第一話 進路
恭一がヴォーカルになってから、一年ほどが過ぎた。中学三年になり、受験生になった恭一は、溜息を吐くことが多くなった。
「キョウちゃん。また、暗い顔してる」
才がからかうように言うと、恭一は、「だって……」と小さな声で言う。
「サイちゃん。僕はね、高校に行きたくないんだ。行かなくていいと思ってるんだよ。だけど母さんは、行ってって言うんだ」
「ふーん。何で行きたくないのさ」
「うちは、あまり裕福じゃないし。そもそも僕は、学校が好きじゃないんだ。好きでもない学校に行く為に母さんに苦労をかけるのは、すごく嫌なんだ」
一瞬も迷わずに、はっきりとした口調で言う恭一を、才はつい見つめてしまった。出会った頃は何となくおどおどとした様子だった恭一が、自分の意見をこんなにも堂々と言えるようになったことが、才にとっては驚きであり喜びだった。
「キョウちゃん。大人になったね」
才が真顔で恭一に伝えると、恭一は首を傾げて、
「え? 何、それ」
「感心してるんだよ。からかってるわけじゃない」
微笑みながら言う才に、恭一は眉を寄せ、
「いや。サイちゃん。からかってるよね?」
「違うって。本気で言ってる。じゃなくて。高校行くか行かないか、ちゃんと考えなきゃね。大事だよ。行かないとして、どうやって生きていきたいのか、それも考えないと」
才の言葉に、恭一は俯いたが、すぐに顔を上げ、
「僕は、中学を卒業したらアルバイトをして、将来はアスピリンで生活出来るようになりたい。そう思ってるんだ」
才は、その迷いのない瞳に圧倒されていた。
「アスピリンでプロになって生活するのが、僕の人生だと思ってる。サイちゃんは、どう思ってるの?」
「オレも同じだよ。プロになってアスピリンで生きていく為に、前のヴォーカルを切ったんだから」
それなのに、と才は息を大きく吐き出した。
「どうしたの?」
恭一が、心配そうな顔になって才を見て来た。才は首を振って、
「何でもないよ」
「でも……」
「キョウちゃん。オレ、何でもないって言ったろ。大丈夫だから」
自分に対して苛立ちを覚え、強い口調になってしまった。普段にない才の様子に恭一も驚いたようで、目を見開いていた。
「あ……ごめん。言い方がきつかったね。えっと……何でもなくないんだけど、今は何も言いたくないんだ。訊かないでほしいんだ」
「わかった。僕も、ごめん」
「キョウちゃんは悪くない。オレが……」
その時、スタッフから声が掛かった。少し離れた所で話していた高矢と創に声を掛け、ステージに向かった。
(オレは、何であの時……)
ステージ袖までの道のりが、やけに長く感じる才だった。




