07 詰めて
兄はバイトがあるというので一人でごはん。こういう時は適当に済ませる。最近ハマっているのはコンビニで売っている冷凍のパスタ。ソースの味が濃くて具もたくさん入っていてなかなかコスパがいいのだ。
お風呂も湯をためずにシャワーだけにすることにした。僕はシャンプーなどに特にこだわりがないから、兄と同じものを使っている。兄は体臭が気になりだしたらしく、メンソールの入ったスッキリ系のメンズシャンプーだ。残り少なくなったのか、何回かプッシュしないと出なかった。
その後、ベッドに寝転がってネット小説を読んでいた。没頭して時間が一気に過ぎ、兄が帰ってきた。
「おかえり兄さん」
「ただいま。疲れたぁ。さっさと風呂入ってくるよ」
兄を待ってもよかったのだが、シャワーの音を聞いている内にまぶたが重くなり、そのまま眠ってしまった。
……にゅるん。
鼻の奥に激痛が走った。ツーンとする香りもする。僕は飛び起きた。
「もう! 今日は何!」
「起きたか。シャンプー詰め替えてほしいんだけど」
「はぁっ?」
どうやら兄はシャンプーをつけた指を僕の鼻の穴に突っ込んだらしい。時計を見ると二時。兄がお風呂に入ったのはもっと早い時間だったはずなのに、なぜこのタイミングで。
「兄さんがやればいいでしょ!」
「こぼさないか不安なんだよ」
「じゃあ次にお風呂入る前にやるから!」
「それだと忘れるだろ? 俺もさ、次でいいかーと思って一旦後回しにしたんだけど、やっぱり気になって気になって眠れなくて……」
もう何度も兄のお願いを聞いてやっている。今日という今日は反抗だ。
「やだ! 兄さんが買ったシャンプーなんだから兄さんがやるべき!」
「はぁっ? お前も使ってるだろ? それに、瞬が風呂入った時に気付いてやってくれてたらこんな時間に起こさなかったんだぞ?」
「麦茶作るのだって僕ばっかりやってるんだよ? やだやだやだ!」
「こいつ……!」
兄はシャンプーの容器で僕の頭をぶん殴ってきた。
「痛っ! 暴力はんたーい!」
「やれったらやれ!」
兄は相当意地になっている。根負けした僕は風呂場に行き、淡々とシャンプーを詰め替えた。
「兄さん……できたけど」
やっぱり眠っていた兄の頬をちょんとつつく。殴る癖さえなければいい兄なのだが。
「はぁ……おやすみ」
兄の背中にぴったりとくっつき、兄の髪の匂いをかぎながら寝た。