第十四話 さよなら
ライヴが終わり、四人は揃って外へ出た。
「キョウちゃん。頑張ったね」
微笑みながら才が言うと、恭一は、
「頑張ったけど……」
何か、後ろ向きなことを言おうとしているようだ。才は、そんな恭一を可愛く思った。
と、その時、正面に誰かがいることに気が付き、立ち止まった。才は、その人を少し見上げて、じっと見た。その人は才のことは見ておらず、ただ恭一を見ていた。
その人・三原は、恭一に向かってにやっと笑った後、急に険しい表情になって、拳を振り上げた。恭一は驚きのあまり目を見開いて立ち尽くしており、三原の拳を避けなければいけないという考えすら浮かばないように、その動きを止めてしまっていた。
才は、とっさに恭一を自分の背中にかばった。そして、三原の拳はそのまま才の左頬に直撃した。
「痛……」
その勢いで地面に倒れた才は、そのままの姿勢で左頬を撫でていた。才はそうしながら、自分の前に棒立ちになって、驚いたような表情をしている三原を見ていた。三原は、「サイ……」と吐き出した息とともに言った。
才は三原の目を捕らえながら、そっと言った。
「ごめんね、ミハラくん」
「サイ」
三原は才のそばに跪くと、「ごめん。大丈夫か」と言った。その切羽詰まったような三原の声音に、才は胸を突かれた。
「大丈夫かって……。大丈夫じゃないよ。痛いよ。だけどさ、ミハラくんだって痛かっただろう。オレ、君にひどいことしたから。オレ、自分が可愛いから君のこと、切った。オレがオレのしたいことをする為には、そうするしかなかったから。一緒にいるのは限界だったから」
「わかってる」
三原の目が潤んでいるように見えた。それとも、才の目が潤んでいて、そういう風に見えるのだろうか。才は、三原の背中に両腕を回した。そして、目を閉じると囁くように三原に言った。
「悪いのはオレだろう。だから、殴りたければ、オレをもっと殴ればいい。だけどさ、キョウちゃんには手を上げたらダメだよ。キョウちゃんは、何も知らないんだ。ただオレに巻き込まれただけだ。むしろ、キョウちゃんは最初から被害者なんだ。だから、キョウちゃんには構わないでやってくれよ」
ミハラは何も言わなかった。才は、はーっと息を吐き出すと、
「ずっとオレにこうしたかったんだろう? 今回のことと言い、病院でのことと言い、オレは君のこと、怒らせてばっかりだったからね。だから、これで良かったんだよ」
才は、三原の肩に頭をもたせかけて、微笑を浮かべた。三原は、才の背中に手を回すと、強く抱きしめてきた。そして、「サイ……」と、やっと聞こえるような声で言った。才は目を閉じたまま、
「今までありがとう。あんな態度しか取れなかったけど、オレは君のこと大好きだったよ。でも……」
才は身動ぎして三原の腕から逃れ、ゆっくりと立ち上がると、もう一度微笑み、
「これで、終わり。もう……さよならだ」
三原に背を向けると才は、「行こう」と恭一たちを促して歩き始めた。三原から遠ざかりながらも、気配を探っていた。が、三原の音は何も聞こえてこない。才を抱き締めていた時と同じように、今もアスファルトに膝をついたままでいるのだろうか。
(ミハラくん……)
これで、本当にさよならだ。
才は、涙が流れ出しそうになるのを、必死にこらえていた。




