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君のいない場所  作者: ヤン
第二章
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第十一話 新しい曲

 (さい)が落ち着いてから、三人並んで歩き出した。もう、人はまばらだ。


「さっき、答えるの忘れてた。次、誰って訊いたよね。もう、オレの中では決めてる。大樹(だいき)も知ってる。ライヴの後、客席で出会ったんだけど、あの子がいいなって。いくつだろう。訊くの、忘れちゃった。名前は、矢田部(やたべ)恭一(きょういち)。雰囲気のある、ほっそりとした美形だよ。だけどさ、声。声が、すごくいいんだ。一度聞いたら、忘れられない感じ。ヴォーカルに向いてると思う」


 興奮気味に語る才を、珍しい物でも見るような目つきで、(はじめ)高矢(たかや)が見てくる。才は、息を整えてから、


「いや、会ったらオレの気持ちがわかると思う。今度、スタジオMに来てって言ってあるから。あの子は、オレがやろうとしていること、一切知らない。オレはあの子を利用して、ミハラくんを怒らせてやめてもらおうと思ってる。だから、あの子には少し遅い時間を伝えてる。オレが勝手にやるから、二人は見守っててよ」


 失敗は絶対に出来ない。チャンスは二度とない。そんな気持ちでいた。


 分かれ道まで来て、才は立ち止まった。二人を交互に見ると、


「ねえ。明日、オレの家に来てよ。オレがやりたい曲、聞かせるから。いいよね?」


 語尾強めで言うと、二人は口々に、「いいよ」と言ってくれた。才は、ホッとして息を吐き出した。


「ありがとう」


 才は片頬を上げて微笑むと、二人に手を振った。


 翌日、学校が終わってから待ち合わせて、才の家に創と高矢を連れて行った。何度か来たことがあるはずなのに、来るその度に彼らは驚いたような顔になる。才は、つい笑ってしまった。


「いいかげん、慣れてよ」


 才が言うと、創は、


「慣れないだろ。こんな立派な家。つい、オレの家と比べちゃうよな」


 高矢も、腰に両手をあてがい、家の上から下まで見やると、


「何回見ても、凄い物は凄いんだよ、サイちゃん」

「えっと……ありがとう。でも、オレは別に凄くない。オレがこの家、建てたわけじゃないし」


 玄関近くまで来ると、ばあやが出て来て、


「お帰りなさいませ、坊ちゃま」

「ただいま、ばあや」


 才はばあやを見ると、いつでも幸せな気持ちになる。家族ではないが、長年一緒に暮らして世話をしてもらっている身としては、愛情を持たずにはいられない。


「ばあや。このままピアノ室に行くから、何も出さないでいいよ」

「では、せめてご用がお済みになってから、お茶を」

「わかった」


 才は、二人をピアノ室へ連れて行くと、ドアを閉め、


「それじゃ、新しい曲、弾くから」


 ピアノの蓋を開けると、才は音楽を奏で始めた。


 曲が終わると、二人が才に拍手をくれた。才は二人に向かい、


「じゃ、今から合わせよう」

「待て、サイちゃん。ここには、ドラムセットがない」

「ごめん、タカヤ。ないけど、それらしくやってみてよ」


 拒否されるかと思ったが、高矢は、「よし。やるぞ」と言って、受けてくれた。創を見ると、肩からギターを下ろし、


「はい。準備します」


 敬語で言う。才は小さく笑うと、「ありがとう」と言った。



 約束の日になった。才は、今から起こることを想像して憂鬱な気分になっていた。スタジオMまでの道のりがずいぶん遠く感じられた。


 受付をする為店内に入ると高矢がすでに来ていて、才に気が付くと片手を軽く上げた。


「今日、よろしくね」


 才が言うと、神妙な顔をした高矢が深く頷いた。そして、才の方をじっと見る。何も言わなかったが、才は高矢に励まされたような気持ちになった。


 その時、創が入ってきて、


「お待たせ。って言うか、やっぱりミハラくんは来てないんだね」


 創の言葉に、高矢が息を吐き出した後、


「ま。それは、いつものことだから」

「そうだね」


 それきり、二人は黙った。才も、何も言わずに店内を見るともなしに見ていた。しばらくしてから三原が来て、「よー」と片手を上げた。才は、薄く微笑むと、


「じゃあ、行こうか」


 店を一旦出て、店の脇にある階段を降り始めた。終わりの瞬間が近付いていた。

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