよ」

 「それじゃあ、一緒に吹き飛ばしておきますね」

 縛られているメイド服の女は叫ぶ。

 「待て!爆発させるのを確定させるな!」

 「安心しなさい。爆弾を仕掛けたのが大臣とはとりあえず隠しておきますよ」

 「とりあえず?」

 「やばくなったら、テロリストとして容赦なく大臣を縛り首にします」

 「待ってくれ。あの人は、いろいろ悪いことするけど、本当はやさしい人なんだ。私には、いつもやさしい声をかけてくれる」

 「わかりました。やさしく縛り首にしましょう」

 「待てって!」

 そこに新たな人物が現れる。

 「おやおや、王妃様とあろうお方が、こんなところでお散歩ですか?」

 嫌味の物言いで部屋に入ってきたのは、反主流派の代表。

 「何か都合の悪い物を処分するつもりですかな?」

 「あなたに答える必要はありません」

 「おー、怖い怖い。でも、王の兄である私に対してそんな態度は失礼ではないかな」

 「二十年前に弟に王座を取られた敗北者が」

 「なんだと?」

 世間で認識されている犬猿の仲のやり取りをしながら、反主流派代表の部下達が寝室に荷物を運んでくる。

 王妃がくだけた口調で聞く。

 「これ、なに?」

 反主流派の代表がやはりくだけた口調で答える。

 「ほら、君に頼まれて、反主流派にみられたらよくない物をいろいろ隠しただろう。このチャンスに一気に処分しようかなって」

 シル伯爵令嬢が口を挟む

 「こんなに多いと、この爆弾の威力じゃあ、ちょっと弱いですね」

 五番隊隊長が言う。

 「それじゃあ、私、もっと燃えるように、油を足しますね」

 縛られているメイド服の女が戸惑う。

 「あれ?なんで、そんなに仲良さげに」

 「世間じゃあ敵同士になっているけど、私達は仲間よ」

 「えっ?でも、反主流派の代表で・・・」

 「国に不満を持つ人間をひとまとめにして目が届くようにするために、信頼できる者を反対派代表に置く。国家運営の初歩よ」

 「そ、それじゃあ、大臣の計画の大部分が漏れているのか?」

 「あなたが裏工作で使っている駒。あれ、五番隊の潜入捜査員よ」

 「全部ばれてる!」

 パチン。

 「おおっ。おまえ何を!」

 油が撒き終わり、シル伯爵令嬢が無造作にコードの一方を切っていた。

 何も起こらない。

 正解の黒いコードが切られていた。

 安堵で脱力するメイド服の女。

 舌打ちする王妃。

 シル伯爵令嬢と五番隊隊長が顔を見合わせ、頷く。

 五番隊隊長が魔法防壁を発動させる。

 シル伯爵令嬢がわざとらしい声をあげた。

 「おおっと、手が滑った」


   おわり


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