表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君のいない場所  作者: ヤン
第三章
34/41

第四話 仲直り

 家に帰るとすぐにピアノ室に向かう。音階練習をざっとして、レッスンで見てもらっている曲を弾く。最後まで通して弾いた後、細かく区切って弾く。何度も何度も。それが、長年やってきたことだ。


 今まで弾かない日は、ほとんどなかった。よほど体調が悪い時以外、それを自分に課していた。それなのに、と(さい)は溜息を吐く。


「どうしてこうなったんだっけ」


 思わず声に出して言った。言わずにはいられなかったのだ。


 才は、ピアノの前に座り、蓋も開けずにじっとピアノを見つめた。ヨーロッパから来た、古い楽器。温かく、優しい音がする。祖父が、母の為に買い与えたと聞いている。母は、才が小さい時に亡くなった為、それからは、ずっと才のものだった。


 そのピアノを前にして、蓋を開けることすら、ためらっている。


 そのままピアノを弾くことなく、ピアノ室を後にした。


 翌日、授業を終えて学校の門を出ると、恭一(きょういち)が人待ち顔で立っていた。才が声を掛けると、驚いたように、「あ」と言った後、


「サイちゃん」

「もしかして、オレを待ってた?」


 そう言ったが、才はすぐに首を振り、


「違った。言い直すよ。キョウちゃん。もしかして、オレを待っていてくれた?」


 恭一は才をじっと見つめた後、小さく頷いた。


「昨日は……ごめんね」

「キョウちゃんは悪くない」

「でも……勝手に怒って、みんなの気分を悪くさせたよね」


 恭一の表情が歪んだ。才は、昨日怒られたので、子供扱いに見える行動を取れずにいた。


「僕もサイちゃんのこと、大好きだから。大事だから。だから、何でも言ってほしいなって……思って。大樹(だいき)さんみたいに大人じゃないけど、でも……」

「わかったよ。キョウちゃんは、すごく優しい。オレは、やっぱり君のことが大好きだ。あ。恋愛感情じゃないから、安心してね。そうじゃなくて」


 恭一が俯いた。と同時に、鼻をすするような音が聞こえた。目を片手で拭いながら、


「無理に話さなくていいんだ。それでいい」

「きっとオレ、この件に関しては誰にも話せないかも。みんなに対してひどいことしたから」

「え?」

「ごめん。これ以上は話せない」


 前を向いて歩き始めると、恭一もすぐについてきた。才は、恭一を見ながら微笑み、


「そうやって泣いてると、オレがいじめたみたいなんだけど」


 少しふざけたような口調で言うと恭一は、「そうだよね」と言い、顔を上げた。涙を手の甲で拭うと、


「もう、大丈夫」


 無理に作った笑顔を見せてきた。才は、恭一の頭をつい撫でてしまった。が、昨日怒らせたことを思い出し、「あ。ごめん」と言ってすぐにやめた。恭一は首を振って、「いいよ」と静かに言った。


「本当は、サイちゃんにそうされるの嫌いじゃないんだけど。昨日は僕、すごく怒っちゃってたから。サイちゃん。ごめんね」


 また泣きそうな顔になる。


「キョウちゃん。ファンが泣くよ、そんな顔してたら」


 才の言葉に、恭一はハッとしたような表情になって、


「あ。そうだね。僕がアスピリンだもんね」

「そう。キョウちゃんがアスピリンだよ」


 才はいつも恭一に、「君がアスピリンだからね」と言い聞かせている。アスピリンというバンドは、ヴォーカルを大事にしている。恭一がかっこよくないと、バンドは成り立たない。それをわからせる為に、あえて度々口にしている。


「僕が、アスピリンだね。かっこよくいないとね。泣いてたら、ダメだね」

「泣いてもいいけど。でも、やっぱり泣かない方がいいかな。ま、いいか。どっちでも」


 本当は、泣いてたって恭一はかっこいいんだ、と才は思っている。が、それはあえて口にせず、恭一の背中を軽く叩いた。


「どっちでもいいけど、とにかく、キョウちゃんがアスピリンだから、かっこよくいてよね」

「わかった」


 二人顔を見合わせると、笑い出してしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ