時間
チッチッチッチッ…
時計は寸分の狂いなく時刻という名の時を告げる。
机の上に鎮座する、その時計も同じだ。
「ぁぅふぁ…今の時間は…七時か…さて、朝飯でも食うか…」
七時を刻んだ時計は、リリリという声と共に時刻を告げる。目覚めの合図、そして、朝食の合図だ。
ガチャリ。冷蔵庫の戸を開ける。
ジュ。卵は熱を受け、純白へとその身を変える。
カチャリ。皿を並べ、カトラリーを準備する。
「いただきます。」
今日も男の、なんでもない一日が始まる。
「ごちそうさま。」
洗い物をし、食器を片付けると、時計の短針は、「8」を丁度指していた。
「…ふぅ…飯も食ったし、散歩にでも行くか…」
スッ。靴を履き、
ガチャリ。戸を開けて、
『ジャリ』。砂利道を歩みを始める。
『チュンチュン。』小鳥が耳元で朝を告げる。
見上げると、大きな空には白い雲が立ち込め、天頂からは陽光が差し込む。
気持ちのいい朝だ。家の近くまで歩き、はたと腕時計を見ると1と三つの0を表示した。
「こんな時間か…時間が経つのは早いな…さてと、帰ってテラスで本でも読むか…」
トフッ。ハンモックにもたれ、
ペラリ。頁をめくり、新たな世界への扉を開ける。
「昨日は…六十ページまで読んだか…読み始めてから2週間…読むペースが遅いから、中々進まないな…」
推理小説の世界は、読者に様々な考えを巡らせ、推理をさせる楽しさは時の経過をついつい忘れさせる。
ピピピピ…
「おっと、もう13時か…今日は十五ページしか読めなかったな…もう少しペースをあげたいところだ…さて、昼飯でも食うか…」
プルルル。電話をかけ、デリバリーを頼む。
『ブルルル』やがてバイクの音がし、デリバリーが届いた。
「ンシャ…ンシャ…美味い…」
ピザ一切れを食べ切る頃には、時計の針は14時を回っていた。
「さてと、片付けて…」
スルッ。ジャージの袖に腕を通し、
ピッ。ランニングマシンの電源を入れ、
ダッダッダッ。流れる道路を走り出す。
ランニングは、良い汗を出させ、身体の中から清浄する。
ピピピピ。アラーム音は1hの経過を告げる。
「…ふぅ…もう1時間か…よく走ったな…良い汗をかけた…風呂にでも入って、汗を流すか…」
シュル。服を脱ぎ、
ガチャ。風呂場の戸を開け、
シャッ。シャワーを浴びる。
全身を伝う水は、全身の汚れと手を繋ぎ、排水口への旅路を共にする。
風呂を上がり、リビングの時計を見ると、1時間が経過していた。
「夕飯まで少し寝るか…」
トフリ。ハンモックに身体を預け、
スーッ。眠りに落ちた。
チッチッチッ…チッチッチッ…チチチチチ…
時計の針は、彼の見ぬ間に針の速度を早めた。三時間は二時間に、二時間は一時間に…ただ、淡々とリズムを刻む。
時の進みの変化に彼は気づかない。思っていたよりも少し早い。少し遅い。そんな経験は誰しもにある。その経験の一部分としか捉えていない。実際の時間と、時計の指す時刻。彼は後者を本当の時間だと信じている。
時とは何か。それを問うた者がいた。
時とは何か。それに答えた者がいた。
かの教父哲学者、アウグスティヌスは、時間をこう定義した。
「所謂1時間や1年という時間の表し方は、物差しであり、時間そのものではない。時に長く感じられたり、時に短く感じられたりする経験こそが本当の時間である」