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君のいない場所  作者: ヤン
第三章
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第一話 進路

 恭一(きょういち)がヴォーカルになってから、一年ほどが過ぎた。中学三年になり、受験生になった恭一は、溜息を吐くことが多くなった。


「キョウちゃん。また、暗い顔してる」


 (さい)がからかうように言うと、恭一は、「だって……」と小さな声で言う。


「サイちゃん。僕はね、高校に行きたくないんだ。行かなくていいと思ってるんだよ。だけど母さんは、行ってって言うんだ」

「ふーん。何で行きたくないのさ」

「うちは、あまり裕福じゃないし。そもそも僕は、学校が好きじゃないんだ。好きでもない学校に行く為に母さんに苦労をかけるのは、すごく嫌なんだ」


 一瞬も迷わずに、はっきりとした口調で言う恭一を、才はつい見つめてしまった。出会った頃は何となくおどおどとした様子だった恭一が、自分の意見をこんなにも堂々と言えるようになったことが、才にとっては驚きであり喜びだった。


「キョウちゃん。大人になったね」


 才が真顔で恭一に伝えると、恭一は首を傾げて、


「え? 何、それ」

「感心してるんだよ。からかってるわけじゃない」


 微笑みながら言う才に、恭一は眉を寄せ、


「いや。サイちゃん。からかってるよね?」

「違うって。本気で言ってる。じゃなくて。高校行くか行かないか、ちゃんと考えなきゃね。大事だよ。行かないとして、どうやって生きていきたいのか、それも考えないと」


 才の言葉に、恭一は俯いたが、すぐに顔を上げ、


「僕は、中学を卒業したらアルバイトをして、将来はアスピリンで生活出来るようになりたい。そう思ってるんだ」


 才は、その迷いのない瞳に圧倒されていた。


「アスピリンでプロになって生活するのが、僕の人生だと思ってる。サイちゃんは、どう思ってるの?」

「オレも同じだよ。プロになってアスピリンで生きていく為に、前のヴォーカルを切ったんだから」


 それなのに、と才は息を大きく吐き出した。


「どうしたの?」


 恭一が、心配そうな顔になって才を見て来た。才は首を振って、


「何でもないよ」

「でも……」

「キョウちゃん。オレ、何でもないって言ったろ。大丈夫だから」


 自分に対して苛立ちを覚え、強い口調になってしまった。普段にない才の様子に恭一も驚いたようで、目を見開いていた。


「あ……ごめん。言い方がきつかったね。えっと……何でもなくないんだけど、今は何も言いたくないんだ。訊かないでほしいんだ」

「わかった。僕も、ごめん」

「キョウちゃんは悪くない。オレが……」


 その時、スタッフから声が掛かった。少し離れた所で話していた高矢(たかや)(はじめ)に声を掛け、ステージに向かった。


(オレは、何であの時……)


 ステージ袖までの道のりが、やけに長く感じる才だった。

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