第十二話 別れ
才は、ドアを開けてスタジオの中へ入った。いつもの場所に行くと、肩からベースを下ろしてケースから出した。三人もそれぞれの位置に着き、準備を始めていた。
才は、真ん中に立つ人を、つい見つめた。長身で、広い背中。いつも、この場所から見ていた。
(ミハラくん……)
これからしようとしていることを思って、才は憂鬱な気分でいた。
楽器の準備が整って、三原が、「じゃあ、始めるか」と普段の通り言った。才はその言葉を聞いて、胸がズキンとした。
(言わなきゃ。言えよ、オレ)
自分に言い聞かせ、「ねえ、ちょっと待って」と大きな声で言う。三原が振り向き、肩をすくめた。
「サイ。どうした? 始めるって言っただろう」
「聞こえたよ。だから、待ってって言ったんだ」
心臓が速く打って、息苦しい。が、ここで失敗は出来ないのはわかっている。才は、深く息を吸って吐き出した。
「新しい曲、持ってきたんだ。流すから、聞いて」
「新しい曲?」
「そう。新しい曲」
そう返事すると、すぐに音楽を流し始めた。三原の表情が硬くなっていく。それを、才は横目で見続けていた。
曲が終わると、三原が才を見る。その目は、怒りなのか諦めなのか、いろんな感情が混ざっているように見えた。
「何だよ、この曲は」
沈黙を破って、三原が低く言った。才は、無理矢理笑みを浮かべると、
「いい曲だろ」
「これを、オレに歌わせようってのか」
「歌えないなら、歌わなくていいよ」
三原が何か言おうとした時だった。スタジオのドアが、ギーッという音とともに開いた。そして、少年が姿を現した。
三原はその少年を見た後、才に視線を戻すと、
「そういうことかよ」
「そういうことだよ。わかったら、出てってよ」
三原は何も言わずにドアの前まで行ったが、何故か振り返り、じっと才を見て来た。その瞬間、中学一年だった頃のあの不思議な行動が思い出され、三原を追いかけたい衝動に駆られた。が、それはダメだとわかっている。
才は、努めて冷静に、
「何してんのさ。さっさと行けよ。出てってくれよ」
三原の表情が、一瞬哀し気に歪んだのを見た気がした。が、それを確認する間もなく、三原は音を立ててドアの外に消えた。
「サイちゃん」
二人の仲間が、才のそばに駆け寄ってきた。才は二人を交互に見ると、ふっと笑い、「終わったよ」と、静かな声で言った。




