第八話 本当の気持ち
「何でおまえが最低なのか、わかんねえけど。とりあえず、このプリンアラモード食べてもいいか? すげえ美味そうなんだけど」
「いいよ。食べてよ」
才が許可すると、三原は席へ戻り、
「じゃ、いただきます」
嬉しそうな三原の顔。それを見る才は、さらに憂鬱になった。
「ミハラくん。耳だけ貸してよね。オレは、コンクールに出ようとしちゃったんだよ。ピアノのコンクール。それに出て一位になると、オケと共演出来るんだって。そういうコンクール。音楽やってる人は、挑戦してみようと思うものなんだ。ま、人によるかもしれないけど。オレは少なくとも、挑戦しようと思っちゃったんだ」
三原の顔をそっと見たが、プリンアラモードに集中しているように見えた。才は、思わず溜息を吐いた。
「ミハラくん。聞いてくれてる?」
才の問いかけに、三原が食べるのをやめて顔を上げた。その表情には笑みは見られず、真剣なものだった。
「ああ。ちゃんと聞いてる」
「そうか。よかった」
才は、手を伸ばして三原の右手にそっと触れた。三原は、その才の手を見つめる。
「ミハラくん。オレ、その話をされた時ね。その映像みたいなのが見えたんだ。一位になって、オケと指揮者とソリストのオレがステージにいる、そんな映像。でも、気が付いた。オレ、おかしかった」
「おかしくは、ない」
三原は、低く言った。才を見つめるその瞳は、少し潤んでいるように見えた。才は、三原に触れている手に力を込めた。
「オレは、バンドで生きて行こう、と思って。その為には、ミハラくんを切るしかないって思ったから、そうしたのに。それなのにオレは、そんなこと考えちゃって。それって、メンバーを裏切ったってことだし、君を裏切ったってことだし。ほら。オレ、最低だろう」
「最低じゃないだろ」
「え?」
「いいか、サイ。おまえにとって、ピアノは命と同じようなものだ。なくちゃならないものなんだ。わかるか? それなのに、もう弾かないとか、そんなのおかしいだろ。おまえの人生、ピアノが基本だ。そうだろ」
答えられず、才は三原から手を離した。が、今度は三原の手が伸びて来て、才の手を捕らえた。
「逃げないでくれ。いろんなことから。現実から」
「現実って。だって……」
「現実を見つめるのってさ、怖いかもしれないけど、大事なことだってオレは思う。だから、逃げないで立ち向かってほしい。わかるか?」
才は、首を振った。頬を涙が伝っていた。
「サイ。オレも、もう逃げないから。本当の気持ちを、今から言うから」
「本当の……気持ち?」
「そうだ。本当の気持ちだ」
三原のその真剣な目つきから、顔を背けることは出来なかった。




