第八話 バンド結成
昼休みになり、創とともに三原たちの教室へ行った。ここに入ることにも、すっかり慣れてしまった。何のためらいもなく中へ入ると、三原が、「よー」と言って軽く手を上げた。いつもと同じ場所に座ると、才は弁当の包みを開いた。三人も、すぐに食べ始めた。
三原は、相変わらずガツガツと勢いよく食べている。いつでも一番に食べ終えてしまう。才は、そんな三原に、時々視線を向けていた。朝の、やや暗い表情はどこにも見られず、普段と変わりない様子だ。ホッとして、短く息を吐き出す。
三原は食べ終えると弁当箱を片付け、才たちを見ると、にやりとしてから、
「廊下の、文化祭のポスター見たか?」
「文化祭のって、あれか。有志の出し物募集ってやつ?」
高矢が訊き返すと、
「ああ。それだ。で、オレは参加申し込んできた。で、許可が出た」
「え? ミハラ、何やるつもり?」
高矢が首を傾げながら訊く。才は、何のことだかさっぱりわからず、
「あの……ミハラくんに質問なんだけど」
「何だよ、サイ」
「有志の出し物って何?」
「ああ、それか。文化祭って、クラスか部活の出し物がメインなんだけど、どことも関係ない枠があって、好きなことをやっていいことになってるんだ」
三原の説明に、高矢が口添えする。
「そうそう。去年は、バンドの演奏とか、ダンスの披露とかしてた気がする。で? ミハラ、何やるんだって?」
「バンドの演奏だ」
「バンド? ミハラ、バンドやってたんだ?」
「やってねえ。今からやるんだ、おまえたちと」
「は? ミハラ、おまえ何言ってるんだ?」
「いいじゃん。やろうぜ。オレ、ヴォーカルな」
「ちょっと待て」
高矢が止めにかかったが、才の横に座る創が目を輝かせているのに気が付いた。創は右手をまっすぐ上げると、
「はい。オレ、ギターやります。やったことないけど」
創の嬉しそうな顔。そして、高矢も、
「仕方ねえ。オレ、ドラムやる。親戚で、ドラムが趣味の人がいるから、習ってみる」
渋々といった表情だが、前向きに考えているのが伝わった。そして、何の発言もしない才に、三人の視線が集中した。才は、そうされても、どう返答していいのか、わからなかった。
創が、才の肩にそっと手を置いた。そして、言った。
「サイちゃん。ベース、頼んだよ」
「何のことでしょう」
「スリーピースバンドなんだから、ベースがいないと困る。やって?」
また、語尾を上げて、可愛い感じで来た。才は、抵抗しても無駄だと思いつつ、
「いや。でも、オレさ。全く弾いたことないし。今から九月って二ヶ月くらいだし……」
「サイちゃんなら出来るよ。ね。諦めて」
微笑む創。期待に満ちた目で見ている三原。そして、同情的なまなざしの高矢。才は、助けがいないことを悟り、大きく息を吐き出すと、
「わかったよ。やればいいんだろ」
「そう。やればいいんだ。ありがとな、サイ」
三原が嬉しそうに、そう言った。その笑顔に、つい見入ってしまう。
「オレはヴォーカルだからいいとして、楽器買うだろ? 楽器屋の知り合いがいるんだけど、今度、そこに行ってみようぜ」
「あ。ミハラくん。その人の回し者?」
創が言うと、三原は笑い出し、
「違うって。別に、絶対そこでって訳じゃないけど、楽器どこで買ったらいいか迷うかと思って」
「まあ、いいや。じゃ、行こう。いつにする?」
「今度の日曜、とかどうだ?」
話がどんどん進んでいく。
「じゃあ、三時にその店の前に集合な」
「オレ、ドラムは買わなくていいけど、面白そうだから付き合うよ」
「よし。タカヤも来い。サイ。おまえ、当然来るんだぞ」
「あ。はい」
逆らえるはずもなく、受け入れた。
バンドの名前は、誰が言い出したのか、アスピリンに決まった。