第四話 三人で
「サイ。オレ、何か変なこと言ったか?」
三原に問われて、才は首を振った。三原の横に座る高矢が、わざとのように大きな溜息を吐き、
「ミハラ。サイちゃんをからかうの、よせよ」
「からかう? からかってないぞ」
「からかってない? じゃあ、口説くのはやめろ」
「タカヤ。おまえ、さっきから何言ってるんだ? わけわかんねえぞ」
二人の言い合いに、創が首を傾げる。才は、いたたまれず、つい足元に視線を落とした。
「だからさ、ミハラ」
「おお。何だよ」
三原の口調が、少し強くなる。才は、ここから出て行かなければならない、と決意し、椅子から立ち上がった。
「あの……オレ、もう行きます」
おずおずと才がそう言うと、三原が才の方に向いて、
「何だよ、サイ。行っちゃうのかよ。まだ昼休み終わんないぞ」
「えっと、でも、帰ります」
これ以上言っても無駄だと思い、一礼すると教室を急ぎ足で出た。
「待ってよ、サイちゃん」
すぐに創が追いついた。才は創を見ながら、「ごめん」と言った。創は、やはり首を傾げて、
「何、謝ってんの? それにしてもさ、あの二人、楽しそうだったね」
「楽しそう?」
あの言い合いのどこが楽しそうに見えるのか、才には理解出来なかった。
「サイちゃん。オレさ、サイちゃんのピアノの発表会、聞きに行きたいな」
「え?」
「あ、もしかして、関係者以外立ち入り禁止?」
「いや。そんなことないけど」
発表会は、普通の音楽ホールで行われる。入場無料で、誰が来ても構わないことになっている。が、才は今まで友人をそこに招いたことはない。
「いいんだったら、行きたい。きっとさ、あの二人も行きたいって言うな。オレ、そう思う」
「そうかな? スギちゃん、普段クラシック聞く?」
「聞かないな」
即答だった。
「それだと、退屈するかもしれないけど」
「でもさ、何か聞いてみたいんだよな。ダメかな」
創の言葉に、才は首を横に振り、
「わかった。いいよ。来てよ。三人で来るんだよ」
「やった。で、いつだって?」
教室に戻ってから、メモ帳に日程と会場を書いて、創に渡した。
「ここさ、商店街を抜けた先にあるホールだよね。何だ。うちから近い。ラッキー」
「三人で来るんだよ。誰か来れないなら、来ちゃダメだから」
「えー?」
創の驚きの声に、才はつい笑い出してしまった。それを見た創は、「なーんだ。嘘か」と言って、一緒になって笑い始めた。
「冗談だよ。本気にしてくれて、ありがとう。面白かった」
才が微笑むと、創は「おー」と言った後、
「その顔だね。ミハラくんが、褒めてたの。うん。確かに、可愛い。サイちゃん、いつも笑ってなよ」
「やだね」
「何でだよ。何か、トラウマでもあるの?」
「は? トラウマ?」
やはり創の言うことはよくわからない、と思う才だった。