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破滅確定の悪役幼女に転生してしまったので、頑張って生き残ります!  作者: 魚谷


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23 千年樹

ヨルンの八本の足が力強く動き、まるで流星のように夜空を駆けていく。


王都があっという間に遠ざかり、王国を飛び出す。


向かうのは西の果て。


険しい山をいくつも越えたその先に、魔力を帯びた雲がたれこめる。



「ヨルン、できるかぎり地面すれすれを走って。高度を高くすると、雷に打たれちゃうから」


「な、なんだよそれ。ていうか、なんでそんなこと知ってるんだよ」


「えーっと……秘密!」


「はあ?」


「女の子にはたくさんの秘密があるの。秘密があるだけ魅力的になるって本に書いてあったの。だから、秘密!」


「なんだそれ……」


「いいからお願いねっ」



ヨルンは雷が苦手らしく、ドーンという音と一緒に落雷が空を引き裂くたび、「ひいん!」と涙目になる。



「ヨルンなら、絶対抜けられるから頑張って!」



ヨルンの首筋を撫でながら励ます。


ヨルンはビクビクしながらも八本の足を懸命に動かし、雲を抜けた。



『雷鳴轟く雲海を抜けたその先、私たちが見たのは、目に染みるほどに鮮やかな青空と、天を衝かんばかりの美しい大樹。神々しさをたたえた大樹に、私はこみあげるものを覚えた。あれが王国を救う、伝説の千年樹──』



主人公が初めて千年樹を目の当たりにした時のテキストが頭を過ぎった。


青空と夜空の違いはあるけれど、確かに感動するほど美しい。



「でけー木。あれが千年樹か?」


「そう。あれの木の実が必要なのっ」



ヨルンは千年樹へ近づいた。


黄金の色をしたリンゴに似た木の実をもぎとった次の瞬間。


ギャアアアアアアア!


激しいわめき声が響き渡った。



「な、何だっ」


「逃げて!」



木の頂きから大きな影が接近してきた。


尾が蛇の巨大な鳥、グリフォン。


千年樹を縄張りにしている魔獣だ。


ヨルンは八本の足を大きく動かし離脱しようとするが、グリフォンはしつこく追ってくる。


グリフォンは、ヨルンの何倍も大きい。


あの鋭い鉤爪に襲われたらひとたまりもない。


ゲーム中では主人公の魔力によって消滅させられるけれど、今の私にはそんな真似はできない。


でも太刀打ちが全くできないわけじゃない。



「ヨルン、高度を高くして雲に入ってっ」


「雷に打たれるんじゃないのかっ!?」


「詳しくは後。お願いっ」


「信じてるからな!」



ヨルンは雲に突入する。その後にグリフォンが続く。



「一気に下降して!」



ヨルンは頭を下に、矢のような速度で急降下する。


振り落とされまいと、ヨルンにしがみつく。


当然グリフォンもそれに続こうとするが、大きすぎる図体のせいで、すぐには反応できない。


それがこの空間では致命的。


稲妻がグリフォンめがけて落ちたのだ。


ギャアアアアアアアア……!?


悲鳴を上げ、黒焦げになったグリフォンが真っ逆さまに落ちていく。



「「やった!」」



私とヨルンは同時に歓声を上げ、一路、王都へ向かった。





王都へ到着した私たちは屋敷に戻ると、千年樹の果実といくつかの薬草を混ぜ合わせて特製の回復薬を作り、ヨルンと共に王宮へ向かう。


外から王妃様の寝室を窺うと、うっすらと蝋燭が灯っているだけで人の気配はなかった。


もうすぐ夜が明ける。


急がなきゃ。


バルコニーに降り立った私はヨルンを紋様の中に戻すと、解錠の魔法で扉を開けて部屋に入る。


次の瞬間、ベッドの死角になった場所に跪いていた少年と目が合った。



「お前……」



私は沈黙の魔法を慌ててかける。



「むぐぐ!?」


少年は口をぱくぱくさせる。


その表情から突然話せなくなったことに慌てているのが分かった。


さらさらの短い黒髪にアメジスト色の瞳。


彼が攻略キャラの一人、王太子クレスト・オヴ・シュタインヴェーク(七歳)であることは明らか。



「殿下。お願いです。叫ばないで下さい。怪しく見えるでしょうが、決して不審な者ではありません。私は……オリヴィエ・レム・ネフィリム。王妃様を治療するお薬を持ってまいりました」



慌てていたクレストの動きがぴたりと止まった。



「あの……さ、騒ぎませんか? 約束して頂けるのなら魔法を解きます」



クレストはこくりと頷く。


信じるしかない。


魔法を解く。



「今のは本当か。ネフィリムと言うと、公爵の縁者か」


「娘です。殿下が魔法を信用なさっていないことは分かっています。ですが、これを飲ませれば回復いたします」


「……それを信用しろと? 勝手に部屋に侵入してきた者を?」


「外には教団の兵士がいますよね。彼らに邪魔されたくなかったもので」


「君の言っていることが本当だという証拠は?」


「効果をお見せします。王妃様の体に触れることを許していただけますか?」


「下手なことをしたら、すぐ声を出すぞ」


「ありがとうございます」



私はサイドテーブルにおかれていた布を取ると、取り出した特製ポーションの中身をその布に少し染みこませ、王妃様の体のあちこちにできた黒い染みを優しく拭った。


黒い染みがみるみる薄れていった。



「あっ」


「信用していただけましたか? 病気の源は王妃様の体の中に巣くっていますので、飲まなければ治療はできません」


「やってくれ」


「ありがとうございます。王妃様の頭を持ち上げるのを手伝ってもらえますか?」



殿下と一緒に意識のない王妃様の頭を持ち上げると、口元へポーションを持っていく。



「母上、もう治りますから」



クレストは今にも泣きそうな顔で王妃様に呼びかける。


私は王妃様に慎重な手つきで飲ませていく。



「これで大丈夫なはずです」



しばらく待っていると、体中に浮いた黒い染みがみるみる消えていく。


さらに、それまで痛みによって歪んでいた王妃様の顔から苦悶の色が薄らいでいった。



「母上……。オリヴィエ。君のお陰だ。すぐ皆に知らせよう」



私は慌てて殿下の袖を掴む。



「私が救ったということは、秘密にして欲しいんです」


「なぜだ。魔法が母上を救ったんだぞ」



そうなると宮廷の勢力図が大きく塗り替わってしまう。


あまりに原作とかけ離れてしまうと、その歪みがどういう形で世界に影響を与えるか分からない。


回り回って、思わぬ災いを引き起こす可能性だって否定できない。



「お願いします、殿下。あくまで教団と魔術塔が力を尽くした結果、王妃様を救ったという形にして下さい」



殿下は理解できないという顔をしていたけれど、私の懇願にしぶしぶ頷いた。



「……そこまで君が言うのなら」


「ありがとうございます。それでは私はこれでっ」



バルコニーに出ると、呼び出したヨルンに跨がり、王宮を後にした。





王妃様の治療が終わった数日後、パパが私の部屋にやってきた。



「──王太子殿下が、私たちを呼んでいる」


「へ……」

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