錬金術師のリリアは頑張る〜仕事終わりはコーヒーと共に〜
「うまくいって、うまくいって」
内気な錬金術士の少女、リリアは、町の一角にある古びたアトリエでひっそりと暮らしていた。
錬金術に魅了されて今、こうしている。
陽の光が優しく差し込むアトリエには、世界各地から集められた色とりどりの鉱石。
乾燥させたハーブ、不思議な輝きを放つ液体など、様々な素材が所狭しと並べられている。
「よしっ」
リリアにとって、これらの素材はただの道具ではなく、それぞれが秘めた物語を持つ、大切な宝物だった。
幼い頃から素材の美しさ、そしてそれらが錬金術によって全く別の何かへと姿を変える不思議さに魅せられてきた。
特に好きだったのは、深緑色の光を宿す。
フォレストクリスタル。
それは、深い森の奥でのみ採れる希少な鉱石で、微かに息をするように脈打つその様子を見ていると、心が安らいだ。
(綺麗!採ってきた甲斐がある)
彼女の夢は、夢のような香油を作り出すことだった。
日々の生活の中で、人々が抱える小さな悩みや疲労を、そっと包み込むような、そんな優しい香りを生み出したかった。
内気なリリアにとって、言葉で気持ちを伝えることは苦手だったけれど。
錬金術を通してなら、自分の想いを形にできると信じていた。
アトリエは、リリアにとって何よりも大切な場所だった。
古木の床は磨き込まれ、使い込まれた錬金釜は温もりを帯びている。
壁には、彼女が集めたお気に入りの素材たちが小さなガラス瓶に入れられて飾られていた。
窓辺には、育てているハーブたちが光を浴び、優しい香りを漂わせている。
この温かい空間で、リリアは今日も一人夢に向かって研究を続けていた。
(はぁ、またアレやらなきゃ)
しかし、彼女の道のりは決して平坦ではなかった。
ため息が知らず知らずのうちに出る。
珍しい素材はなかなか手に入らず、調合は何度も失敗を繰り返す。
内気な性格ゆえに、他の錬金術士に意見を求めることも躊躇してしまう。
それでも、リリアは諦めなかった。
素材たちが持つ無限の可能性を信じ、今日もアトリエで、小さな希望の光を灯し続けている。
ある日、リリアは町の掲示板で、奇妙な依頼を見つけた。
心を失った人形に対する依頼。
腕利きの職人が作った美しい人形だったが。
持ち主の病が悪化して以来、まるで魂が抜けたように動かなくなってしまったという。
リリアはその依頼に、不思議な縁を感じた。
心を失った人形に温もりを与える。
彼女がずっと夢見てきたことと、どこか繋がっているように思えた。
内気な彼女は迷ったが、フォレストクリスタルの優しい光が、そっと背中を押してくれた気がした。
「私にできるかもしれない」
リリアは、意を決して依頼主の元を訪ねることにした。
内気な自分にとって、小さな一歩だが夢に向かって踏み出す大切な一歩となるのだった。
先ずは人形の把握と素材集めになる。
どこに行けばその素材があるのかは、手探りになろう。
なんとか、いろんなところに赴いたり。
恥ずかしいけれど色んな人に聞いたりした。
そうして集め終えた素材。
まだスタート地点にも立っていない。
そうとはわかっているけれどやはり集め終えた達成感くらいは、浸らせて欲しいところ。
自分的に今回は何人も話しかけられたという快挙を残せた。
いやまぁ、別に無理に話さなくても仕事はできるのだが。
などと、リリアは逃げ場を作る。
そうでもないとろくに外へ出ない。
出なくなると言った方が近いかな。
「ふう〜」
息を吐く。
「よし、錬金しなきゃ」
依頼をなんとか熟す。
それを目標にしてきた。
少しだけ落ち着いてきたので、釜をセットする。
「うまくいきますように」
祈る。
投入したらあとは調節して。
「で、できた?できたーっ。やった」
もくもくと出来上がった品を手に依頼主に渡す。
その人はかちりと真ん中の人形に嵌め込み、起動させた。
すると、ぱちりと目を開ける人形。
成功した。
リリアは内心安堵でいっぱいで、くたりとその場で尻餅をつく。
雇い主はありがとうとリリアの手を持って何度も揺らした。
こちらは力無く頷くくらいしか、力が抜けてできない。
相手は喜びでいっぱいだったけれど、こっちはよかった、できてよかったとひたすら思うばかり。
「君、平気かい?」
声をかけられるものの、首を振る。
達成感と安堵感がないまぜになった、深く満たされた気持ちでいっぱいだった。
「ほら、よければそこの椅子に座りなさい」
言われるがままにくたりと座る。
言葉にはできないほどの安堵感が、重くのしかかっていた疲労感を包み込んだ。
張り詰めていた神経が緩み、足元に力が入らない。
「コーヒーも淹れよう」
至れり尽くせりで笑うしかない。
「ありがとうございます」
その後、この人とこうやって飲み物を飲んだりして小さく交流していくことになるとは、今のリリアは知らぬままありがたくそれに口をつけた。
重い体をソファに沈め、ゆっくりと湯気を立てるコーヒーカップを両手で包み込む。
「君は優秀なんだね?」
立ち上る芳醇な香りが、静かに部屋を満たしていく。
「それほどもないですが」
一口含むと、じんわりとした温かさが喉を通り、体全体に広がっていく。
(凄く褒めてくる!)
一日の終わりに、この温かいコーヒーだけが、張り詰めた心を優しく解きほぐしてくれるらしい。
男性はそれを満足そうに見てから、再度人形を二人で見守った。
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