卒業パーティーでルームメイトが婚約破棄されそうなんですが、あれは嫌がらせではなくトレーニングに付き合ってくれていただけなんです!
「アリシア! 僕は君との婚約を破棄する!」
突然言い放つ王太子殿下。
私は大いに慌てた。
「待ってください! って言うか放してください!」
卒業パーティー。
私の手を引く殿下。
婚約者のアリシア様。
「君はこのリリアナ嬢に嫌がらせをしていたな」
リリアナは私だ。
静まり返ったパーティー会場。
いや、ごく一部からは「アリシアが? まさか」とか「ほう、面白い」とか……。
「されてません! そんなこと誰が言ったんですか!」
「投書だ。ベランダで仕事をしていたら、こんな物が」
懐から取り出す……紙飛行機。
その折り目を広げる殿下。
「カレンダー……?」
学園の隣の公園、その風景。
日付の一つに丸印。
「張り込んでみた。夜、君たちが現れて、君がすごい勢いでブランコを……」
あー……。
「アリシアは何かを叫んでいた。怖かった……」
「あれは違うんです、トレーニング——」
「また別の日。散歩していると……これだ」
また紙飛行機。
広げると……学園のプール。
「張り込んでみた。また君たち——」
「トレーニングです!」
「アリシアはプールサイドでお弁当だ。異様な光景だった……」
「ですから——」
「更にまた別の日——」
学園の近くの観覧車。
「——君がすごい勢いで懸垂——」
「だから! トレーニングですって!」
「どうなんだ、アリシア」
黙って聞いていたアリシア様が口を開く。
「ええ、嫌がらせをしました」
「アリシア様!?」
「君たちはルームメイトだったな。嫌がらせの理由は?」
「お答えする必要はございません」
それで終わり。
婚約は破棄。
悪役はアリシア様。
*
寮の部屋で、私はアリシア様に聞いた。
「あれはトレーニングではなかったのですか?」
「ごめんなさい、リリアナ。私は……殿下との婚約は嫌だった。ご本人はあの通りだし」
今回の騒ぎで、王太子としての資質に難あり、なんて言われている。
「何より、私には元々別の婚約者がいたの」
思い出した。寝言で男性の名前……。
「私は考えたわ。運命を覆す方法を」
「もしかして、紙飛行機を飛ばしたのは……」
答えは笑顔。
*
その後、彼女は元の婚約者と復縁することができた。
私の方は。
「やあ、リリアナ。婚約者募集中だって?」
変わり者。
あの場で私の様子を見ていたらしい。
「募集してません! 放してください!」
「今度一緒に『トレーニング』しよう。約束してくれたら、手を放す」
約束……婚約……ではなくて。
まずは、この目の前の状況だ。
つないだ手を見詰めて、私は考えるのだった。