6 パパとの外出
魔法講義は毎日のように続いたけど、パパが私のレベルに合わせてくれたお陰で、理解しやすい。
分からないことが分かってくる。
それがすごく嬉しかった。
二の足を踏んでしまいそうな分厚い魔法学のテキストも少しずつだけど読み進めているし、予習復習も欠かさない。
前世も現世も勉強は苦手だったはずなのに、自分でも不思議。
マジックペンも無事に使いこなせた。
『もうできたのか?』
報告した時、パパはすごく驚いていた。
毎日が充実していて、とても楽しい。
「お嬢様、そろそろ休憩をされてはいかがですか?」
魔導書を読んでいる私にノアが声をかけてくる。
「んー、あともうちょっと……」
「ふふ、お嬢様はすっかり魔法に夢中ですね」
「うん! すごく楽しいからっ!」
その時、扉をノックする音が聞こえた。
ノアが出ると、「公爵様っ」と驚いたように声を上げた。
パパ!?
どうしたんだろう。もう講義は終わったはずなのに。
何か用事かな。
いつも用事がある時はフュリオを使いに寄越すんだけど。
「今から少し出かけてくる。何か欲しいものはあるか?」
「えっ」
こんなこと言われたのが初めてだったからびっくりした。
ノアも驚きを隠せないみたい。
「どこか遠くに行くの?」
「いいや、すぐそこだ」
わざわざ私の所に寄ってくれたんだ。
これが一般家庭だったら分かるけど、公爵家の当主が娘に言うこととしてはすごく違和感がある。
だって出入りの商人がいつでも欲しいものを用立ててくれるし。
その時、ひらめきがあった。
「パパ、一緒に行ってもいい?」
「面白いことなんてないぞ」
「だめ?」
「好きにしろ」
「やったっ」
こうして私がパパたちと出かけることになった。
パパとはじめてのお出かけだ。
パパ、私、護衛役のフュリオが一緒に馬車に乗り込む。
「公爵様、お嬢様、いってらっしゃいませ」
「ノア、いってきまーす!」
ノアたちに見送られて出発する。
ゴトゴトと石畳みを車輪が叩く小気味いい音が、好き。
天気もいいし、絶好のお出かけ日和。
近所だけどね。
「パパと一緒にお出かけするの、初めてだよね?」
「出かけるというほどじゃない。すぐ目と鼻の先だ」
「そうだけど、でも嬉しいなって」
「……そうか」
「ところでどこへ行くの?」
「道具屋だ。仕事で使う材料が切れたからな」
「この間、商人が来たのにもうなくなっちゃったの?」
「閣下はご自分でお使いになられる魔導具の材料に関しては、常にご自分で選ばれるんですよ」
フュリオが教えてくれる。
「そうなんだ!」
「お前もできるかぎり、そうしろ。他人が選んだものでは納得のいく結果が得られない可能性もあるからな」
「分かった!」
私は持参したバッグから取り出したノートにメモを取る。
「わざわざ手帳を持ち歩いているんですか。お嬢様は勤勉ですねえ」
「お前も真似をしたらどうだ? そうすれば多少、物忘れも改善されるだろう」
「うぐ。……はぃ、そうします」
フュリオは小さくうなだれた。
藪蛇だったみたいね。
二人のやりとりに思わず笑ってしまう。
「なにがおかしい?」
パパが不思議そうに、私の顔を覗き込んでくる。
「パパとフュリオのやりとり、面白いなって。いつもそうなの?」
「こいつはとぼけた奴だからな」
「我々はただの主従に留まらない関係ですから。閣下とどれだけ危険な場所を駆けてきたか。閣下は放っておくと、魔物の群れに単騎で突っ込んで行かれるから、目が離せないんです」
パパは当然のことだろうと言わんばかりの顔をしている。
さすがは最強の魔法使い。
そうこうしているうちに、馬車は大通りの一画で停まった。
「ここから少し歩くぞ」
私たちは馬車から降りる。
本当にたくさんの人や馬車でごった返している。
「何をしている。行くぞ」
きょろきょろしている私に、少し先を歩いていたパパが振り返って呼びかけてくる。
「うんっ」
私は少し駆け足でパパに追いつく。
「走るな」
「あ、ごめんなさい。はしたなかった?」
「違う。転ぶだろう」
「気を付けるね。えへへ~」
パパが心配してくれるとそれだけで嬉しい。
それにしても、てっきり表通りの大きなお店に行くものだとばっかり思っていたけど、人気のない路地に入っちゃうの? 隠れ家的なお店なのかな。
「怖がらなくても大丈夫ですよ。変な場所ではありませんから」
後ろにいたフュリオが私の心を読んだみたいに声をかけてくれる。
しばらく進むと行き止まりにぶつかってしまう。
「道、間違えたの?」
「いや、ここで合っている」
パパは薄汚れた壁をノックするように、手の甲で軽く叩く。
と、空間がまるで水面に小石を落としたみたいに揺らぐ。
「えっ!」
灰色のただの壁だと思っていたところに現れたのは、木製の扉。
扉の少し上には『魔法道具屋 鹿の目』という看板がかかっている。
「偽装魔法!」
つい先日、勉強したばかりの魔法だ。
ゲーム本編でも出てくる。
周囲の風景に人や物、アジトを隠したりと用途は様々。
偽装魔法を見抜けるかどうかで、魔法使いの実力が分かるとも言われているくらい。
「この店の主人は偏屈で変人だからな。偽装を見抜けるような人間でなければ相手にしないと言ってはばからないんだ。面倒な性格だが、目利きだ」
パパが扉を押し開けると、蝶番が軋みながら開く。
目の前に広がる光景に「ふぁぁぁぁ~!」と思わず声を上げてしまう。
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