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君のいない場所  作者: ヤン
第三章
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第六話 約束

 店から出ると、高矢(たかや)(はじめ)恭一(きょういち)が、(さい)を見て来た。才は、三人を順番に見た後、


「え? 何?」

「何って。あのさ、サイちゃん」


 高矢がそこまで言うと、一旦口を閉ざしたが、


「サイちゃん。ミハラに殴られなかった?」


 高矢の言葉に、才はプッと吹き出して笑ってしまった。高矢は肩をすくめ、


「いや。笑いごとじゃないだろ。実際に一回殴られてるわけだし」

「ごめん、タカヤ。でも、おかしくて」

「サイちゃん」


 高矢の真剣な顔に、才も表情を改め、もう一度、「ごめん」と言った。


「あの人、そんなことしないよ。少なくとも、オレには」

「まあ、それはそうだ。あれは、事故みたいなものだったからな」

「そう。殴る気があるなら、とっくにやってただろ。オレ、そう思う」

「だな」


 高矢は、再び黙って、才から視線を外した。創は、高矢を見た後、才を見て、


「じゃ、何か楽しい話をしてた?」

「楽しい、話?」

「そう」


 創に悪いと思いつつ、才は笑ってしまった。それに対して、創は膨れて見せて、


「真面目に言ってるのに」

「真面目に、楽しい話?」


 こらえようとしても、無理だった。


「スギちゃん、面白いな。ありがとう、笑わせてくれて」

「サイちゃん。オレ、さっきも言ったけど、真面目に話してるんだ。だって、サイちゃんが心配だから」


 急にシュンとして、創が言った。それを聞いて、才は笑いが止まった。


「サイちゃん。オレたちは、ずっと二人のことを見て来たんだよ。だから、心配するのは当然だろ」

「まあ、そうかな」

「そうなんだよ。な、タカヤ」

「ああ。そうだよ」


 高矢がそう言うと、創は勢いづいて、「ほーら」と言った。才は息を吐き出すと、「ごめん」と小さく言った。


「二人の言うことが、本当に面白かったから笑ったんだけど、不謹慎でした。反省します」


 才は、頭を少し下げて、気持ちを表した。


「いや。サイちゃん。反省とかそんなことを求めたんじゃなくて。えっと……」

「いいさ。反省しなきゃいけない時もあるんだよ。じゃ、帰ろう」


 言うなり、さっさと歩き出した。振り向くと三人はその場に立ち尽くしていたが、急に気を取り戻したかのように動き始め、才のそばまで走ってきた。一番に到着した恭一が、そっと言う。


「サイちゃん。しつこいようだけど、本当にあの時みたいなこと、なかったんだよね?」


 殴られそうになった張本人の恭一は、不安そうに顔を歪めていた。才は恭一の肩を軽く叩くと、


「本当に何もなかったよ。ちょっと、話してただけ」

「そう。それなら、いいんだけど」

「心配性だな、みんな」


 そう言いながら、心配されることに喜びを感じている才だった。



 三人と別れてから、才は楽器屋での三原との会話を思い返していた。


 一人その場に残った才に三原が、「何だ?」と昔のような口調で言った。それに対して才は微笑み、


「仕事、何時に終わるの?」

「仕事の終わる時間?」


 三原は、戸惑いの表情で才を見て来た。才は深く頷き、


「そう。何時? えっと……話したいことがあって。ここでは話せないよ。出来たら、うちに来てほしいんだけど」

「あのお屋敷に来いって言うのか? どうして?」

「だから……話があるから。嫌ならいいんだ」


 あまり訊き返されて才は、これはダメと言うことだろうと判断した。背中を向けて店を出ようとした時、


「おい。待てよ」


 引き止められて、才はほっとした。これで声もかけてもらえなかったら、絶望的だった。才は、ゆっくりと振り向き、


「何? ミハラくん」


 三原は、一瞬ためらいを見せたが、


「行くよ。仕事は、夕方の五時までだ」

「五時。わかった。夕食、準備しておくね」

「夕食……いいのか?」

「いいよ。うちの人達、お客様大好きだから。ミハラくんが来てくれたら、きっとみんな喜ぶよ」


 微笑む才を、三原がじっと見る。才は手を振って、


「じゃあ、待ってるよ」

「終わったら、すぐに行くよ」

「わかった」


 

(ミハラくん。本当に来てくれるよね?)


 期待と不安がない交ぜになっていた。

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