不死の愚者たち
魑魅魍魎、妖怪変化。実在するモノに似て非なる何か。人の恐怖、創作心より生まれるモノ。
此れ等は多くの物語に於いて寿命と云う概念を持たず、永く生きるモノとして扱われる。
此れ拠り語るは其れに成ろうとした、そして成ってしまった、愚者の物語。
「里の外れに住んでる爺さんのこと、知ってる?」
「あぁ知ってるよ、夜な夜な気味の悪い格好でうろついてる…」
「あれ、妖怪になりたいんだってさ」
「はぁ?なんだそりゃ」
「でも、ここ1週間くらい見てないな」
「くたばったんじゃないか?あの爺さんも相当な歳だろ」
「死んだとしたら、妖怪になれたのかねぇ」
───。
「ゴホッ…ゴホッゴホッ…」
その老人は荒屋に臥せていた
「わたしは…死にたくない…」
熱にうなされ、呼吸すら苦になる
「死にたくない…」
──気がつくと老人は森の中にいた。
「ここは…?」
熱はなく、呼吸も苦しくない
「わたしは…死んだのか?」
人らしからぬ蒼白い手が目に入る
「うわっ…!?」
それは紛れもなく己の手であった
「もしや私は妖怪に…なれたのか…?」
月明かりに照らされた川面を覗き込む
はっきりとは見えないが、この世ならざる輪郭であることは見てとれた
「やった…やったぞ!」
自由に動く体が愛おしく感じる
走って跳んで、大声を上げて…
気づけば空が白み始めていた
「朝…ひとまず家に帰るか、やりたいことはたくさんあるんだ」
木を登ると、今いるところは家の裏手にある山だと分かった
──足音がした
「ん…?」
「ひいぃっ!」
村の若者であるようだ、棒を構えて恐る恐る近づいてくる
「ばあっっ!!」
「ひいぃぃぃっ!!!」
棒を投げ捨て一目散に去ってゆく
「あははははっ!」
若者が逃げた道を辿って降りてゆくと、見窄らしき我が家が見えてくる
こうしてみると我が家すら感慨深い
──簾を上げて中に入る
「ゴホッ…ゴホッゴホッ…ゴホッゴホッゴホッ…」
そこには──私がいた
「な、なんじゃお前っ…ゴホッゴホッ…」
「あ…あれ…私が…なんで」
「妖怪…妖怪じゃ…わたしを…妖怪にしてくれ…ゴホッゴホッ…うっ…げほっ」
血を吐き震える手で足首を掴まれる
人というには冷えた手の、確かな感触が伝わる
「違う…私は妖怪になったんじゃ…」
弱々しくも握りしめていた手の力が、震えが──ゆっくりと抜けてゆく
「私は…私は」
「じいさん、生きてるか…うわっ!」
「あ…?」
時折様子を見にくる青年が地面に尻をつく
「ば…ばけもの…はっ…じいさん!」
「そ…そうだ私は」
「どけっ!…じいさん…じいさん!…死んでる」
「あぁ…あああ」
ワタシは走った──途切れぬ叫びを上げながら──鹿よりはやく──ひとやま、ふたやまこえて──足を止めると、烏が鳴いた声と小川のせせらぎが聞こえる
「ワタシは…いったい」
倒れ込むようにして小川を覗くと─────
「…だれだ?」
不定期で投稿する短編シリーズです
人は妖怪を生み出せるけれど、人が妖怪になるわけではない、というお話でした




