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破滅確定の悪役幼女に転生してしまったので、頑張って生き残ります!  作者: 魚谷


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27 自分のために

目を開けると、あの丘だった。

夕暮れ時で、西の空が赤く染まっている。

病気に冒された木は昼間以上に生気が欠けて見えた。

ひとまず、村の人たちが私との約束を守ってくれたことに安堵する。

やっぱり村の人たちも本心では木を切り倒したくないんだ。

パパは私を地面に下ろすと、木に触れる。



「どう?」

「命の火は燃え尽きてはいない」

「本当!?」

「だが、尽きかけている」

「病気が治せれば……」

「治せない」

「え……。国一番の魔法使いなのに!?」

「前に話したな。魔法使いは万能ではない、と。魔法使いにはできないことが山ほどあるんだ。病を治す方法はない」

「でも何かできるはずじゃない? ──そうだ! 魔力を与えて、木の生命力を助けるのは?」

「それをずっとやり続けるのか? 毎日ここに通って? それでも病は確実にこの木を蝕んでいくだろう。そのタイミングで、もしこの村を嵐が襲えば、この状態だ。ひとたまりもない。村人たちが一番、心配するような事態になってしまう」

「それは……」

「お前のせいじゃない。そうやって魔法使いは自分の無力さを知る」



パパは私を抱きあげると、再び私たちを光が包み込んだ。

気付くと、私たちはパパの執務室に戻ってきていた。

パパは私を床に下ろす。



「パパ、今日はありがとう」

「あの木が枯れるのは自然の摂理で、お前のせいじゃない。もう忘れて、ゆっくり休め」

「……うん」



私は部屋を出る。

魔法使いは万能じゃない。それはパパから最初に教えてもらったこと。

治す方法があるなら、きっとパパは何とかしてくれたはず。

ゲームのことを振り返ってみても、そんなことができる魔法の記憶はなかった。

だからきっと、どうにもならないことなんだと思う。

でも、まだ時間はある。

村の人たちは週末まで待ってくれる。

魔法使いが何とかしてくれると期待してくれているはず。

殿下だって。

諦めたくない。

私は図書室へ向かった。





ゼノンの執務室。

光の低級魔法のライトで手元を照らしながら、ゼノンは魔術塔からもたらされた報告書に目を通していた。

いつかオリヴィエが手を貸したヒューゴ・ロイ・パンワールという魔法使いが、また面白い発明をしたらしい。

オリヴィエは才能があると言っていたが、当時の誰も信じてはいなかった。

だが、オリヴィエの言葉は正しかった。



(俺より人を見る目があるのかもな)



「──公爵様、お嬢様のことですが」



同席していたフュリオが口を開く。



「どうした?」

「ノアの報告ですと、ここ何日か、図書室に籠もりきりのようです」

「放っておけ」

「もしお嬢様の成長を促すために、木が治せないと言われたのなら……」

「そんな回りくどいことをするわけがない。治せるものなら治している。……魔法使いであれば、誰しも経験することだ。あの子はそれを他の魔法使いよりも少し早く経験しただけだ」



フュリオはかすかに表情を曇らせたまま「分かりました」と頷き、決済済みの書類を手に部屋を出ていった。

一人になったゼノンはペンを止めると、ライトを消す。

部屋が暗くなり、窓から差し込む柔らかな月明かりが、ひっそりとした部屋を照らし出していた。





光魔法で手元を照らしながら、私は本をめくる。

公爵家の図書室に入りびたっていた私は書見台に何冊もの本をおいて、目を通し続けた。

どんなささいな手がかりでもいいから欲しかった。

パパにできないことが私にできるはずがない。

そう理解しながらも、行動せずにはいられなかった。

そこへノアが現れた。



「お嬢様。もうお休みになられる時間です」

「え? もう?」

「はい。お部屋へお戻り下さい」

「……あともう少しだけ。あと、一時間……ううん、三十分、十分でいいからっ」

「お嬢様、殿下のためを思って頑張るのは分かりますが、あまり根を詰めすぎては倒れてしまいます」

「うん、分かってる」

「……では、三十分後にまたお声がけをいたしますね。その時はもうお部屋に」

「ありがとうっ」



ここ数日ずっと図書室に籠もりながら私は魔法の本をめくり続けていた。

殿下のため。村の人のため。

そう思う気持ちがあるのは本当だ。

でもそれだけじゃないことも、私は気付いていた。

ここまで意地になるのはきっと、私自身のためでもあるからだ。

何か大きなことをなせれば、誰かの心に私という存在が残るかもしれない。

本物の公女が現れて、私がいなくなった後も、誰かの心に残りたい。

前世を自覚した時にはこんな気持ちにはならなかったのに。

たくさんの人と関わって、時間を共有して、後腐れなくみんなの前から姿を消すという決意が鈍ってしまったのかもしれない。

それでもいずれその時はやってくる。

もし大きなことをなせば、殿下の心に残り、子どもの頃に話したあのオリヴィエという魔法使いは凄かったと時々思い出してくれるかもしれない。

パパだって、もしかしたら……。

だからきっとここまで頑張れるのだと思う。

私は別の魔導書を開く。と、ある項目で目が留まった。



「……これ」



それは私の求める魔法ではない。なかったけれど、閃くものがあった。



「よしっ」



私は自分のアイデアを形にできるかどうか、調べ直す。

そしてとうとう村の人たちとの約束の日を迎えた。


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