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01 捨てて

 僕は年の離れた兄と二人暮らし。ダブルベットで一緒に寝ている。

 大学のグループワークの打ち合わせが長引いてくたくた、ぐっすり眠っていたら、硬い物で頬をぺちぺちと叩かれて目が覚めた。


「うぅ……何……?」

(しゅん)! 起きろ瞬! 今すぐやってほしいことがあるんだ!」

「ええ……」


 兄はぺちぺちをやめない。鬱陶しくて掴むと、それはハエ叩きだった。


「もう、何なのさ!」

「玄関に来てくれ」


 のっそりと起き上がって玄関に行き、兄の指した方向を見てみると、ドアの近くにひっくり返った虫がいた。


「ひっ!」


 僕は虫が大嫌いだ。しかし、それは兄も同じ。兄はすがるように言ってきた。


「気付いたらいたんだ。多分死んでると思うんだけどさぁ、これ捨ててくれよ……頼むよ瞬……」

「しょうがないなぁ」


 僕は台所に行って必要な物を揃えてきた。まずは割り箸で虫をつんつん突く。動かない。確かに死んでいるみたいだ。これは……カメムシだろうか。潰さないよう慎重に割り箸で挟み、ビニール袋の中に入れた。ビニール袋はさらにもう一枚。二重にしておけば万一生きていたとしても飛び出さないだろう。

 ゴミ箱の奥の方にビニール袋を突っ込んだ。時計を見る。深夜二時。明日……というか日付的には今日はゴミの日。ちょうどよかった。

 直接触れていないとはいえ、どこか気持ち悪くて、僕は手を入念に洗った。


「兄さん、捨てたよ」


 寝室に戻ると、兄はアホ面を晒して眠っていた。


「もう! 僕頑張ったのに! 兄さん! 褒めてよ兄さん!」


 床に落ちていたハエ叩きを拾って兄の頬をぺちぺちするも反応なし。僕はすっかりくたびれて兄の背中にもそもそとくっついて寝た。

 そして、翌朝。


「おう、瞬! 虫の処理ありがとうな!」

「どういたしまして。っていうかさ、何であんな時間に起きてたの?」

「トイレ行きたくなってさ。で、ふと玄関見たらいた」

「もう……兄さんもいいオッサンなんだから僕に頼らず自分でやってよね」

「なんだよ、頼れる相手がいるんなら頼ってもいいじゃねぇか」

「まあそうなんだけど」


 僕は大学に行くついでにゴミを捨てた。この時は、何も思っていなかったのだが……この日からである。兄が僕を夜中に叩き起こすようになったのは。


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