第十話 一緒に
最後の曲が終わってライヴハウスを出ると、少し離れた広い所で、創が誰かと話しているのが見えた。その隣に高矢が立っていて、創ともう一人を見ている様子だ。
才と大樹は、人込みを抜け出しながら、創たちの方へ向かった。そばまで行くと、創が気が付き、
「あ。サイちゃん。大樹」
「ずっと、ここにいたの?」
才が訊くと、創は頷き、
「この人、高校の同級生で、二番目のバンドを観に来たんだって。オレ、バンドやってるって言ってなかったから、びっくりされた」
「そうなんだ。初めまして。今度は、アスピリンを聞きに来てくださいね」
その人に言うと、
「あ。はい。アスピリンも、いいですよね。聞きに来ます」
「ありがとうございます。でも、その時は、もしかしたら……」
「はい?」
「いえ。何でもないです。ね。スギちゃん。高矢。ちょっと話があるんだけど」
才がそう言うと、創の同級生は一礼して、創に、「じゃあな」と声を掛けて帰って行った。大樹は、どうしようかと迷っているようだったが、
「オレ、帰る。じゃ、また」
手を振って背中を向けて歩き出した。創は、「え?」と言って大樹を追おうとしたが、才はそれを制止した。
「大樹は、何を話すかわかってて、この場から外してくれたんだ」
「何、それ?」
不思議そうな創に、才は真剣な表情で、
「大事なことなんだ。バンドに関わる、大事なこと」
創と高矢が顔を見合わせた。が、意外にも二人は驚いた顔をせず、頷き合っていた。
「えっと……」
才は、二人のその様子を見て、次の言葉が出なくなった。創が、才に一歩近づくと、肩を軽く叩いた。
「決めたんだね」
優しく微笑む創。才は、創をじっと見たまま、「ああ」と低く言った。
「それで、次は誰?」
横にいた高矢が、冷静に訊く。創も、「そうだ。誰?」と訊いてくる。
「て言うか二人とも、オレの言おうとしてること、認めてくれるってこと? おまえが出て行け、じゃなくて、オレと一緒にやってくれるんだ。あの人を追い出そうとしてるオレと」
二人は、三原が好きな音楽をやはり好きだった。多分、今やっている曲も、本当に好きでやってるのだろう、と才は思ってきた。それが、これから違う方向に進もうとしている才についてきてくれるとは。正直な所、才は驚いていた。
「サイちゃん。オレ、もちろん今やってる曲も好きなんだけどさ。ミハラくんも好きなんだけどさ。でも、サエ子さんとのことは、やっぱり納得出来ない。ひどいと思う。だって……」
創はそこまで言うと、言葉を切って俯いた。高矢は創の背中を軽く叩くと、才の方に向き、
「オレも同じだよ。納得出来ない。付き合うのは勝手だけど、他の人の気持ちを考えろって言いたい。そのせいで、体を壊す人がいる……かもしれないのに」
明言を避けた高矢の優しさが、胸に沁みた。才は二人に向かい、はっきりと、
「あのさ。オレ、これからは、もっとメロディアスな曲をやっていきたいんだ。歌詞をもっと大事にしたいと言うか」
二人が頷く。
「でも、二人も今やってる曲が好きだろうし。全く違うタイプの曲をやるのって抵抗感があるかな、とか、いろいろ考えて。しかも、アスピリンっていうバンドは、そもそもミハラくんのバンドだし。オレがのっとるのもどうかと思うんだけど。オレは、二人とやっていきたいし、自分の思いを大事にしたい。オレが黙って我慢すればいい。ずっとそう思ってきたけど、今回のことで限界だってわかった。もう一度訊くけど、オレと一緒にやってくれるのかな?」
「やるよ。やらせてよ。オレは、サイちゃんと一緒にやっていきたい」
「オレも、スギちゃんと同じ。サイちゃんとやっていきたい」
二人の言葉に、才は、とうとう涙を落してしまった。
「ありがとう」
聞こえるか聞こえないかの小さな声で、やっと言った。




