8 魔法の練習
私はいつものようにパパの部屋を訪ねた。
「来たか」
「パパ、今日は……」
パパは立ち上がると、「今日は庭で授業をする」と言った。
「うんっ」
なんだろう。
いつもと違う雰囲気にワクワクしてくる。
マジックペンを使いこなせたし、次の段階ってことだよね。
それにしてもパパは歩くのが速い。
体も大きいし、足も長いから、追いつこうとするには、私が駆け足にならないといけない。
と、パパの歩調が緩むとようやく追いつけた。
パパがちらっと私を見ると、すぐにまた歩き出す。
でも今度はさっきとは違って、ゆっくり。
私が無理をしなくてもって気を遣ってくれたのかな。
私がとことことついていくと、庭に出た。
今日もいい天気で、気持ちがいい。
お庭の樹木や花が鮮やかだ。
パパは私と向き合った。
「今日は魔法を使う」
「うん!」
いよいよ実践ね。
私は興奮と緊張を感じながらもやる気はたっぷり。
「魔法はイメージだ。自分がどんな魔法を使いたいか想像することで、マナが反応し、使うことができる。たとえば頭の中で火をイメージすると……」
パパの右手の人差し指を立てると、そこに小さな火がともる。
その火は青い。
「他にもこうして……」
次にパパは同じ人差し指からシャワーのように水を出して花壇の花に水をやり、それからそよ風を起こし、草木を揺らして見せた。
「すごい!」
「どれもこれも下級魔法だ。練習すれば、簡単に使える」
「がんばる!」
気を失った時に出した火は、マッチくらいの火だったんだよね。
あれくらいで気を失っちゃったけど大丈夫かな。
……大丈夫だよね。
だからパパは今日はこうして実技の授業をすることにしてくれたんだから。
火をイメージする。
よーし!
「火よっ」
必要ないけど、それっぽく声を出してみると、掌の上に火がともる。
やった! 成功!
しかしすぐに火は萎むように消えてしまう。
「あ、あれ?」
もう一度。
「火よ!」
同じように火が付くけれど、維持できずすぐに消えてしまう。
どうして?
ちゃんとイメージができているはずなのに。
「落ち着け。イメージばかり膨らませてもダメだ。同時にマナを捉えるようにしなければ」
パパは私の後ろに回り込んで片膝をつけば、私の両方の手首にそっと手を重ねた。
「目を閉じろ」
「……うん」
「何が見える?」
「何も見えないよ。目を閉じてるんだよ?」
「マナが感じられるはずだ。まるで風のように色々な方向から漂ってくるマナの流れを」
「マナの流れ?」
「そうだ。それを自分の元に集めながら、イメージを膨らませる。そうすれば魔法を安定させられるはずだ。──少し、魔力を送り込むぞ」
その時、パパの手がじんわりと温かくなってくる。
あ、これ、パパの魔力だ。
まるで日だまりにいるみたいな優しい魔力。
そう言えば、ゲーム中でも主人公が攻略キャラたちの魔力をそれぞれ感じ取って、その人柄を知る場面があったっけ。
魔力に人柄が出るなんて、さすがは魔法のある世界。
「集中しろ」
「う、うんっ」
目を閉じた状態でパパの魔力を意識すれば、何も見えなかったはずの真っ暗な世界にじんわりと輝く帯が見えてくる。
「あっ!」
「見えたか?」
「……多分。これがマナ……? 白い帯みたい。きれーっ」
「そうだ。そしてそれを自分の元に引き寄せる。これもイメージだ」
「イメージ……マナを引き寄せる……」
パパに言われた通りにしてみると、マナがいきなり意思を持ったみたいに私の手元でくるくると回り始める。
「さ、もう一度、火を出してみろ」
「うん。火よっ」
私は目を開けて唱えれば、火が生まれた。
今度はすぐに消えたりはしない。
ずっと私の手の中で小さく赤い火が揺らめき続ける。
「パパ、見て! 見てっ!」
「見えている」
パパの手が私から離れる。
「今の感覚を忘れるな。今やったことがマナを使う、ということだ。マナは自然界のどこにでも存在する。そしてそのマナが尽きない限り、俺たちはいつでもどこでも魔法を使うことができる」
「うん! でも疲れちゃった」
火を消した途端、なんだか眠くなってきてしまった。
どうして?
「マナを捉え、魔力を使ったからな。体力を使う行為なんだ。それも何度も繰り返し魔法を使って慣れていけば、疲れなくなる」
「頑張るね」
「ああ」
ふぁ~と、大きなあくびがこぼれた。
「お嬢様」
「のぁ」
ずっと練習を見守ってくれていたノアが抱きしめてくれると、私は首に腕を回してしがみつく。
「公爵様、お嬢様をお部屋へお連れいたします」
「パパぁ、また後でね~」
「よく休め」
私はうとうとしながら、ノアの胸に顔を埋めた。
「のぁ、私、すっごくがんばったんだよぉ。魔法も少しだけど使えるようになったのぉ」
「そうですね。ずっと見ていました。お嬢様もきっと、公爵様と同じか、それ以上に素晴らしい魔法使いになられると思います」
「そうかなぁ」
「はいっ」
部屋に到着すると、ベッドに寝かされ、布団が胸元まで引き上げられる。
「おやすみなさい、お嬢様」
「……おやすみぃ~」
次の日から私は実戦訓練を続けると、パパの助けを借りなくてもマナを『見られる』ようになってきた。
そして自分ひとりでも魔法を持続させられた。
まだまだ初級魔法だけど、コツを掴むことができたんだ!
よしよし、これで将来の一人暮らしに向けての第一歩を踏み出せたってことだよね。
これからもがんばろう!
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