11 使い魔探し
パパの講義が終わり、部屋を出ようとすると呼び止められた。
「オリヴィエ、今から出かけるぞ」
「お買い物?」
「いや、今日は違う」
「それじゃどこに?」
「お前の魔力も少しずつだが増えているし、精度も高くなってきている。そろそろ使い魔を持ってもいい頃だろう。使い魔がいれば、妖精たちも迂闊には手を出せなくなる」
「本当!?」
「ああ」
使い魔はゲーム中で魔法使いの大切な仲間、パートナーとして描かれている。
ちなみにパパの使い魔は、SSS級の最強種ドラゴン。
さすが最強の魔法使い。
パパは十代の頃からドラゴンを手足のごとく従わせているのだから、どれほど規格外かが分かる。
私とパパは馬車に乗り込むと、フュリオが御者席に乗り込む。
これから向かうところは、普通の御者では危険な場所。
転移門を使い、王都から遙か遠方の西部──魔物が棲息する領域に向かった。
使い魔にできるのは魔物だけ。
ちなみにこの世界には魔物と魔獣という二つの似て非なる生き物が存在する。
魔物は知性と魔力を持つ存在。
一方、魔獣というのは凶暴な怪物。
人間に害をなしやすいのは、魔獣だ。
転移門の先には、青々とした草原が広がっていた。
一見しただけではのどかな場所だけど、ここは魔物や魔獣の住み処。
気を抜くと一瞬にして餌食になってしまう。
「あの森へ」
「かしこまりました」
森の入り口で馬車が停まると、私たちは外に出た。
「フュリオ、ここで待て」
「お嬢様、頑張って下さいね」
「任せて! すっごい魔物を使い魔にしてくるからっ!」
フュリオに手を振り、パパにだっこされて森の中へ。
木漏れ日が差し込んでいるお陰で、森の中は明るく、風も穏やか。
木の葉の緑が鮮やかで、思わず目を細めてしまうくらい居心地がいい。
すごく綺麗。
この森に危険な魔物や魔獣が住んでいるなんて思えない。
「このあたりでいいだろう」
ちょっとした広場に出ると、パパは私を抱いたまま倒木に腰かけた。
「ここで何するの?」
「魔物を呼ぶ」
「どうやって?」
「お前の魔力を拡散させ、魔法使いが使い魔を探していることを知らせる。お前の魔力に興味を持つ魔物がいれば寄ってくるはずだ」
「でも、私はまだそんなに魔力は強くないけど、きてくれるの?」
「魔物は強い魔力だから寄ってくるんじゃない。自分の魔力との相性で寄ってくるものだから、心配しなくていい」
「そうなんだ。良かった」
ほっと胸を撫で下ろす。
魔物がぜんぜん寄ってこなくて、何も使い魔にできませんでしたというのは避けたい。
だって将来、私が逃亡する時のパートナーになる訳だからね!
「右手をあげろ」
「こう?」
「よし」
パパは私の右手を優しく包み込むように握れば、何かを蒔くような仕草をする。
「もう下ろしていいぞ」
「今のでいいの?」
「後は待つだけだ」
しばらくすると、バサバサという羽音が頭上で聞こえた。
顔を上げると、木の枝に鳥の翼に猛禽類の足、顔と胴体は女性──ハーピーが降り立っていた。
「あらあら、可愛い魔法使いだこと。使い魔探し?」
「はい!」
ハーピーなら空も飛べるし、すごく便利そう。
「私が使い魔になったら、あなたは私に何をしてくれるの?」
まさかの質問に驚く。
これって、面接?
あなたは我が社にどのような貢献ができますか、みたいな……。
「あなたの綺麗な羽の繕いを毎日、してあげるわ!」
「うーん……。今回はご縁がなかったということで。あなたが素晴らしい使い魔と出会えることを祈っているわね」
ハーピーはあっさり飛び去ってしまう。
まさか今世でもお祈りをされちゃうとか……。
前世の就活の胃のキリキリが蘇ってきそう。
「こういうことはよくある。気持ちを切り替えていけ」
「パパがドラゴンを使い魔にした時も、今みたいな面接があったの?」
「面接? いいや」
「じゃあ、どうやってドラゴンを使い魔にしたの?」
「力でねじ伏せた」
「ねじ伏せたぁ!?」
「竜種は普通、使い魔にするようなものじゃないからな。使い魔にしようと思えば、力を示す以外の選択肢がない」
……やっぱり規格外。
それからも色々な魔物が訪ねてきてくれた。
ゴブリン、コカトリス、ケットシー……。
でも結局、どの魔物とも縁がなかった。
でもこれくらいでは、めげないわ。
前世、六十社以上からお祈りメールをもらったメンタルは伊達じゃないんだから!
太陽が中天にさしかかった頃、森の奥から何かがこっちに歩いてくるのが見えた。
きた!
私は背筋を伸ばし、表情をキリッとさせる。
次はどんな魔物が現れるのかな、とワクワクしながら待ち受ける。
あのシルエットは、馬?
もしかしてユニコーン?
処女にしかなつかないっていうから、ぴったりかも!
しかしそれはユニコーンではなかった。
日射しを浴びてきらきらと輝く白く美しい体にピンク色の目、燃えるような赤い鬣。そしてたくましい八本の足を持っていた。
ユニコーンではなかったけれど、その美しさに見とれてしまう。
「ほう」
パパが小さく感嘆の声を漏らした。
「すごい魔物なの?」
「スレイプニル。一日に千里を駆け、どれほど深い谷も峻険な山も自由自在に越えられる、S級の魔物だ。あんな希少種がくるとは、さすが私の娘だな」
「すっごい……」
これまでの魔物たちはC級、良くてB級であることを考えると、破格だ。
絶対に逃せない。
スレイプニルは二メートルほど手前で止まったかと思えば、ピンク色の瞳で、じぃっと私を見つめてくる。
緊張で胸がドキドキしてくる。
まずは好印象を持ってもらわなきゃね。
「はじめまして、スレイプニル。私はオリヴィエよ」
これまでの魔物たちはみんな、私の笑顔を気に入ってくれてたし、スレイプニルだってきっと。
「チビ」
は? いきなり失礼なんだけど!?
そっちだって仔馬くらいの大きさのくせに!
でもスマイル、スマイル。愛想は良く。
これも使い魔にするためよ、オリヴィエ。我慢よ。
私はどうにか笑顔を維持する。
「スレイプニル。あ、あの……」
「うるさいなぁ。用があるのはチビじゃないから」
あ?
「お前、最強の魔法使いだろ。お前の使い魔になってやるよ」
パパに何て口をきいているの!?
「スレイプニルよ。今日は娘の使い魔を選びにきたんだ。それに私にはすでに使い魔がいるんだ、生憎だが」
「ボクよりすごい奴?」
「ドラゴンだ」
「う」
スレイプニルはたじろぐ。
びびっちゃってる。
私はこらえきれず小さく吹き出してしまう。
スレイプニルがむっとしたように睨んできた。
「チビのくせに笑うなっ」
「チビじゃなくて、オリヴィエよ」
「知るか」
S級だかなんだか知らないけど、偉そうねっ!
私はパパの腕の中から飛び出すと、去ろうとするスレイプニルの行く手を阻んだ。
「邪魔だ、チビ。どけよ」
「私は、パパの娘よ。いつかはパパみたいなすごい魔法使いになるんだから! 数年後、私の使い魔になっておけばーって、泣いても知らないからっ!」
「チビのくせに偉そうなやつだな。……そんなにボクを使い魔にしたいのか?」
「したい……っていうか、するわ!」
「ふうん。……いいぜ、なってやっても」
「本当!?」
「ただし、日が落ちるまでにボクを捕まえられたらな。ちなみにチビのパパが少しでも手を出したら負けだから」
「私ひとりで十分よ」
「へえ、チビのくせにずいぶん自信が──」
「隙ありっ」
先手必勝で飛びかかってみたけど、あっさり避けられてしまう。
「チビなんかに捕まるか。へへーん!」
スレイプニルは駆けだしていく。
「オリヴィエ──」
「パパ、絶対絶対ぜーーーーったい、邪魔しないでねっ!」
しっかり釘を刺し、駆け出す。
絶対、捕まえるからっ!
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