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破滅確定の悪役幼女に転生してしまったので、頑張って生き残ります!  作者: 魚谷


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7 秘密の店

店の棚という棚には所狭しと商品が置かれていた。


魔法と相性がいいと言われているラピスラズリやダイヤモンドなどの鉱物、魔導具を動かすのに必要な魔石、極彩色の鳥の羽に木彫りの人形、使い道の分からない様々な道具の数々。



「いらっしゃい」



部屋の奥にいた鼻眼鏡をかけた白髪のおじいさんが興味深そうに私を見てくる。



「なんだ、その子は?」


「私の娘だ」


「初めまして。ゼノン・ラムル・ネフィリムの娘の、オリヴィエ・レム・ネフィリムと申します」



カーテシーをする。


魔法と並行してこうして礼儀作法も学んでいる。


なかなかうまくできたんじゃないかな。



「ただの変人にそんな挨拶は必要ないぞ」


「ほう、偏屈が服を着ているようなゼノンの娘にしては礼儀正しいな。結構結構。──頼まれていた品、入荷しとるぞ」


「見せてくれ」



パパはおじいさんと熱心に話し込む。


その間、私はフュリオと一緒にお店の見学をする。


ここにある物が全部魔法に関する道具だなんて、すごい。


ゲーム本編にもたくさんの道具は出てきたけれど、それだってほんの一部に過ぎなかったのね。



「たくさんあるね」


「あ、いけませんよ」



私が試しに触れようとすると、フュリオが慌てて止める。



「不用意に触って何か起こると危ないですから」


「あ、そっか。気を付けないとね」



私ももっと魔法を学んでいけば、ここにある道具をパパみたいに自由自在に使いこなせるようになれるのかな。


なれたら素敵。



「あ、今度はなんだろ……きゃああっ!」



次の棚に目を向けたその時、目の前に飛び込んできたものに思いっきり悲鳴を上げ、フュリオに飛びついてしまう。



「どうしたっ」



パパが私の悲鳴を聞きつけ、駆けつけてくる。



「閣下、ご安心下さい。魔獣の剥製に驚かれただけです」


「おい、こんなもの、さっさと処分しろ」


「……無茶いわんでくれ。かなり貴重なものなんじゃぞ。頭の天辺から爪先まで貴重な道具の原料にできる」


「ご、ごめんなさい、フュリオ。私ったら……」



赤面しながらぼそぼそっと謝罪を口にする。



「魔獣は見慣れないとかなり怖いものですから、怖がることはおかしくありませんよ。ご安心下さい」


「もう行くぞ」


「買い物は終わったの」


「ああ」


「毎度どーも」



外に出ると、ほっとした。


まだちょっと体が震えている。



「失礼します、お嬢様」


「え?」



その時、フュリオに抱き上げられた。



「フュリオ!? ひ、一人で歩けるわ」


「ご無理はなさらず。それに、大通りは人混みがひどいですし、こうしたほうがいいかと思いまして」



正直、ありがたかった。



「そうだ、閣下。せっかくですから市場まで足を伸ばしませんか? お嬢様の気分転換も兼ね、て……」



フュリオの声がぎこちなく上擦り、人当たりの良さそうな笑顔が引き攣る。



「……」



なぜか分からないけど、パパの眉間に深いしわが寄ってるし、フュリオに向けられた視線がまるで殺し屋みたいに鋭い。


あのフュリオが小刻みに震えちゃってるし。


パパ、どうしちゃったの!?


魔法使いの娘なんだから剥製くらいで悲鳴を上げるなって思われちゃったかな。


どうしよう。何か言ったほうがいいはずなんだけど、ごめんなさい以外の言葉が思い浮かばない。


その時、パパが不意に両腕を私に向けて伸ばしてくる。


な、何?



「来い」


「へ?」



私の口から間の抜けた声が漏れた。


これってもしかして。


私が恐る恐るパパに抱きつけば、さっきまでびっくりするほど深かったはずの眉間のしわが綺麗になくなった。


フュリオに、嫉妬してたのね!


パパって意外に嫉妬深い?



「もう怖くないか?」


「うん、最強の魔法使いがすぐそばにいてくれるだもん!」


「……そうか」



パパ、まんざらでもない顔してる。


こんな表情、ゲーム中でも見たことない。


私を抱き上げたまま、パパは市場へ足を向ける。


魔法使いというイメージからは想像がつかないほどがたいのいい(180センチ)美形なパパ、そしてパパほどではないけれど十分すぎるほど立派な体格の(176センチ)美形騎士の組み合わせは、そこにいるだけでみんなの目を引きつける。


市場にはたくさんの食べ物の屋台が並んで、いい香りがそこかしこから漂っていた。



「何か欲しいものがあれば言え」


「え、えーっとぉ、あれ! フルーツジュース!」


「分かった。おい、それを一つくれ」



うん、美味しい。


こうして屋台で飲むジュースは、屋敷で飲むよりもずっと美味しく感じられるのは何でだろう。


前世、屋台の食べ歩きが趣味だったっていうのもあるのかな。



「パパも飲んでみて?」


「お前のだろう」


「半分こ」


「……分かった」



パパはストローに口をつけ、吸う。



「どう? 美味しい?」


「少し甘すぎないか?」


「それがいいんだよっ」


「そういうものか」


「うん。甘くなくなったらジュースじゃないしっ」


「虫歯にならないよう気を付けろ」


「ちゃんと毎日歯磨きしてるから大丈夫っ」



そんなやりとりをしつつ、市場を回る。


市場には大陸中から珍しい品物が集まっていた。


あ、綺麗なブローチ。



「欲しいのか?」


「ううん、ちょっと見てただけ」


「お前にはまだ早いな。それに、ブローチが欲しいならもっとちゃんとしたものを公爵家の工房で造らせる」


「本当!?」


「約束だ」



公爵家の工房で造るブローチって、どれだけ豪華なものなんだろう。


想像もつかない。


少し進んだ先にある広場では、大道芸人たちが見事な芸を披露している。


剣を飲み込んだり、火を噴いたり、大きな玉にまたがりながら剣のジャグリングを披露したり。



「パパ、見て。すごいねー!」


「私だって剣くらい飲み込めるし、火も噴いてやれる」



なんで対抗心!?



「もう、パパってば、面白い」


「? 冗談じゃないぞ」


「もー。ああいうのは見て楽しむものなんだから。ね?」


「そういうものか」


「大道芸、初めて見るの?」


「そうだな」


「子どもの頃にもないの?」


「ああ」


「そっか。一緒にパパと初めての時間を過ごせて嬉しいっ!」


「……私もだ」



パパはそう囁き、私の背中を撫でてくれた。





ゼノンが屋敷に戻る頃には、もう夜だ。


今日はほとんど雲がないせいか、月明かりでとても明るい。



「閣下、予定より時間をオーバーしてしまいましたね」



向かいに座るフュリオが言った。


なぜか笑顔で。


いつも時間厳守と小うるさいのだが。


と、フュリオの目が、ゼノンの膝に頭を乗せて眠っているオリヴィエに向く。



「幸せそうな寝顔ですね。子どもの寝顔は精霊のよう、と言いますが本当ですね」


「オリヴィエの寝顔が妖精のよう、だ」



ゼノンとしては事実を口にしただけだが、びっくりした顔をしたフュリオは「その通りですね」と締まりのない笑顔を浮かべた。


何なんだ、こいつは。



「またこうして出かけるのもいいでしょうね。今日のお嬢様はとても楽しそうにはしゃいでいらっしゃいましたから」


「……そうか?」


「はい」



オリヴィエと関わることを避け続けてきたせいで、これまでどれだけ寂しい思いをさせてしまったか分からない。


オリヴィエを抱き上げた時、その小ささと軽さに驚いてしまった。


こんなにも小さな子をずっと放置し続けてきたのか、と。


罪悪感にゼノンの胸がズキリと痛んだが、オリヴィエはそれ以上に辛かったはずだ。


これからはこれまでの分を取り返すほどに一緒にいたいし、慈しんでやりたい。


父親としての責務を遅ればせながら果たしたかった。


馬車が屋敷に到着する。


オリヴィエを起こさないようにそっと抱き上げて馬車を下り、屋敷に入る。


ノアをはじめとした出迎えに出てきた使用人たち全員が、唖然とした顔で見つめてくる。


使用人全員の目が、寝息を立てているオリヴィエに向いていた。



「公爵様、私がお部屋へ」


「いや、いい。私が連れて行く」



ノアの申し出を断り、ゼノンは階段を上がって二階へ。


南向きの角部屋のオリヴィエの部屋へ入ると、居間を抜け、その奥の寝室へ。


すでにベッドメイキングが済んでいる天蓋付きベッドに、壊れ物でも扱うように横たえた。


本当に妖精のような寝顔だ。


見ているだけで心が安らぎ、いつまでも見ていられる。


前髪を優しく撫でる。



「ぱ、ぱ……むぅ……ん……」


「……おやすみ、オリヴィエ。よき夢を見られるように」



魔力を軽くまとわせた右手の指先で、オリヴィエの額に小さな紋様を描き、魔除けの加護を与えた。


口元がかすかに緩むのを自覚しながら、ゼノンは部屋をそっと出た。


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